読んだ本とか、漫画とか、映画とか、色々

初めて植えた朝顔に、男への思いを託す今日子。最初の一輪が咲いた時に知り合った、圭次郎から連絡が絶えてひと月になる。彼女の心が限界に近づいた頃、永世姫、常世姫と名のる艶やかな和装姿の女たちがやってきた。「異界の花と化し、永遠の命を与えよう」という申し出は、今日子の心を動かす。だが、その時、姫たちの企みを邪魔するものが現れた。「鬼」と呼ばれし花守り、青葉時実だった! 異界の者たちが争うところ、女心の深奥があばかれる。新鋭が描くあやかしのトゥルー・ストーリー。(裏表紙より)
もう、美しさにため息です。異界というモチーフもさることながら、二人の姫君や学生服姿の時実の描写も素晴らしく、極上の異界物語を読んだ気分になりました。しかし、私には和装の専門用語が分からない! 悔しい! とぎりぎりしました。きっととんでもなく美しいのでしょうね。
女心と異界という繋がりが非常に妖しく、薄暗く、底知れないもの。五話分の短編が収録されているのですけれど、どれも深い暗闇の流れがある。永遠と刹那の対比もあり、綺麗すぎてくらくらしました。
すべてが明らかになって解決しているわけではないのだけれど、非常に素敵な物語の数々でした。最後の、第五話老松、まで読んでしっとり異界と花と時に触れてもらいたい。素敵でした。
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庶民的パン屋の看板娘、ミレーユ。双子の兄の予測不可能な行動のせいで、またも『身代わり伯爵』として登城することに!
そんな彼女に、隣国の女公爵(特技:呪詛返し)との結婚話が舞いこんだ。彼女いない歴16年なのに(ちなみに16歳)! というか、そもそも女なのに!!さらには再び陰謀の予感が…? かくして、『身代わり伯爵』の笑いと涙の冒険がはじまる!!
奇人変人美形筋肉増量中、超王道王宮ファンタジー第2弾。(裏表紙より)
いいですね、王道……(うっとり) 相も変わらず振り回されるミレーユだけれど、振り回されっぱなしじゃないところがいい! 例として、騎士団の面々に対しての下僕宣言。
ジークとリディエンヌがいい感じなのだけれど、この二人はちょっとずれてるのがおかしくてお気に入りです。この巻で女の子スキーとしては、シルフレイアともっと仲良く!! とか思ってました。登場人物が多くて、みんながどたばたすると気持ちよくて楽しいです。本全体に癒しのオーラが出てる気がする。
リヒャルトの裏に何か色々あるっぽくて(多分直球で王子様なんだろうなあ)と思いつつ、次買ってないのでお預けです。

あたし、大西葵13歳は、人をふたり殺した……あたしはもうだめ。ぜんぜんだめ。少女の魂は殺人に向かない。誰か最初にそう教えてくれたらよかったのに。だけどあの夏はたまたま、あたしの近くにいたのは、あいつだけだったから——。これは、ふたりの少女の凄絶な《闘い》の記録。『赤朽葉家の伝説』の俊英が、過酷な運命に翻弄される少女の姿を鮮烈に描いて話題を呼んだ傑作。(裏表紙より)
話の流れとしては『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』に似ていますが、もうちょっと救いようがあって、もうちょっと救いようがない。つまり救いと救われなさの種類が違うのですが、ラスト思わず頭を抱えました。桜庭さんは、なんて、どうしようもない少女がうまいんだろうと。
行き過ぎた思春期というのは俗に中二病と呼ばれますが、これが後から考えると「なんてどうしようもなかったんだろう……」ともんどりうつ存在なのです。この作品でその代表格が静香です。
一方主人公の葵は普通の子ですが、周囲との摩擦を恐れていたり、親の存在に苦悩する、ある意味どうしようもない状況にいる少女。「どうしようもない」のは物語の場合状況を指すこともあり、その状況が切羽詰まっているのが葵。
その二人が出会ったら、後は破滅へ進むしかないと思って読んでいたら。うああああ……。
助けて、ではなく、捕まえて、だったのが、もう……。

