読んだ本とか、漫画とか、映画とか、色々

カリエが産んだのは、女の子だった。ザカールの宿命に従えば、男児であったはず。これは新たな女神の思惑なのか? 戸惑いながらもカリエは我が子を守るため、再び逃亡生活に入る。一方、首都ガンダルクでは、女王バンディーカがその座を長女ネフィシカに渡そうとしていた。婚儀には妹グラーシカもルトヴィアより帰国し、国中が歓喜に沸き返る中、思いがけない謀略が着々と進行していた——。(カバー折り返しより)
まだまだ序盤ですが、回る渦の外側から取り込まれつつあるカリエ。運命が彼女を目指してやってくるというひたひた感を感じる巻でした。
カリエたちが逃亡生活を送っているところが、らしくて好き。というか、やっぱりおむつの下りとかリアルで! 大変だよなあ、洗濯物は特に……。
ユリ・スカナ王家の事情が回りだして恐い。これ、絶対大波が来るよね……血族の血で血を洗う争いになるんじゃないか。グラーシカが揺れているので頼むから裏切ったり自責の念でどうにかなったりしないでくれー! と叫ぶ。
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大祭のザカールを襲った大地震により、囚われの身からからくも逃れたカリエは、その身を挺して助けてくれたエディアルドとともに新しい旅を始めていた。胎内には、千人目のクナムとなるであろうリウジールの子を宿し、癒しきれぬ心の傷を負って……。しかし二人の逃避行を容認できない王バルアンは、執拗なまでにその行方をさぐろうとしていく。
流血女神伝シリーズ・最終章スタート!!(カバー折り返しより)
ザカールを逃れたカリエは、ユリ・スカナのイーダル王子の屋敷に身を寄せることになる。ザカールが女神の加護を失ったため、ザカールの民をエティカヤは飲み込もうとし、ユリ・スカナでは身体の弱った女王と王太子の確執が感じられ、カリエはそれらにまた巻き込まれようとする、という序章の巻です。
出産のあっさりさがリアルだよ! えてしてそういうこともあるよね経験ないけど! と思いました。なんだろう、すべてのことが女神や運命の導きによって、仰々しく語られるのも物語なんだけれど、あくまで地に足をつけている普通の人(精神的にはありえないほど強い)カリエのそういう日常の延長上にある物語が、やっぱりとっても面白い。

戦争で街を焼かれ、家も学校もみんな失ったぼく。東京の中学校に転校する当日、ぼくを迎えに来たのは、桜色に輝く不思議な飛行兵器とそのパイロットの少女、桜子だった。「乗れ、おまえの翼だ」——桜とリンクした戦闘機の適合者として選ばれたぼくは、桜子とともにその超兵器《桜花》のパイロットとなり、色気過多の先輩や凶暴な空母艦長に囲まれ、新しい仲間と災難続きの訓練、そして激化する戦争に否応なく巻き込まれていく。時を止め、永縁に舞い散る桜とともに、戦空を生きる少年少女の、美しくもせつない物語。(裏表紙より)
気付いた時には人と深く交流を持つことができなくなっていたぼく、仁川裕樹。国を分断した戦争(動乱と呼ばれている)によって両親を失い、戦線の移動とともに施設を転々としていた。次の行き先は九段下中学校。迎えが来るというその日、迎えにきたのは花弁のような機体の飛行兵器。そのパイロット、桜子。主要な登場人物が主人公を除いて女子ばっかりなので、ハーレム要素が感じ取れるのですが、それにしても悲しくて美しい物語でした……。
桜の木との適合者のみが、飛行兵器《桜花》のパイロットになることができる。今のところ全員が揃っていないので続きが読みたいと思うのですが、それにしても少年少女の眩さと切なさが胸にきて……。国やら大人の事情で振り回され、戦うことについて自問しながらも、大事なものと手を取り合っていこうとする彼らが本当に……眩くて……。
ヒロイン周りの設定も好きです。少女がそんな重苦しいものを背負って、強くあるのはとてもよいです。いい少年少女の物語でした。

月読——それは、人が亡くなると現れる“月導”に込められた死者の最期の思いを読み取る特殊能力者だ。投身自殺した女子大生の月導に残されていた殺人の告白。それは若者たちの錯綜する思いが招いた悲劇だった——。表題作など4篇収録。月読・朔夜一心が活躍する傑作ファンタジック・ミステリー。解説・大矢博子
月導(つきしるべ)という、人が死ぬと現れる、物体・現象などが存在する世界。月導の存在によって私たちの世界から分岐して、科学の進歩が遅れたその世界で、月導とそれを読み取る能力者によるミステリの短編集。読み始めからなんとなく違和感だったのですが、これ前作があるんですね。読まずとも問題なかったですが、読んでいた方が分かりやすかったのかもと思います。
全編とも、なんとなーく後味が悪い!笑 人の死とその最後に思ったもの、というものを扱っているせいか、最後まで気持ちよくめでたしで終わらないところが、いい味でもあります。でもやっぱりいい話を読みたかったですよ! ないわけではないんだけど!
月導というものがとてもいいものだと思いました。ミステリアスかつ、ファンタジック!

