読んだ本とか、漫画とか、映画とか、色々

仕事も人間関係もうまくいかず、毎日辛くて息が詰りそう。23歳の千鶴は、会社を辞めて死ぬつもりだった。辿り着いた山奥の民宿で、睡眠薬を飲むのだが、死に切れなかった。自殺を諦めた彼女は、民宿の田村さんの大雑把な優しさに癒されていく。大らかな村人や大自然に囲まれた充足した日々。だが、千鶴は気づいてしまう、自分の居場所がここにないことに。心にしみる清爽な旅立ちの物語。(裏表紙より)
日常から別の場所で日々を越えて、心を癒して旅立っていく、というのは「西の魔女が死んだ」と同じシチュエーションだと。「天国はまだ遠く」は大人になって疲れた女の子に向けられた小説、なのかな。
田村さんの方言が更に癒しを呼び起こす感じがした。「ラブアンドピース以外のことが聴きたかったら、吉幾三を聴けばええ。それ以外のことは幾三がみんな歌ってくれとるから」が、いいわ……と思った。若い人を「姉ちゃん」とか「兄ちゃん」とか、田舎のおっちゃんおばちゃんはそんな感じだよなあ。(四十代五十代の我が両親も、うちの近所の人にかかれば兄ちゃん姉ちゃんになる)(私はなんだろう、お嬢ちゃん?)
自殺をはかるところでえぐかったら絶対面白くなかったと思った。そんなこと全然なくて、ゆっくり流れる時間がなんだかいいなあと思えて、結論の出し方も納得できるもので、良い物語だった。
これ読んで気づいたけれど、瀬尾さんって教員だったんだ。「図書館の神様」で抱いた印象がぐっと強くなった気がする。
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姓は〈覆面〉、名は〈作家〉——本名・新妻千秋。天国的な美貌を持つ若干19歳の新人がミステリ界にデビューした。
しかも、その正体は大富豪の御令嬢……ところが千秋さんには誰もが驚く、もう一つの顔があったのだ!?
『推理世界』の若手編集者、岡部良介を混乱させながら、日常世界に潜む謎を鮮やかに解き明かすファン待望のシリーズ第一弾。お嬢様名探偵、誕生!(裏表紙より)
おかしな原稿が『推理世界』に送られてきた。とても面白いのだが、テレホンカードをよく分かっていなかったり、突然世にも難しい言葉が出てきたり、取ってつけたような手順のベッドシーンがあったり。編集者岡部良介は本人に会いに行くことになるが、そこはびっくりする大豪邸、出てきたのは執事、そして美しいお嬢様。
北村さんのミステリは大好きだ。テレホンカードというのがすでに過ぎ去った感じだ……。単行本発行が平成三年。妹が生まれてちょっとくらいだ。
設定だけ書くとライトノベルに出来そうだけれど、中身は飄々とした小説という印象がある。北村さんのコンビもののミステリに出てくる二人は、本当にテンポが良くて面白くてかっこよくてかわいい、素敵なコンビだ。
良介に双子の兄がいながら、お嬢様に内と外があるという対比が面白いなあ! もしどっちも双子だったら少女漫画だ。それもちょっと見たいとか思ってしまう。
面白かった! 続き探そう。

「美姫を守って単機敵中翔破、1万2千キロ。やれるかね?」レヴァーム皇国の傭兵飛空士シャルルは、そのあまりに荒唐無稽な指令に我が耳を疑う。次期皇妃ファナは「光芒五里に及ぶ」美しさの少女。そのファナと自分のごとき流れ者が、ふたりきりで海上翔破の旅に出る!? ——圧倒的攻撃力の敵国戦闘機群がシャルルとファナのちいさな複座式水上偵察機サンタ・クルスに襲いかかる! 蒼天に積乱雲がたちのぼる夏の洋上にきらめいた、恋と空戦の物語。(裏表紙より)
表紙が好きで買っていた。表紙のファナは本当に凛々しく麗しい。
夏の恋、ファンタジー編という感じ。結構分厚いけれど、あまり厚いものを読んだ気はしない。さらさらっと読めて、うん面白かったという感じ。一冊読み切りとしてはとても素敵だと。
男の子と女の子のパートは狙ってる感が若干あった気もするけれど、空戦パートが面白かった。プロペラ戦闘機というとなんだか真っ赤のイメージがあって、それに付随して空戦の派手さも某アニメ映画の感じで再生されるから、ビーグルとの決着はかっこいいなあと思って読んでいた。
ラストはとても綺麗だった。思わず表紙を見た。ラストらしいラストというのが本当にとても好きなので、青空と金色の夏が綺麗で嬉しかった。

