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ある小説家をめぐる一冊 (富士見L文庫)
「潮時、か」田中庸は電車の中で独りごちた。出版社で働き始めて6年目。大御所作家を怒らせ、スランプ中の若き女流作家・些々浦空野に担当替えとなったのだ。
 一度は編集者としての未来に見切りをつけようとした庸だが、空野のデビュー作に衝撃を受け、新作企画を持ちかける。しかし空野は“書いたことが現実になるため執筆できない”と言い出して……。そんなある日、庸は空野が描いた物語をなぞるように、奇妙な事件に巻き込まれる。
 若き小説家をめぐるビブリオ・ファンタジー、開幕!(裏表紙より)

面白かった! 大家族で育ち、剣道をやりながら弟妹たちの面倒を見ていた学生時代を持つ、顔がいいけれど真面目を絵に描いたような硬派な編集者、田中庸が、めんどくさくなったら食べなかったり、適当な服を着てごろごろしたり、得意なことは寝ることと豪語する作家、些々浦空野から原稿を取ろうとしながら、ご飯作ったり取材旅行行ったりお世話する話。
田中くんが、非常に面倒見のいいオカン体質の男の人で、ああもうこりゃいい人だな……と。愛が深くて熱いタイプで、実際に行動できる人って稀有だなーと思って読んでました。テント張る、って言った時、多分彼は大真面目で本気だったんだろうなあと。
そして、ダメ人間空野さん。このぐうたらな感じが、とってもリアルです。
物語は「書いたことが現実になる」という怪奇現象を交えつつ、田中と空野が編集と作家として信頼関係を結んでいくようになっています。この、田中くんの熱さがじいんとするんだよなあ……。自分以上に、自分の書いたものを大事にしてくれる人がいるって、救いになるように思いました。
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