読んだ本とか、漫画とか、映画とか、色々

「小説トリッパー」に初出された十の短編。現実と非現実の狭間、夜と昼のあわいにあるような空間の物語。
幻想には種類があると思いますが、この本の多くは、不安な幻想であるのかな、と思います。
どこにも向かっていない、あることを書いただけのような話もあれば、恩田陸作品らしい、少しブラックユーモアがきいた話、それでいて、少し不思議な話があったりもする。
夜と昼のあわい、というのは、朝方、まだ夜も明け切らぬ時間なのでしょうね。ふとうたたねをして、はっと目覚めた時、自分がどこにいるのか分からないという一瞬の不安と、妙な覚醒感と睡眠を欲して鈍い思考。その時に見ていたかもしれない、と思う夢。そんな短編の数々でした。
好きなのは、「Y字路の事件」「窯変・田久保順子」。「Y字路の事件」が、少し不思議な話で好きでした。田久保順子は、もう、ブラックでたまりません。それでもやっぱり皮肉でおかしい。
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ミステリアス学園ミステリ研究会、略して「ミスミス研」。ミステリは松本清張の『砂の器』しか読んだことがない、新入部員・湾田乱人が巻き込まれる怪事件の数々。なぜか人が死んでいく。「密室」「アリバイ」「嵐の山荘」……。仲間からのミステリ講義で知識を得て、湾田が辿り着く前代未聞の結末とは!?
この一冊で本格ミステリがよくわかる——鯨流超絶ミステリ!(裏表紙より)
おすすめということで借りた本。
そんな結末ありですかー! というのが読み終わった第一声。
入れ子構造ものはすごく好きで、話の順々にどれが本当だろう、誰が「存在している」んだろう、と考えるのがすごく楽しかった。ミステリ講義は、勉強してきます! と思いつつ、会話が不自然でちょっと笑ってしまいました。構造上仕方なくて、それもまたすごく味だと思いました。
犯人はすごくすごくすごーく意外なのですが、いやでも、そんな犯人の存在って、すごくロマンだよなー!
面白かった!

いまはなにもしていず、夜の散歩が習慣の19歳の私こと子、おっとりとして頑固な長姉そよちゃん、妙ちきりんで優しい次姉しま子ちゃん、笑顔が健やかで一番平らかな‘小さな弟’律の四人姉弟と、詩人で生活に様々なこだわりと持つ母、規律を重んじる家族想いの父、の六人家族。ちょっと変だけれど幸福な宮坂家の、晩秋から春までの出来事を静かに描いた、不思議で心地よくいとおしい物語。(裏表紙より)
不思議な印象の物語でした。家族六人に流れる時間はみんな同じだと感じているのに、何故か、どこか、血の繋がりが感じられないという、変な印象を持ちました。あまりにも、個々が独特すぎるからかな。まったりのんびり、独自のペースで歩むこと子の視点だからか、本の中の世界がふわんとした時間の流れを感じさせて、ずっと同じ調子でページをめくりました。
事件が起こっているはずなのに、事件の印象がない。みんな独特なのに、六人揃うと「平らか」。そんな物語でした。

衝撃の辞令を受けて泣く泣く「季刊落語」編集部の一員となった間宮緑は、牧編集長の洞察力に感嘆しきり。風采は上がらず食べ物に執着しない牧だが、長年の経験で培った観察眼に物を言わせ、しばしば名探偵の横顔を見せるのだ。寄席の騒動や緑の友人が発したSOS、山荘の奇天烈も劇的な幕切れはご覧の通り。意表を衝く展開を経て鮮やかに収斂する、妙趣あふれるデビュー連作集。(裏表紙より)
日常の謎ミステリ×落語、というモチーフが好きなので、手に取ってみた。
緑と牧編集長の人となりは若干薄い感じはありますが、落語と落語界の人間模様や関係性に比重を置いて描いている感じがしました。芸の世界、というのか、そこにある普通とは少し違う上下関係や、好敵手関係が独特だと思うので、それ故に起こる事件の物語が、収録されている作品には多かった。
でも私はどちらかというと、落語の一つと比喩として絡めた「不機嫌なソムリエ」が一番好きだったかなあ。人間と夢と、小さな謎。これが一番日常の謎に感じました。