父と母と兄に囲まれ、佐和子は普通の家庭にいたはずだった。だが母は家族と離れて一人暮らし、将来を有望されていた兄は農業に精を出し、父は父さんを止めると宣言した。それでも、佐和子は幸福な日々で大人になっていく。中学生から高校生の時間。
数年前に、映画のCMで、冬の夕方の道を女子高生がマフラーに顔を埋めながらただ歩いていくという画が、ずーっと頭の中にあって、先日映画が放送されたけれど見られなかったので、原作を借りてみた。
内容は、幸福。ぱあっと明るい幸福じゃなくて、しんしんと降り積もる幸福という感じ。「幸福な朝食」「バイブル」「救世主」は当たり前の日々で、突然襲ってくる「プレゼントの効用」にどきっとした。でもやっぱりこれも日々も積み重ねのひとつなんだなあと思ったりもする。
「大丈夫だよ」
「そう?」
「大丈夫。僕、大きくなるから」
「そっか。そうだね」
『プレゼントの効用』
大浦君の止まった時間と、弟君の進む時間。佐和子がそれを認めた瞬間にほろりとした。

文楽観劇のド素人三浦しをんが、いかにして文楽という芸能にのめり込んでいったかの記録
文楽見てみたいわぁと思う一冊だった(見事に釣られている)
しをんさんの、人形さんや三味線さんや太夫さんの観察がまた面白くて。UFOキャッチャーをする三味線さん、大リーグボール三号@巨人の星に例える三味線さんとか、それに対するしをんさんのツッコミがまた面白い(例:魂こめてキャッチしたい)
演目について書かれているのも、初めて文楽を見ようと思った時の参考になりそうです。「仮名手本忠臣蔵」や「女殺油地獄」がいいなあと思った。
「仮名手本〜」はそのまま忠臣蔵がモチーフになった話で、「女殺〜」は近松門左衛門の作。油屋の人妻が、別の油屋の放蕩息子に金を奪われて殺されるという話なのだけれど、この本で書かれる筋がとっても面白い! 放蕩息子は人妻に甘えている節があって、それが何故金を奪って殺すことになったのか、と考えさせられる話。放蕩息子の心理描写が意図的に省かれているらしくて、しをんさんの解説を読んでもとても面白い。
三浦しをんさんは「仏果を得ず」という文楽の世界を書いた小説も書いているので、また読みたいところ。

音と円田さんのミルリトン探偵局に、黒猫シンクのお土産によって、また新しい事件が。二つのパートが重なる、幸福な一冊。
前作は文庫本で貸して頂いたのが、今回はハードカバー。写真がいっぱいで綺麗。モノクロいいなあ。カラーも綺麗。
物語は前作同様、黒猫シンクの持ち帰るものから、音(おん)と円田さんが推理するというもの。推理といってもお話作りをすることなので、始終ほのぼのとして幸せな本だと思う。
音パートのひとつひとつ探していくような平和な日々もいいけれど、もうひとつのパート(勝手に物語パートと呼んでいる)の話も、つながりが見えて素敵だった。「ルーフトップ・パラダイス」を巡るお話になっていて、つながりというものにそそられる私としては大変幸せだった。
ちょっと登場する音楽を聞きたくなって父に聞いてみた。ら、ニール・ヤングは二枚だけ持っていて、「オンリー・ラブ・キャン・ブレイク・ユア・ハート」はなくて、ニール・ヤングよりもグループの(聞き取れなかった)方が父は好きらしい。なるほど。なんか、本から現実につなげていくのも幸せなことだなあと思うのでした。

七〇年代から日本社会の激動は童話の世界を大きく変えた。大人が子どもに与える教訓的な物語は影をひそめ、子どもの空想を刺激し日常とは別の次元に誘う幼年童話、ファンタジーの名作が生まれる一方、いじめや受験戦争に蝕まれる十代の心を繊細に描くヤングアダルト文学も登場。若い才能ある書き手達が大人と子どもの文学の境界を双方から軽やかに突破していった。山下明生、灰谷健次郎、江國香織、村上春樹等の名品二六篇。(裏表紙より)
先生が貸してくださった一冊。詩から童話から現代小説っぽいものまで。
現代小説っぽいもの、川島誠「電話がなっている」はこの人の短編集に収録されている。受験によってクラス階級が決まり、それが未来を決めるという時代の、彼と彼女の恋の話。暗い。「電話がなっている。君からだ」の文章から、電話を取らない「ぼく」がすぐに浮かび上がってきて、どうなるんだろうとびくびくしていた。中学生高校生くらいで初めて読んだ時は、かなり怖かった。ダークなものを書く人なんだなあと思って読み返してなかったけれど、久々に読んで、面白いなあと思った。
池澤夏樹「絵はがき屋さん」が良かった。どこかの島の海の青色が見える気がした。本当に『その時だけの魔法』が描かれていて、現代の童話だなあとか。
江國香織「草之丞の話」は「つめたいよるに」にも収録されている。この話も好きだなあ。お母さんと草之丞の出会いが見たい。
書影貼る時に気付いたけれど、この本ちょーたけー!! 1400円もするのか!

