読んだ本とか、漫画とか、映画とか、色々

俺は今昔亭三つ葉。三度のメシより落語が好きで、噺家になったはいいが、目下前座よりちょい上の二ツ目。自慢じゃないが、頑固でめっぽう気が短く、女の気持ちにゃとんと疎い。そんな俺に話し方指南を頼む物好きが現われた。でもどいつも困ったもんばかりで……歯切れのいい語り口で、言葉にできないもどかしさと不器用な恋を描き、「本の雑誌が選ぶ年間ベストテン」第一位に輝いた名作。(裏表紙より)
面白かった! 文章のひとつひとつが小気味よくて、読んでいてすごく気持ちがいい。ヒロインの十河を描写するとき「猫」とか「黒猫」とか「黒猫の凍死体」などと表現が幅広くて面白いなあと思う。
みんな何かしら自信がなく、傷を持っていて、けれど寄り添いあうのではなく、集まって自分でひたすらに何かを掴もうとする姿勢がいい。気が短い主人公の三つ葉が、情に厚くていい。劇的なことはなかなか起こらないし、みんな悩んでばかりだけれど、最後まで読むとほっと息がつける物語でした。
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文芸編集部の新人・小田雪哉は、そのやる気とは裏腹、可憐な容姿を揶揄われ「身体で原稿をとる」と噂を立てられ悩んでいた。理想と現実のギャップにため息ばかりのある日、スランプ中の作家・大城貴彦を担当することに。足繁く通ううち、格好よくてイジワルな大城を小田は作家として以上に意識してしまい、大城にも秘めた想いがあるようで……?(裏表紙より)
出版業界もので、顔のかわいい新人編集者が受け。スランプ作家が攻めです。二人の恋路というより、ちょっとだけ描かれる出版業界での雪哉のサクセスストーリーの方が面白くてもっと読みたいなと思いました。
しかし雪哉が乙女だな……! こんなにかわいい男の子でBL小説……奥が深いなー。

新作アニメ「ダグリアンサーガ」のキャラコンテストで最優秀賞を受賞した靖子。彼女のもとに送られてきた村娘アーダのフィギュアは、最新テクノロジーで自在に動き、設定に応じた感情まで持っていたが……。少女とフィギュアの優しく切ない交流を描き星雲賞を受賞した表題作、高校在学中に発表されたデビュー作「ブルー・フライト」、文庫初収録のファンタジイ「月かげの古謡」など、初期傑作8篇を収録した待望の作品集(裏表紙より)
短編集です。どの作品も素晴らしいお話で大好きになった!
共通しているのはSFが絡んでいるということ。宇宙だったり機械だったり遺伝子操作や試験管ベビーだったり。一番最初に収録されている「雨の檻」からしてもう悲劇的な予感がしてならなかったのですが、オチにびっくりして、やられた! と思いました。多分そうなんだろうと思っていたんだけれど、そこに容赦なく時間の流れを示してみせるか!
表題作の「そばかすのフィギュア」は心温まるお話で、優しくて。フィギュアと生活する日々がとてもいいなあと羨ましく思う。靖子がフィギュアの村娘アーダと自分と重ねあわせていても悲観的なところはあまり感じられなくて、小さな子どもと母親を見ているような気もする。暖かいまなざし。文庫版の表紙が温かで、読んでから眺めてみるとすごくいい。
大好きな作品集になりました。おすすめです。

睡眠薬、シャブ、アヘン、幻覚サボテン、咳止めシロップ、毒キノコ、有機溶剤、ハシシュ、大麻やLSDもあれば、アルコールもある。ドラッグのオンパレードである。著者自らが体験したリーガルなものもあるし、話に聞いただけのイリーガル・ドラッグもある。古今の作家の生活や名著などもひきながら、話は「人はなぜ快楽を求めるのだろうか」へと進む。煙の向こうにひとの本質が見え隠れするような傑作ドラッグ・エッセイ。(裏表紙より)
ものすごい話ばかりだと思いました……。というか怖いな。
動物実験して滔々と書くより自身で体験してみないと分からないものの一つがドラッグであるのだなと思う。確かに、どう感じるのか、見えるのかを知る方が大事な気もする。興味を引いて、間違いを犯してしまうのはいけないけれども。
ドラッグを体験して見えるものの描写や、人から聞いた話が、不気味で幻想的な話のように思えてちょっと後ろめたくなる……のは、ドラッグに対する私自身の恐怖感からかな。
改めて表紙(文庫本の)を見てみると、これが全部ドラッグの絵なんだと知ってちょっとぎょっとした。