こんなにも身近なところに、古典の世界が息づいている。私たちの人生そのままに、かつて、生きて戦い愛した人々がいる。——「古事記」「萬葉集」から若山牧水まで、民族の遺産として私たちに残されたおびただしい古典の中から、著者が長年いつくしんできた作品の数々を、女性ならではのこまやかな眼と、平明な文章で紹介し、味わい深い古典の世界へと招待してくれる名エッセイ集。(裏表紙より)
友人の好きな本と聞いて、読んでみようと思って積んでいた。
古典が好きになりそう! という一冊でした。どうしても、古典は現代と文章が違うことで苦手意識を持っていて、実際苦手で全然読めないのだけれど、でもこうしてどう読んだのかというのを知るのはとても楽しい。こうしてみると、古典作品に取り扱われている恋愛って、とても人間性が現れるものなのだなあ。
「万葉集」のものが一番好きです、なんだか。冒頭から額田女王の話できゅんとしました。磐之媛の話も好きだ。
古典の勉強が一段落したら、読んでみるのにいいかもしれない。

中学に入学したばかりの菜穂は、「もう子どもじゃないって思ったときって、いつだった?」と話しかけてきた亜矢と仲良くなる。彼女と一緒に図書室に通いつめるなどして学校生活を送る菜穂。しかし、13歳の誕生日にママが「爆弾発言」をしたことで、状況は一変した。ママとは強い絆で結ばれていると思ってたのに……。注目度急上昇の作家・石井睦美の心温まる一作、ついに文庫化!〈解説・今江祥智〉(裏表紙より)
これ、すごくときめいた。いい女の子。いい少女予備軍。
私の少女の定義は少し薄暗いところなので、まだ少し純粋な菜穂はまだ女の子。対して亜矢は少女。そういうイメージで読みました。
中学云々からいじめの物語かなあと思っていたのですが、そんなことはなくて、女の子のための物語。親の理不尽に振り回されるという薄暗さも存在せず、先生の存在も、クラスの存在もほとんどなく、成長に焦点が当たっている。伸びやかな、心の成長が見て取れる。光のある方を見つめている、菜穂や亜矢やママの存在が、とても物語を温かく優しい雰囲気している。そんな印象でした。
ラストの先生との話がとてもいい。ガラスの靴じゃだめなのね、という先生も、本当に少女だ。
すごくすごく好きでした。優しい成長物語がお好きな方におすすめです。

法皇との謁見中、突如巻き起こった竜巻の中、姫総長シーカの身には異変が起き、〈黎明の使者団〉は離散した。団員たちは、団長不在のまま、それぞれの道を歩き始めていた。ハルセイデスの残した「生きのこる道だけを考えろ」という言葉を胸に。しかし、シーカを狙う闇の勢力の遠謀は、着々とその輪を狭めていた。そして、ハルセイデスと共に市井に潜むシーカに決定的な変化が現れ…!?(裏表紙より)
クライマックス目前のグラマス。前巻はシラスの存在に話が持っていかれた印象でしたが、今回は闇の勢力の存在がはっきりと浮き彫りになっている感じでした。
シーカの変調が明らかになったことにもびっくりで、同時に、シーカの望みを口にした際のハルさんの思いも書かれており、序盤から切なさがきゅんきゅんでした。
団員たちの行方が心配ですが、アスティルの位置がどうも危なげで特に心配です。でも、きっと最後にはみんなが集ってくれると信じている。
神については、神は光と闇、善と悪のように表裏一体だから、そういう解釈になるのかなあと思いつつ、どういう結末か想像が全然つかないので、続きも楽しみにしています。