自衛隊演習場で、新兵器の実験中に暴走事故が発生。的場一佐率いる第三特別混成団が約460年前の戦国時代に飛ばされてしまう。一方、その影響と思われる虚数空間が日本各地に出現し、現代世界を侵食し始めた。的場たちを救出するため組織されたロメオ隊の一員として、救出作戦への参加を決めた元自衛官の鹿島は、タイムスリップで戦国時代へ飛ぶが、そこで待ち受けていたものとは!? 圧倒的スケールで贈るSF戦国アクション。(裏表紙より)
福井晴敏作品を求める人にはちょっと軽かったかな、という作品だったかなと思います。もっとどっしりがっしり、正義やら善悪やら人の尊厳やらを語ってくれるのが福井作品だと思うのですが、登場人物が多いのと短期決戦であることもあって、さっぱり終わってしまった。特に女性たちの事情がなんだかとってつけた感があって、どうしてだろうと首をひねる。もしかしたら私は怜という登場人物が嫌いなのかもしれない。
平成の文明を持ったまま消失した自衛隊の一団と、それらを救出、場合によっては対処するために送り込まれた鹿島たち。戦国時代で繰り広げられる戦い。爆発、キノコ雲、ヘリのホバリング、ランチャー、ミサイル、とほんまやったらえらいことやで! という爆発と音のオンパレードです。少々チープな印象を受けるのですが、それでも書ききったことがすごい。正直、もっと長く読みたかったと思う作品でした。

女三の宮の降嫁により、紫の上は源氏との愛にも世の中にも諦念を持つようになりました。そして、ひとつの密通事件が物語の様相を変えていきます。不義の子を抱きながら、源氏は晩年になって巡ってきた宿命を思うのでした。(カバー折り返しより)
紫の上を中心に源氏物語を追う三巻目、最終巻。いい歳になった光君の周りでは、結婚する子どもたちを中心になっていく流れになりつつある……という、源氏の君の最後の話です。
人が死んだり尼になったりすると惜しむ光君はやっぱり嫌いだ! と思いながらも、彼の才能や栄華を讃える向きが、この巻になるとがらっと変わって、深い諦めや悲しみに満ちてくるのがすごい。これは源氏の君というヒーローを讃えるものなんだと思っていた自分が間違っていた。(荻原さんのあとがきにもありましたが)だめな人間を観察するための物語だったのか!
源氏物語というと永遠のように思えていたのですが、主要な登場人物も死んでしまうし、移り変わるのだなあと深く感じ入った三巻でした。紫の上が亡くなるなんて思ってもみなかったよ……! そうして暮らしていきました、で終わるのだと思っていた。そして、ラストが憎い。なんて上手いんだろう! と感心しました。

「これは……竜岩石だな?」
大富豪・李大人の屋敷で働くことになった少年・李衛は、白家へ大事な書物を借りてくるというお遣いに出る。雨が降っているわけでもないのに、着ている物が濡れて重くなる。路地には蟹の鋏で首を挟まれた猫、人気のない白家では壁から一抱えもある魚が泳ぎ出て来て仰天。果たしてその魚は、白家のお嬢様? 不思議な話の数々、中国志怪風の“怪しい話”20話。解説は東雅夫。(裏表紙より)
中華風ファンタジー、幻想文学の短編集。読みながらなんだか既視感を覚えるなあと思ったら、話の雰囲気が今市子さんの描く漫画に似ているんだ。
ちょっと恐かったり、なんだったんだ? というオチだったり、そわっとする話が多いです。古い時代を思わせるものもあれば、少し近代的な雰囲気の話もある。その中で私が好きだったのは「ただならぬ娘」。
市場には何でも売っていると聞いて、父親のお嫁さんを捜しにきた少年。とある出来事で賢い犬を手に入れ、それに手を貸したなんだかただならぬ娘と少年の連れに出くわす。彼女にお嫁さんに来てほしいと頼むが断られる。なんでも彼女は今嫁に行く途中なのだそうだが、様子がおかしい。という話。
少年が主人公だったり御伽噺風味だったりするので、活動的な女性が出てくる話はやっぱりおっと思います。しかも彼女は非常に強い。
勝山さんの短編は本当に好きだなあと思います。この本も面白かったです。

