読んだ本とか、漫画とか、映画とか、色々

リヒャルトに会いたいと願い、自らヒースに攫われたミレーユ。しかし目を覚ました場所は、敵国の騎士団駐屯地だった! 不本意な特技(!?)の男装を活かし、見習いとして志願したミレーユは、女の子とばれないようにしつつ、合格目指して大奮闘。しかし相手は、アルテマリス王宮にも勝る美形の曲者揃いで!?
かくして、『身代わり伯爵』の大胆なスパイ大作戦がはじまる!
ミレーユとリヒャルトの仲も大進展! シアラン編本格始動!!(裏表紙より)
様々な伏線が提示されつつ、ミレーユの心境に変化が、という巻だったのかな。相変わらずミレーユかっこかわいいです。筋肉系に好かれるミレーユアニキ。シアラン編は背景が複雑で把握しづらいのですが、随所で噴くところがあるので腹筋的に辛いです。今回は冒頭からフレッドの黒さ全開でフレッド好きだ。
「リヒャルトが好きなのか」と言われて、今までは否定、考え込むという態度を取っていたミレーユが、「それを確かめにいく」と言ったところにたぎりました。うおおおお、これを待っていた!

「本当の私」なんて探してもいません。みっともなくもがいてる日々こそが、振り返れば青春なんです——。「底辺」な生活から脱出するため家出した高校二年の春。盛り下がりまくりの地味な学祭。「下宿内恋愛禁止」の厳粛なる掟。保健室の常連たち。出席時数が足りなくて、皆から遅れた一人きりの卒業式。最注目の作家によるホロ苦青春エッセイ。(裏表紙より)
分かる分かる! というエッセイでした。そうだから、胸が痛くてたまらなかった。これは封印したい過去にぐさぐさ刺さる……。何が悪いでもなかったけれど、自分がそこに馴染んでいない浮遊感や、人の反応が怖かったり、「ユニット」があったり。それらすべてが大嫌いで、世界が嫌いで、自分が嫌いで。読んでいて笑えるんだけれど、すごく苦しい。これは私なんじゃないかと思ったりする。
しかし豊島さんがすごかったのは、家出したことだな! 自殺するでもなく、家出を選んだのはすごい。色々ぼろはあったけれど、出て行こうとしたのはかっこいいなと思いました。


お父様がお母様をレイプしている。ジャキール王国のハーレムに生まれたプリンセス・エイドリアンは、寝台の下で耳をふさいだ。王の寵愛を失い虐待されていた母は、幼い彼女を連れて祖国アメリカへ逃亡した。傷ついた母が麻薬と酒に溺れて死んだとき、エイドリアンは復讐を決意する。王宮の金庫から父の権威を象徴する《太陽と月》を盗み出すのだ。美しく成長し、社交界の華となったプリンセスの隠された素顔——それは、憎しみに燃える宝石泥棒だった。(上巻・裏表紙より)
初ハーレクイン。有名作家さんということで、タイトルに惹かれて上巻を読んでみた。原書タイトルが『Sweet Revenge』ってかわいいな!
面白かったです。愛を交わすシーンもこざっぱりして詩的だったような。ただお互いの気持ちを感じ始めてからの絡みは、もうちょっと情緒を! と思わないでもない。
第一部は幼少期の色々が描かれてロマンスはないものの、アラブ圏に対するアメリカ的な考え方が見えるようで興味深いです。
躁鬱になってしまった母親の医療費を稼ぐために、エイドリアンは宝石泥棒に。そのうち亡くなってしまった母のために、復讐することを決意したアディ。投資が成功して、彼女が華々しく社交界にいる姿はかっこいい。
対するヒーロー、フィリップもまたかつては宝石泥棒。普通にいい男だった。特別に暗いところを抱えているわけでもなく、ひたすらにいい男だった。そのことがちょっと物足りない気がしないでもないけれど、ヒロインを甘やかしてくれる男性ということでおいしかったです。
下巻はアディの盗みがばれた! から、その後、二人が協力し、ジャキールの《太陽と月》を盗み出して、その結末。
宝石泥棒(一方は「だった」)として共通し、理解しあうアディとフィリップの反面、彼女の母親と父親の悲劇の対立が面白いなあと思ったり、主人公たちは甘いのに、両親はそうではなかったのだなあということがあったり、甘さと辛さがいい感じに混ざっていて面白かったです。

