読んだ本とか、漫画とか、映画とか、色々
この優しい物語をすべての働く人たちに
ブラック企業にこき使われて心身共に衰弱した隆は、無意識に線路に飛び込もうしたところを「ヤマモト」と名乗る男に助けられた。同級生を自称する彼に心を開き、何かと助けてもらう隆だが、本物の同級生は海外滞在中ということがわかる。なぜ赤の他人をここまで? 気になった隆は、彼の名前で個人情報をネット検索するが、出てきたのは、三年前に激務で自殺した男のニュースだった——。スカっとできて最後は泣ける、第21回電撃小説大賞〈メディアワークス文庫賞〉受賞作。(裏表紙より)
ブラック企業で働く会社員が、線路に飛び込もうとしたところで助けられた自称元同級生の男と過ごすことで、仕事を辞めようと一歩踏み出すまでのお話。
隆の状況や与えられている仕打ちはきついんですが、全体的にさらっとしていて読みやすかった。隆は素直だし、ヤマモトはいいやつだし、これからの二人が楽しく生きてくれることを祈る。
出版社の校閲部で働く河野悦子。彼女の周りの人たちにもそれぞれ悩みや驚くべき過去が! 他社から引き抜きオファーを受けたファッション誌編集者・森尾。彼氏に仕事を理解してもらえない、カタブツ文芸編集者の藤岩。文学賞落選で荒れる作家に対応する、悦子の天敵(!?)貝塚。同僚のお洒落男子、エリンギ似の部長、悦子を気に入るベテラン作家など個性的な面々が大活躍。仕事への活力が湧くワーキングエンタメ第2弾。解説・唯川恵(裏表紙より)
『校閲ガール』の裏で、各々が何を考えて、どんな状況にあったのかという番外編。個性的な登場人物が、各々の考えや信念でもって悩みや過去に向き合う。
意外だったのは部長の過去。ああ、きっといるよねこんな作家……という強烈な書き手との過去がひりついて、だからいま部長はこんなに穏やかな人になったんだなと思いました。しかし意外と男性に向ける視線がきついな! 女性に対する視線はわかるわかるとなるんだけれど、結構男性に厳しい。だがそこがいい。
物が人の形を取った者《霊器》を治す霊医として、独り立ちしたばかりの少女・月瑛。新しい患者は、国の宝剣が本性の美青年! 西洋風の衣装をまとった彼は異国から贈られた宝剣で、治療しないと国の一大事になるらしくて……。王宮で王の妃の振りをしながら治療をしてほしい? 宝剣様は治療を受ける気が皆無だし、その上、舞まで披露することになるなんて難題ばかりなんですけど! 剣が本性の青年と霊医の少女の中華風お仕事ラブ!!(Amazonより)
中華風ファンタジー。付喪神のような存在、霊器を治療することのできる霊医の少女が、国宝を治療するために才人にさせられて、さらには剣舞で吉兆を呼ばなければならなくなる。
一生懸命な月瑛は霊医にも関わらず、妃嬪が舞うような剣舞をやれと言われて頑張ってしまうくらい一途な子なんですが、その分、治療される側の紫月が頑な過ぎて、もうちょっとデレていいのよ! と何度叫んだか笑
中華風なので洋装が出てくるところにときめきました。異国の格好をするのいいですよね!
