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光圀伝
なぜ「あの男」を自らの手で殺めることになったのか——。老齢の光圀は、水戸・西山荘の書斎で、誰にも語ることのなかったその経緯を書き綴ることを決意する。
父・頼房に想像を絶する「試練」を与えられた幼少期。血気盛んな“傾奇者”として暴れ回る中で、宮本武蔵と邂逅する青年期。やがて学問、詩歌の魅力に取り憑かれ、水戸藩主となった若き“虎”は「大日本史」編纂という空前絶後の大事業に乗り出す——。(帯より)

実は『天地明察』を読む前にこれを読んでしまったのですが、安井算哲が現れたところはそれでもおおっと思いました。水戸の黄門様の壮絶な一生。義というものを問いかけ続ける話。
「どうして俺なんだ」というのは、『マルドゥック・スクランブル』から連なる生きることへの最大の問いかけだなあという序盤。力や知識や人との繋がりを得ながらも、自分自身を疑うからこそ、上へ伸びていくのかもしれない。高みへのぼるにつれて、どんどん欲望が削ぎ落とされて、軽やかになっていく光國が眩しいです。ただ、その軽やかさには、失いたくないものを失ったこともある。友人、読耕斎や、妻、泰姫の喪失は辛かった……。泰姫の人柄が、この物語の重みの中の安らぎになっていて、光國はそこを愛したのだろうなあ……。
「義」という考えが、後の世の私たちに分かる形で、光國を解放し、苦しめていたところは涙でした。最後のあれは……泣くわ……。義であるけれども、義ではない。しかし、後の世になされることがある。光圀の知らない未来が、彼らが形にしようとした人の人生の続きなんだろう。
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