駅からキャンパスまでの通学途上にあるミステリの始祖に関係した名前の喫茶店で、毎週土曜二時から例会——謎かけ風のポスターに導かれて浪速大学ミステリ研究会の一員となった吉野桜子。三者三様の個性を誇る先輩たちとの出会い、新刊の品定めや読書会をする例会、合宿、関ミス連、遺言捜し……多事多端なキャンパスライフを謳歌する桜子が語り手を務める、文庫オリジナル作品集。(裏表紙より)
語り手は浪速大学一回生、吉野桜子。彼女が語りかけるような文体での、「なんだいミステリ研」と日常の謎を解く物語。生物研究部の女子学生の消えた指環を探す話、作家を招いた講演会での話、九年前のハガキが届いた話に、桜子の大叔父の話が挟まる。
この大叔父の話、「遠い約束」がとてもいいのだ。死んでしまった大叔父の遺言を巡る謎。大叔父の遊び心がいい。それを解こうとする、ミステリ研の三人の先輩方もかっこいい。謎を解く話のわりに、魅力的な男性たちが出てくるのがめずらしくて、面白く読んだ。日常の謎系には、ちょっといい話があるので好きだな!

年老いた俳人・片岡草魚が、自分の部屋でひっそりと死んだ。その窓辺に咲いた季節はずれの桜が、さらなる事件の真相を語る表題作をはじめ、気の利いたビアバー「香菜里屋」のマスター・工藤が、謎と人生の悲哀を解き明かす全六編の連作ミステリー。第52回日本推理作家協会賞短編および連作短編集部門受賞作(裏表紙より)
連作短編集。日常の謎もあるけれど、もうちょっと事件性の高いものもあり、面白かった!
語り手はそれぞれ違うけれど、六つの話でどこかの話の人物が顔を出したり、リンクしているところがいい。香菜里屋のマスターである工藤が探偵なんだけれど、彼自身の心情は語られず、おおよそにおいて語り手である人物が、それぞれの解答を手にしていく。
表題作が好きだなあ。草魚さんの出てくる話がすごく好きだ。ひっそりとした俳人というところもそうだけれど、胸の内に秘めたものがなんだかしんみりして好きなのだ。俳句と交えてある表題作はぐっとくる。

道化師のアルヴァンジェナ、売り子のジュデル、軍人のファーロン。不思議な遊園地で出会った三人は、人間のいなくなった世界で、「眠り」を探して旅に出た。彼らが唯一の手掛かりとするのは、古い言い伝え。遥か西にある〈眼〉は虹の生まれる場所で、同時にそこで「眠り」を司っているというのだが…。ノベル大賞を受賞した表題作に、書き下ろしの連作中篇を加えた、抒情ファンタジー。(カバー折り返しより)
「月虹のラーナ」「輝上の楽園」「貝の柩 海の底に」の中編三本を収録。表題作が一番SFファンタジーっぽくて、後の二編は不思議なファンタジーでした。
「月虹のラーナ」は、道化師と少女と軍人が旅をするというお話で、大人向けの童話のような印象でした。暗い世界を、止まった時間を、三人が延々と歩いているという光景が、ふわっと広がってくる。
「輝上の楽園」は、人物設定が神話世界のようで素敵だ。暁の公子、宵闇の姫、移り気で恋多き空族。ここでのファーロンがすごくひどい人でちょっとびっくりしました。
一番好きなのは「貝の柩 海の底に」で、これは人魚たちの物語。人魚世界を描いているのが、すごくときめいてしまいました。嵐の海で、沈みかけた船に歌いかけて男たちをさらう人魚たちの、妖艶で美しいこと。その後男性たちがどうなるかというのもさらっと書いていますが、そのさらっと加減がまた妖しくて好きだ。アンハッピーとあとがきにありましたが、一概にアンハッピーというわけでもなくて、ちょっといい話で終わっているところも好きな理由です。

