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冬虫夏草
疏水に近い亡友の生家の守りを託されている、駆け出しもの書きの綿貫征四郎。行方知れずになって半年あまりが経つ愛犬ゴローの目撃情報に加え、イワナの夫婦者が営むという宿屋に泊まってみたい誘惑に勝てず、家も原稿もほっぽり出して分け入った秋色いや増す鈴鹿の山襞深くで、綿貫がしみじみと瞠目させられたもの。それは、自然の猛威に抗いはせぬが心の背筋はすっくと伸ばし、冬なら冬を、夏なら夏を生きぬこうとする真摯な姿だった。人びとも、人間にあらざる者たちも……。(帯より)

私『家守綺譚』は文庫で読んだので、この本の感想を書くにあたって調べたところ、『冬虫夏草』と『家守綺譚』の装丁が揃えてあることを知りました。単行本の装丁がきっちり揃っているのっていいよね!
『家守綺譚』シリーズ、と読んでいいのかな。今回は家を守るのではなく、不思議なものが少し混じっている田舎に分け入っていく話。家守の時も、ほんのり異界の空気、少し前、けれど遠い時代の出来事を描いていることに、しんと積もるものがあったのですが、冬虫は、それよりも不思議なものどもに近い作品だと感じました。でも家守を読んだのがだいぶと前なので読んだ感覚が違っているだけなのかもしれないけれど。
異界のものが何食わぬ顔で混じっているのに、多くの人がしれっとそれを受け入れている。その中で、綿貫が「おっ」と思う驚きが優しく、発見に満ちた「おっ」なので、読んでいて心地いい。あるものを否定しないという感覚が、優しくていい。
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