短編集。「永遠に完成しない二通の手紙」「裏切らないこと」「私たちがしたこと」「夜にあふれるもの」「骨片」「ペーパークラフト」「森を歩く」「優雅な生活」「春太の毎日」「冬の一等星」「永遠に続く手紙の最初の一文」
恋愛にまつわる短編集。全体の雰囲気はいいのだけれど、「風が強く吹いている」の明るさの方が好きだ……。
「永遠に〜」二作は同じ世界観。男→男の話で、ショートショート。軽くBLかあと思っていたら、次の「裏切らないこと」がえらい始まり方をしたので、これは読むの失敗したかなあと思ったけれど、段々面白くなってきた。前園さん夫婦のエピソードに切きゅん(切なさきゅん)した。
「私たちがしたこと」は王道、直球で来て怖かった。一人称を意識しているのか、後半の文章が「〜している」形になっているのが気になった。
「夜にあふれるもの」は女→←女の話。ダーク。でも嫌いじゃない。結構好きかもしれん。
「骨片」は教え子→先生。骨をこっそり持っておく話。嫌いじゃない。好きだが、ラストはちょっと嫌だな……。他人の骨と混ぜるのか……。
「ペーパークラフト」は夫婦のところに夫のかつての友人が現れて、という三角関係もの。ダーク。大人向けな雰囲気が。ドラマや漫画みたいな終わり方。理由は「私、妊娠したかもしれない」の台詞。
「森を歩く」「優雅な生活」はコメディチックな雰囲気が流れていて、にこにこして読んだ。
「春太の毎日」は面白かった! 一番好きかも。拾われた男と拾った女とその恋人(誇張)の話。純愛。オススメ。
「冬の一等星」も好きだ。車中で眠るくせを持った少女が、突如現れた男に車を奪われて、短い誘拐をされる話。
信じる? と文蔵は聞いた。何度聞かれても、私は信じると答えるだろう。それを教えてくれたのは文蔵だ。
(中略)
八歳の冬の日からずっと、強く輝くものが私の胸のうちに宿っている。
「冬の一等星」
何も解決していないけれど、救いがあるというのか。そういう感じがたまらなく好きだ。

アメリカの代表的な作家、レイ・ブラッドベリの自選SF短編集。
「アンリ・マチスのポーカー・チップの目」「草原」「歓迎と別離」「メランコリイの妙薬」「鉢の底の果物」「イラ」「小ねずみ夫婦」「小さな殺人者」「国家短距離ランナー」「すると岩が叫んだ」「見えない少年」「夜の邂逅」「狐と森」「骨」「たんぽぽのお酒」「万華鏡」「日と影」「刺青の男」「霧笛」「こびと」「熱にうかされて」「すばらしき白服」「優しく雨ぞ降りしきる」
先生が「たんぽぽのお酒がいいよ」と仰ったので借りてみた。
言い回しがとても素敵。
さあ、典型的なガーベイのだんまりが始まった。そこに坐っているのは世界一の沈黙の生産者であり配給業者である。彼に注文すればたちどころに沈黙をパッケージし、咳払いとささやきで紐をかけ配送してくれるのだ。沈黙の品数も豊富だ。当惑、苦痛、平静、平穏、無関心、幸福、金色、神経過敏などいろいろある。これらの沈黙の山のなかにガーベイ氏は坐っているのだ。
「アンリ・マチスのポーカー・チップの目」
話の終わり方も、どきっとするもの、ほうっと息を吐くものがあって、とても好きだった。
「たんぽぽのお酒」は連作で、その中の表題作「たんぽぽのお酒」が好き。たんぽぽのお酒の描写がとても綺麗。
「国家短距離走ランナー」はこれこそ映画みたいで面白かった。
この本の中で一番好きだったのが「万華鏡」!
ロケットが爆発して宇宙に散り散りになった船員たちは、かろうじて電話で繋がれるものの、向かう先は宇宙の塵だった。感情が暴走し、最後の瞬間誰かを傷付けたり、無気力になったりする船員たち。そしてホリスは……。
「願いごとをするのよ」母親がいった。「願いごとを」

買ったばかりの赤い靴をはいたら、魔女と体が入れ替わってしまった…!?
14歳のルナを突然襲った不幸、それは『赤い靴の呪い』だった! 魔女の森に放り出されたルナは、ワガママだけど顔はいい猫耳男と、ダンディなネズミと共に、元に戻るための魔法のダンスを探すことになるが…。
大魔女の体を持った気弱少女と、自称使い魔の猫耳ヒーロー+最強のネズミ。1人と2匹が奏でる、マジック★ファンタジー開演!!(裏表紙より)
購入した理由の大きなところを占めるのは、ネット出身の古戸マチコさんの本だからと、文庫が好きだからと、イラストがカズアキさんだからということ。
面白かった! ルナががんばっていくところとか(すごいよ、あんなになるんだぜ……)、俺様ヘタレのノーチェのかわいさとか(ニャン、チュー、スリー!)、最強なネズチューのかっこよさとか!(紳士的でいられない時があるネズミ)しかしネズチューをつい金色で想像して「ウフコック……」と呼びたくなるんだぜ。
ああ、本当にネズチュー好きだ。とろりとした声で名前を呼ばれたい。
「これ以上の幸せはない」の意味が分かったとき、ぞくぞくしました……。とても楽しくてときめきな小説でした!
今気付いたけど、ピエナの家の挿絵で、外風景のトーン貼ってるのがすごい! はあ、イラスト本当に好きだわー。