「チョコレートの代価は、君の初めての夜だ——」姉のお供で訪れた超有名ショコラティエ一宮雅人が経営するカフェで、夢のように美味しいチョコレートを口にした大学生の浅野葉平。「もう一度あのチョコレートが食べたい」と思う葉平だけど、女性が群がるその店に一人で訪れる勇気もナシ。そんな時バイト先で偶然、一宮と出会う。ところが「直接チョコレートを買わせて欲しい」と懇願する葉平に、一宮は「チョコレート一つにつきキス一回。勿論、唇以外にも」なんて条件を出してきて!? 貴方を恋の虜にする、スペシャル・ラブレシピ♡(裏表紙より)
甘党を隠している大学生の葉平と、ショコラティエの一宮のお話。視点が交互に行き来するけれど、文体が軽いのでそんなには気にならなかったです。キスばかりしていて行為の話がそんなにないので、ちょっとセクシーなお話という感じで、BL初心者の私にも読めました。
主人公がバリスタの才能を認められて、新しいお店で師匠に出会ってよくしてもらい、攻めからの愛情をたっぷり受ける中、やっぱりすれ違いがあって、という話は王道なのかな。

リヒャルトとの急接近に戸惑い、小麦粉をぶっ叩き続けるミレーユは、自らの存在が国内外に漏れた事を知る。ジークは「政略結婚をするか、後宮に入るか」という究極に最悪な二者択一をミレーユに持ちかけ、暴れるミレーユを拉致してしまう!! さらにリヒャルトの正体が判明し、彼はある決意を固めるが!? かくして『身代わり伯爵』の大波乱の脱走劇がはじまる!! ついにミレーユが初キッス!? 怒涛の新章スタート!(裏表紙より)
新章シアラン編第一巻。シアランで起こった過去の陰謀劇のため、リヒャルトが動き、ミレーユが巻き込まれ、フレッドたちもまた動き出す。すごくシリアスな巻のはずなのに、読んでいてすごく楽しいのは、みんながみんな、大事なものを守ろうとしているせいなのかな。
男前ミレーユの悶々がかわいい。「好きになんてならない」にごろごろした。つまりそれは「好きになっちゃいけない」ってセーブをかけていることだよね!!! フレッドのリヒャルトとミレーユラブにもにやにやする。リヒャルトの肝心なところで何も言わないところにも悶えた。すごく嬉しいくせに、自分をセーブするんだから、もうじれったくて!

沙霧という少女がいる。彼女はあるとき突然性格を変え、右利きが左利きになったりと不思議な現象をその身に起こす。しかしある日沙霧そっくりな少女が突如現れ、煙のように消えた。時期も変わらぬ頃、文芸雑誌に沙霧をうたう詩が掲載される。沙霧は双子なのか? もう一人の沙霧とは何者なのか。
隠れ里云々は、また別の話があるようだ。沙霧という少女を巡る不思議と愛の物語。佐々木丸美作品は愛が強調されるなあ。この本にも美文は健在。『崖の館』『雪の断章』のように登場人物がさほど多くなく事情も複雑でないので、ずいぶん読みやすかった。
二人の沙霧の物語を、町の沙霧は看護婦の女性の目から、もう一人は沙霧本人からの目で描き、いつ会うのだろう、この二人はどうなってしまうのだろうとどきどきする。少女たちが出会ったときに起こる色々がなんだか楽しい。喧嘩したり、笑いあったり。双子のようで、アンバランスな同一人物で。父親が名前を呼んだときのシーンがとてもいい。それぞれにふさわしい、象徴的な返事と、父親の眼差し。
おすすめされた本でした。とてもいい少女!

祖母と叔父とともに暮らすちえ子は両親を知らない。牧場で暮らした童女時代。S市の女学校で過ごす少女時代。幼馴染みの死や、父への疑い、女学校で出会ったお姉様の存在を経て、ちえ子は本当の母に出会う。
初めて読んだ吉屋信子作品。とてもロマンチックでした。流れるような文体は口に出して読んでみたいくらいだし、お話は定型的に感じられてもとても少女的。ちえ子にはかなりの苦労があったはずなのに、まるで誰かに語って聞かせるような心優しい語り口に、ほっと綻んでしまう。女性がたおやかで清らかなんですよね。母と呼べと言われた人には多く筆を割かず、あくまで女性たちは清らかに描くという感じ。
これをリアルタイムで読めていた女の子たちはどんな気持ちだったのかなと心を馳せてしまう。