イギリスのある古風な家の床下に小人の一家が住んでいました。生活に必要なものはすべて、ひそかに人間から借りて暮らしているのです。ところがある日、小人の少女がその家の男の子に見られてしまいます……。カーネギー賞を受賞した、ファンタジーの傑作。(カバー折り返しより)
再読です。ジブリ作品「借りぐらしのアリエッティ」の原作。手に入るものを貼っておく。
借り暮らしの小人たちの生活がいい。ちょっとしたものを持ってきて生活に使っている描写が、ドールハウスを見ているようで楽しい。あくまでアリエッティの話なのですが、少年の生活がどういうものなのか(やかまし屋で意地悪な女中おばさんとか)というのが結構想像できるのがいい。段々うまくいってきたのに、あっという間に崩れ去るというところは激しく悲しかったですが、新しい世界に出て行くというところが希望を持たせて好きだ。誰も見ていないけれど、本当かも分からないけれど、確かに存在したお話。


少女マミコは、渚に漂着した木馬と壊れた角を見つける。気がつくと彼女は、時の止まった海岸にいた。マミコの真っ黒な影が立ち上がって分身となり、悪魔の子マコを名乗る。角を抱き「世界の果てに名前と角を捨てに行く」と言い、水平線の彼方へかき消えてしまうマコ。だが、角をとられた木馬が、白毛の馬となって現れる。少女と白馬は、マコを追って時の止まった海へと駈けだして——。
美しく幻想的な世界を旅する二人の少女。
泉鏡花文学賞作家が描く、壮大なファンタジーの幕開け!(上巻・カバー折り返しより)
水が揺らぐことのないように、雲母が何層にも重なっているように、様々な人々、美しい物たちが立ち現れては、次のことへ波紋を投げ掛けていく、幻想と不思議に満ちたファンタジーだと思います。すごい。圧倒的な幻想の力、というのかな。これを読み解くのはすごく面白そうだけれど、読んだ感想を言うと、圧倒的な幻想、という言葉しか出てこない。不思議で、澄んでいて、迷ったりもするけれど、光を目指していくお話という感じ。
少女マミコとその祖父の生活は温かく、郵便配達夫が時折訪れる優しい世界。けれどもう一つの世界での登場人物が提示するのは、それが歪んでいるのではないかという描き方だったりして、現実のことと異界のことが交互に描かれ、やがて比重が変わり、異界のことと現実のことが描かれていく。主人公のマミコだけでなく、その分身であるマコはただの影ではなく、確かな存在として視点を持っていることがすごく印象的。彼女たちを中心にいくつもの人やものやことが互いに影響しあいながら細く、けれど確かな糸で物語を紡いでいる印象。
描写の美しさが好きだ。文体もお話も幻想的でふわふわするけれど、時折はっとするようなシーンがあってどきんとする。晶洞のシーンとか、雲母箱のシーンとか、舟人の少年とマコのシーンとか。
繰り返し水を飲む描写が出てくるのが印象的。水は旅には絶対に必要なものだけれど、このお話にとってはそれだけじゃないと思う。鉱夫も、村長も、大長老も、それぞれおじいさんの何かを象徴していると思うし、ヨミもヌバタマも何からの暗喩があるだろうし。考えるとすごく深いお話……。
読み終わった後、頭の後ろでもうひとつの世界がぶわっと広がっている感じがして、なんだか言い様のない不思議な読後感でした。