読んだ本とか、漫画とか、映画とか、色々
死んでしまいたいと思うとき、そこに明確な理由はない。心は答え合わせなどできない。(「健やかな論理」)尊敬する上司のSM動画が流出した。本当の痛みの在り処が写されているような気がした。(「そんなの痛いに決まってる」)生まれたときに引かされる籤は、どんな枝にも結べない。(「籤」)等鬱屈を抱え生きぬく人々の姿を活写した、心が疼く全六編。(Amazonより)
離婚し、アプリで知り合った恋人がいて、孫の話題ができずに気を遣う母親と会い、事務員として漫然と勤める佑季子の心を慰めるのは、事故や自殺のニュースで目にした死亡者のSNSアカウントなどの痕跡を突き止めること。「健やかな論理」
かつて二人一組の漫画家であった豊川。だが行き詰まりを感じたある日相方から逃げるように妊娠した恋人と結婚し、保険会社に勤めるようになる。だが妻とのすれ違い、仕事での転機を迎えた現在、その胸にあるものは……「流転」
派遣切りにあったその日後輩への引き継ぎを終える依里子は思い出す。自分もかつて同じように契約を切られた先輩から引き継ぎを受けたあの日のこと。あの日先輩である佳恵の思いがけない姿。「七分二十四秒めへ」
パートに出て働く由布子。どこにでもいるありふれた家庭、いつもすぐやってくる明日のことを考える毎日。正しさはいつも、蔓延る不正や強権という風に負ける。「風が吹いたとて」
夫婦共働きの小杉は、しかし妻の方が収入が上だと知って以来、夫婦の関係を持てなくなってしまった。子どももおらず、仕事も上手くいかない。セフレを相手に日帰り旅行する彼の胸に去来するのは、かつての上司の醜聞。「そんなの痛いに決まってる」
劇場スタッフのみのりは現在妊娠六ヶ月。だがある理由で夫は姿を消し、頼るべき母親はすでに亡く、仕事では不出来な新人に手を焼いている。休日ながら出勤したその日大きな地震が発生し……「籤」
どれもだいたい後味が悪い!!! と胃の中がぐるぐるしてしまう短編集。けれどここに描かれている心の闇は、きっとみんな何かしらの心当たりがあるんじゃないかなと思う。アカウントの特定とかね……慣れているとできちゃうからね……。
なんだかきつくて泣けてしまったのが「七分二十四秒めへ」。文句らしい文句を言うのは引き継ぎを受ける明日美なんですが、依里子や佳恵が馬鹿馬鹿しい動画を見て勤めている間はどうしても食べることのできなかったラーメンをすするのが……。どうかしてる、差別だ、不平等だと叫ぶこともできないで、動画配信者が騒いでいるのを眺めながら一緒になっている気持ちでラーメンを食べているの、本当に切なくってだめだった。
その中で最後の「籤」は、はずれ籤をひかされているような描写をしながらも、賢く強く地に足をつけて生きていた人間の尊厳みたいなものがある気がしてとてもよかったです。当たりくじを引いたところで努力を怠り慢心すればはずれくじよりももっとひどい。身が引き締まった。
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