明治四十五年から大正十五年に至るほぼ大正期に発表した代表的短編を集めた。「母の死と新しい母」「清兵衛と瓢簞」「正義派」「小僧の神様」「好人物の夫婦」「雨蛙」「焚火」「真鶴」「山科の記憶」「痴情」「瑣事」「濠端の住まい」「転生」「プラトニック・ラヴ」を収める。
作者の生涯におけるもっとも実りの多かった時期の、充実した作品群。(裏表紙より)
読んだまま積んでいて、集英社文庫で買ったものを読んだのでそのまま放りっぱなしにしていた一冊。
やっぱり「清兵衛と瓢簞」「小僧の神様」が好きだなあ。ちょっと童話っぽいものが好きなのだ。
「清兵衛と瓢簞」について注釈が会ったので、これを先に読んでいたらなあとちょっと後悔(私のゼミ発表の担当はこれだったのだ)(時系列まとめだったから、そこまで詳しく調べなくていいと言われたけれども)

駅前商店街のはずれ、赤い鳥居が並んでいるあたりに、夕暮れになるとあらわれる不思議なコンビニ「たそがれ堂」。大事な探しものがある人は、必ずここで見つけられるという。今日、その扉をくぐるのは……?
慌しく過ぎていく毎日の中で、誰もが覚えのある戸惑いや痛み、矛盾や切なさ。それらすべてをやわらかく受け止めて、昇華させてくれる5つの物語。〈解説・瀧 晴己〉(裏表紙より)
とてもとても素晴らしかった! すごく好きでした。
現代ファンタジーの短編を収録。村山さんの風早街シリーズの位置づけですが、地域を同じくしているだけなので、まったく分からなくて大丈夫。
素直になれなかった男の子、情緒不安定な母親を持つ女の子、ラジオパーソナリティの女性、拾われて幸せだったはずの子猫、そして赤いランドセルの女の子とテレビの物語。
男の子の物語は子どもらしい素直さの物語だし、母親との関係に悩む女の子は現代を現しているし、DJの女性は時間の物語で、子猫は幸福、女の子とテレビの物語はアニミズム的。すごく幅広くて、そのすべてが優しい。
特にDJの女性の一編に、何故だか一気に涙があふれてきてしまいました。
今の仕事は充実しているけれど、それでいいのだろうかと思い悩む桜子。結婚しないのかと両親に言われることもあり、言葉に空しさを覚えていた。ふとした時「たそがれ堂」が現れ、桜のストラップを手に入れたが、すると、身の回りで不思議なことが起こり始める。
これは職業を変えているだけで、村山さんご本人のお気持ちなのかな、と思ったこともあるかもしれません。時間を超えるものの存在が、すごく愛おしかったこともあると思います。すごくすごく優しくて、好きだなあと思いました。

とある中学2年2組の35名。そのうちの20人の物語を綴った連作短編集。
心に響きすぎてしぬかと思いました。とある一クラスの姿が、20人それぞれの語りによって浮かび上がってくるのです。そして、中学生に存在する幼さと打算と不満と恋。どちらかというと恋がメインの物語のはずなのに、私が感じたのは、等身大の幼さでした。
豊島さんって、ものすごく、心が幼いがためのすれ違いをリアルに書く、と思いました。果歩と健次、エリナと晴一なんてその典型みたいな印象を受けました。
そして一番読んでいて幼いと思ったのは、恋愛模様がほとんどクラスの中で完結してしまっていること。世界が、とても狭い。
物語の女子が特に私自身のリアルに響いて、恥ずかしくて顔を覆ってしまいそうになりました。
帯があるのですが、
甘酸っぱい。ほろ苦い。だけじゃない——
あなたの”あの頃”をうずかせる
不慣れな恋の物語
本当に、過去がふるふると震えている感じでした。