泣き虫の葵と美しい弥生。同じ孤児でありながら、葵は虐げられ、弥生は愛されて育った。ある日、五人の男が大企業の継承権を持つ少女を求め、二人のもとを訪れる。葵と弥生、どちらが本物の継承者なのか? 閉ざされた邸に引き取られ、ともに教育係の高杉に想いを寄せる彼女らが辿る運命とは——。権力争いの”駒”として育てられた少女二人の友情と懊悩を綴る『雪の断章』の姉妹編。(裏表紙より)
孤児4部作の2作目。誰が誰やらと思いながら読みました。『雪の断章』でさらっと書かれた飛鳥にも絡む糸の原因が、また別の形で絡まっています。
葵と弥生の正体に大どんでん返しがあると思ったんですが、この話はそういうところに持っていく必要のない話だったわと思い出しました。しかし『雪の断章』が好きな私にはちょっと不満でした。せっかく今度は女2男1なのに、もうちょっと「女の子の秘密」をしてくれたらいいのに!
『雪の断章』での彼が出てきてびっくりすると同時に、ああ因果だなと思ったのも確かです。この話の原因となったものが若干明かされるのですが、なんて悲しい糸の絡まりなんだろうと。続きは読めていないのでまだ何とも言えないけれど、どうやら原因たるものと少女たちの話になっているみたいなので、元気な時に読もうと思います。持っていかれるんだこの文体。

迷子になった五歳の孤児・飛鳥は親切な青年に救われる。二年後、引き取られた家での虐めに耐えかね逃げ出した飛鳥に手を伸べ、手元に引き取ったのも、かの青年・滝把祐也だった。飛鳥の頑なな心は、祐也や周囲の人々との交流を経て徐々に変化してゆくが……。ある毒殺事件を巡り交錯する人々の思いと、孤独な少女と青年の心の葛藤を、雪の結晶の如き繊細な筆致で描く著者の代表作。(裏表紙より)
マルシャークの童話「森は生きている」をモチーフにした、大変心が持っていかれる感覚のある小説でした。
何より、文章が美しい。流れるように、きらきら輝いている。あまり見かけない筆致で書かれる方だわ……と思ってそこからのめり込みました。読む人を選ぶというのか、無理な人は無理だと思います。
引き取られた先でこき使われて逃げ出したというのを責めたり、飛鳥が捻くれてる、とみんな言うのですが……飛鳥が養子だからと言葉を呑み込むのはよく分かるし、その辺りはもうちょっと心を開こうとも思うけれど、捻くれてるのとはちょっと違うような。なんだか悪く言われるところが言いがかりっぽくて悲しくてしょんぼりしました。それが狙いだとしたらすごいと思います。
祐也さん、史郎さんの存在がとても良い。仲間みたいにしてくれてる感じがしました。特に史郎さんは……と色々起こったことを思うと、とても飛鳥を愛しく思っていたのだなあと。飛鳥を拾って、育てると宣言した祐也さんもかっこいいですが、飛鳥だと決めていたという史郎さんにもときめきました。
愛や犯罪で思いを巡らす飛鳥が、年頃の女の子の様々な闇の部分を抱えている感じがしました。ラストは悲しいけれど、綺麗でした。

一目見ただけで人間の王子に恋した人魚の姫は、王子とともに暮したいばかりに、美しい声と引換えに魔女から薬をもらったが……。あまりにも有名な表題作をはじめ、世界じゅうで今なお読みつがれるアンデルセン童話から、『すずの兵隊さん』『ナイチンゲール』『のろまのハンス』『イーダちゃんのお花』『モミの木』『雪だるま』『アヒルの庭で』『いいなずけ』など16編を収録。(裏表紙より)
「ナイチンゲール」のナイチンゲールがけなげでかわいい。
「人形つかい」からもなんとなく感じ取れる気がするのだけれど、やっぱり西洋の宗教観が盛り込まれているのだなあと。「人魚の姫」にそれは顕著だと。人魚姫の話は、再編集された簡単な幼児向けのものや、でずにーの物語のイメージが強すぎているので、この原本たるものを読んで、なるほどなあと思ったりした。特に、幼児向けのものでも人魚姫のラストではどうしても納得できていなかったので(多分でずにーの影響もあるだろうけれどそれ以前にも)、ちゃんとこうして、空気の娘たちの存在や、神様のお許し、といった要素が描かれていると、物語にきちんと納得ができた。読んでよかった。