酔いつぶれて起きた翌朝。ホテルの一室で目覚めたミサの隣には裸の男が。その男は、過去にミサをコケにしたいけ好かない男・ウエハラ! フツメンの分際でなぜここに!? 猫かぶり女子VSフツメンの告訴ラブコメ!(Amazonより)
ハイレベルないい男との結婚を目指すミサは、とある理由からやけ酒を煽り、偶然再会した合コン相手のウエハラと飲み、飲みすぎて目覚めたらホテルで二人全裸で眠っていた。過去にあることを嘲笑されたウエハラに今回もこけにされ、怒りのあまり「訴えてやる!」と言ったものの……というところから始まる、素直じゃない二人のラブコメ。
ミサの性格がだいぶとこじれている……笑 男ウケする格好で釣れないなら別の方法をとればいいのに意固地だなあ。ウエハラがそんなミサを見出してくれて何よりだった本当に。
ウエハラの大事なところでしっかり締めてくれるところや、ちゃんと「見ていてくれる」感がよくて、最高にいい男だなと思いました。
江戸末期の絵師・月舟が描いた妖怪画には、本物が封じ込められているという。そして現代。月舟の子孫・詩子は、美大に通う学生だが、もうひとつの顔があった。散逸した月舟の妖怪画を探し、憑きものを落とす家業を継いでいたのだ。幼馴協みの青年・七森が持ち込んだ情報によると、月舟の絵を所有する画廊のオーナーが足を火で炙られるような痛みを訴えているらしく?
天才絵師・月舟が描いた絵にはモノノケが棲んでいる。(裏表紙より)
古めかしい部分の残る京都。人との繋がりが下手な少女絵師、幼馴染の青年、二人のこじれた関係。愛よりも深い思い。執着。絵を描く、高みに行くという苦しみ。色んなフェチズムが詰まっているなあと思いました。
詩子と七森のちょっと時代錯誤感のある喋り方ややりとりが好きです。全然違う世界の話みたいなのに、大学や美研があるのが現代っぽくて、なんだかあわいにいる読み心地。どこかで覚えがあるなあと思ったら、あれだ、現代舞台のオカルトものを読んでいる感覚に近いんだ。芸術を扱っているせいなのかな。
詩子と七森の関係もいいんですが、ぞわっとしたのが詩子が母親の病室に持っていく花。詩子の心が常に揺れているのが感じられてうわーっと思いました。
リストラされた加瀬は、強面なパン屋の店主・阿木に声を掛けられ、バイトをすることに。無愛想で人との付き合い方が分からない加瀬にとって、店の温かな雰囲気は馴染みがなく、戸惑うばかりだった。けれど火事に遭って阿木と同居することになり、彼の優しい手にどうしようもなく惹かれていく。優しくされればされるほど阿木に依存してしまい、溢れそうになる感情に加瀬は……。(裏表紙より)
これも良き「傷ついた人の恋」を描いた作品だった。
加瀬は施設育ちで、人との距離の取り方が不器用だ。かつての恋人を束縛した挙句、暴力を振るったこともある。リストラされたことでますます内側に閉じこもる加瀬は、ある日通りすがりのパン屋さんの店主に声をかけられて働くことになった。
阿木のキャラクターがまたいいんですよねえ。ちょっととぼけたような、気遣いのできる優しい人。この人の明るさやスルー力はきっと加瀬を救ってくれたんだろうな。最後の短編がすごくめろめろでにやにやしてしまいました。
不器用で傷ついた人たちの描写がものすごく好きだなと思ったので、著作をこれからも読んでみたい。
文四郎は幼馴染と剣道に打ち込みながら、隣家の娘ふくに淡い恋心を抱いていた。しかし主家の権力争いに父親が巻き込まれ、家は落ちぶれ、文四郎は罪人の子と蔑まれるようになり、ふくもまた藩主の元へ奉公に出ることとなり離れ離れとなる。成長した文四郎はひとかどの剣士になったが、その頃、再びお家騒動が起こり……。
藤沢周平の小説が原作。原作は未読ですが読みたいなあと思わせる美しい、風情のある作品でした。
正しい人であった父が無残にも切腹させられ、家が没落し、罪人の子と蔑まれながらも、剣の道に打ち込んで周囲からも認められる剣士となる。この設定だけでロマンだ。ちょっと鬱屈した感じがありつつも、剣が作ったまっすぐな芯があるように見えるから役者さんはすごいなあ。
そして多分みんなこの、叶わぬ恋とその行方が好きなんだよな。私も好きだよ……。二人きりになれてようやく、もう二度と結ばれない思いを確かめ合うラストシーン、情緒に溢れていました。