「僕のすべてが、君のものだ」
わたしはアヤンナ。醜い娘。
「おまえのような娘を妻にする男はいないよ。市場で夫を買ってこなきゃなるまいね」
亡き祖母はわたしに向かってよくこういったものだ。
だからいまでもわたしは市場が大嫌い。家畜を買うように夫を買わなければ、だれも愛してくれないほど醜いといわれたことを思い出すから。
けれど、魔女のわたしが見つけた美しいひとは、奴隷市場で出会った“彼”だった——。
醜い魔女の娘と美しい奴隷の王子。瓦解する帝国の辺境で二人は数多の物語を紡ぐ。(裏表紙より)
インカ帝国を下敷きにした民族系ファンタジー、というのか。雷神の存在があり、魔女がいて、奴隷が売り買いされるワカの国。アイユと呼ばれる血族の共同体に、お荷物として一人暮らす少女、アヤンナ。顔の半分にやけどの跡を負い、祖母からは「市場で夫を買ってこなきゃ」と罵られるみにくい娘。そんなアヤンナが出会うことになった青年リリエンは、金髪碧眼、白い肌の、美しい異人の青年。辺境で潰されてしまうはずだったアヤンナの人生に、光が与えられる。そういう物語。
かたくなに、一人、誰にも手を伸べられず生きていかなければならない運命だったアヤンナと、一人で生きることを知らなかったリリエンの不和、理解、寄り添い合いがとても丁寧で、苦しくて優しくて、すごくいい物語でした。
上辺だけで優しい言葉をかけられるヒーロー、は確かにとても甘くて素敵なんですけれども、リリエンのように傷ついてみにくいものを抱えているがゆえに、ひたむきに言葉を、アヤンナの言うようにそんなことありえないというような言葉を用いて伝えようとする、リリエンのまっすぐさに感動する。傷ついている二人が一緒にいるところが、すごく素敵だ。
結末に向けてはちょっと急展開でしたが、ラストがとても満足でした。そう、この物語は、まだ神様の存在を語れる時代の話だった。
表紙も素敵だし、帯もすごく素敵で、書店で一目惚れしていつか絶対読もうと思っていたので、読めて本当によかった。私の嗅覚も鈍ってないな! と自賛する。

いくさに明け暮れる戦国時代、武家の娘として生を受けた女性たちもまた、「それぞれの戦い」を繰り広げていた。関白秀吉の側室となった豊臣家とともに滅びた淀殿、政略結婚に翻弄されながらも将軍夫人の座に収まったお江と、その娘・千姫、貧欲なまでに結婚を追い求めて幸せをつかんだ徳川家康の妹・多劫、鎧をまとって戦場に立った大三島の鶴姫……。乱世に生きた姫君を描いた傑作短篇七作。(裏表紙より)
海音寺潮五郎「岐阜城のお茶々様」、邦光史郎「海の女戦士(アマゾネス)」、早乙女貢「奥羽の鬼姫——伊達政宗の母」、安西篤子「泣き笑い姫」、野村敏雄「八丈こぶな草」、南條範夫「姫君御姉妹」、澤田ふじ子「千姫絵図」という短編が収録されています。どれの戦国時代の姫たちのお話です。
一番好きだったのは「泣き笑い姫」です。徳川家康の妹、多劫の、ふくふくとした図々しさと明るさが楽しい作品で、他の話の姫たちが翻弄されたり、憎しみの種を抱えていたりする中、強く生きる女性らしさが面白くて。武家の姫だからといって、悲嘆ばかりではないし、受容ばかりではないと思うのです。ちゃっかりしている多劫は、だからとても素敵だった。
戦国時代は、どうしても有名人だとイメージが先入観になってしまい、しっくり来ないと本当に最後まで違和感が残ったままなので、その違和感を解消してくれる話だったり、名もなき人たちや、それらしい人の話が、面白いと思います。時代小説や歴史小説ってあんまり読まないけれど、これから読んでいきたい。

ノアがデ・コスタ家を裏切った。当主のエミリオも爆弾事件に巻き込まれ、組織は崩壊寸前! ロザベラはノアへの思いを断ち切ろうと、ダリオのプロポーズを受ける。しかしロザベラとダリオの婚約をきっかけに、敵対組織アリスタ・ファミリーとの全面戦争が秘密裏に計画されていて!? 「デ・コスタの女」として生きることを決心したロザベラが、家族を守るために取った選択とは!? それぞれの運命が交差する、激動のシリーズ完結巻!(裏表紙より)
シリーズ五巻目、完結巻。面白かったー! いいなあ、悪女として生きる、弱くて震えているけれどしたたかな女の子! 悪事に手を染めた瞬間に官能的になる一巻目からロザベラの可愛さや強さは目覚ましかったですが、家族のために、と立ち上がる姿は、最終巻にふさわしいヒロインの立ち姿だったと思います。
三巻くらいからダリオダリオと感想を書きましたが、こうして最後に辿り着くとやっぱりノアでよかったかな。ダリオは本当に変わったし、ばかわいくなって、ちゃんと守りたいものを間違えない子でした。エミリオは一貫していけない大人でしたが、彼なりに大事なものを守ろうとした挙げ句の悪事なので、もしかしたら対立する未来があるかもしれないけれど、ロージーの今後に期待という感じでしょうか。
ラストよかったかわいかった! 未来の家族のことまで大事にすることができるのが、これからのデ・コスタの女だ。