瓢簞をこよなく愛した少年と、周囲の無理解なおとなたち。少年が永遠に失ってしまったものは何か? 表題作「清兵衛と瓢箪」ほか、深い人間観察と鋭い描写力で短篇小説のおもしろさをあますところなく伝える”小僧の神様”志賀直哉の代表的短篇13篇。(裏表紙より)
「菜の花と小娘」「荒絹」「清兵衛と瓢箪」「城の崎にて」「赤西蠣太」「小僧の神様」が特に好きだ! 子どもと、幻想と、恋愛と、というものが大体っぽいな。
「荒絹」の退廃的な色っぽさはすごい。女神様の狂気すごい。ごちそうさまでした。
「赤西蠣太」は楽しい。思ってもみなかったことによってどんどん転がってしまう自体がおかしい。
この中で一番を決めるのなら、私は「荒絹」を推すかなあ。はっきりした終わりが呈示されているわけじゃないけれど、ものすごく伝承的、神話的な神秘的な要素があって、女神と蜘蛛というモチーフもなんだか土地に根ざした何かを感じるせいか、すごく力があるような。
専門家じゃないので読み方は好きなように読んでいるのだけれど、志賀直哉はやっぱり好きだ。

15歳のぼくは、母親といってもおかしくないほど年上の女性と恋に落ちた。「なにか朗読してよ、坊や!」——ハンナは、なぜかいつも本を朗読して聞かせてほしいと求める。人知れず逢瀬を重ねる二人。だが、ハンナは突然失踪してしまう。彼女の隠していた秘密とは何か。二人の愛に、終わったはずの戦争が影を落していた。現代ドイツ文学の旗手により、世界中を感動させた大ベストセラー。(裏表紙より)
確か映画になった後くらいに、先生との会話に出てきて読んだことあるかないかの話になったので、本読みの魂がうずいて買いに行ったのでした。
これは小説の方がいいんじゃないか、と思うくらい、ぼくの心理が丁寧に書かれていたように思った。特に逢い引きは、文字にした方がさらさらと流れていく映像になって見えるなあと思ったり。
今思うと色んな要素があるんだなあ。少年の成長、恋愛、父親との和解、戦争、生死。結構薄い本なのに、これほどたくさんのテーマが詰められて整頓されて読めるのは、なんだかすごいことだなと思った。
良い方向になるとは思っていなかったけれど、何がハンナをそうさせたのか。絶望なんだろうか。追いかけられていた頃とは違って、追いかけても追い付けない存在が(ぼくもあるけれど、ぼく自体ではなくて、時間とか高次的なもの?)あるからだったんだろうか。

今でも、届く声がある——。少女は声を聞く。それは自分を助けてくれた天からの声。いくつかの出来事と人の出会いが重なった時、それは大きな事件へと繋がる。子どもたちが起こした奇跡、そして大人たちの物語。
優しくて、泣きたいくらいの物語でした。
二人の子どもと大人の視点から語られる物語。最初、全然話の内容に見当がつかなくて、これはどういうジャンルなんだろう? と思いながら読み進めていくと、子どもと大人のファンタジー、でした。
目線が優しいなあと思います。語り部になるかほりも、リンも、大人たちも、みんな物語る言葉が優しくて、ぎすぎすしたものや暗い感情が感じ取れない、澄んだ印象で進んでいく。物語の脇役的立場にいる人たちも、みんな綺麗な輪の中にいるような感じ。
それだけに、子どもたちが行動した結果、ああいう世論が巻き起こったということが書かれていたのがとても胸に重かった。だからこそ、大人たちが大人たちにできる方法をやったということが泣けてしまった。物語はおおよそ子どもたちの戦いで、大人たちは寄り合わせていく役目だったけれど、最後に大人たちも戦ったということが、やっぱりこの物語を優しくしてくれたんだと思う。
いい話だった。

エリート中学生の優は、突如ド田舎の学校に転校することになった。一杯勉強して、東大に入り、有名企業に就職する、という将来プランがぐちゃぐちゃだ。しかも、同級生はたったの3人。
1.バカ丸出しのサル男
2.いつもマスクの根暗女
3.アイドル並みの美少女(?)
嗚呼、ここは地獄か、楽園か?
これぞ直球ど真ん中青春小説! 今もっとも注目を集める作家の代表作、待望の文庫化!!
解説・北上次郎(裏表紙より)
優の思考に若干いらいらしつつ、さくっと読めるなあと思っていたら「え!?」となった。うわあ、そういうことか! という。そう考えると、色んなことは彼なりの武装だったのかなあと思えて切ない。でもそんな憐れみはいらないというのが彼なんだろう。
優のエリート志向はテンプレすぎて若干滑稽だなと思ったりしました。エリートになりたいからといって他人を蔑ろにしていいわけじゃない。落ち込んだ、とは書かれていないけれど、優は優なりに色々思うところがあったんじゃないかな。そう考えると、悲しいような、切ないような。
でも俗物的思考でいうと、優の性格は「ひねくれヤンツンデレ」みたいになるんだろーかとか。最後にはヤンが抜けたとか。