読んだ本とか、漫画とか、映画とか、色々
父と母、そして四人の姉妹。幸福な家庭の中で、血の繋がらない昭菜だけは教育も与えられず、孤独に育った。叔父の壮嗣は陰で時々優しくしてくれるが、皆の前では末娘の織ばかりを可愛がる。孤児という境遇と許されぬ恋に苦しむ昭菜は、ある事件をきっかけに、新たな秘密と罪を背負うことになる。血縁と企業が絡んだ宿命に翻弄される人々を描く、『雪の断章』『忘れな草』姉妹編。(裏表紙より)
孤児四部作の三作目。長らく積んでいたのを読んだ。
久しぶりに読んで、この、しっとりした綺麗な文章にうっとりする。一人称で、リリカルな文章が挟まったりするけれど、暗闇を抱えた少女たちの物語は、読んでいると心のなかに文字が降り積もる。
昭菜は孤児として一番、形としては幸福な場所にいるのかもしれない。ただ、人間として必要であろう教育を奪われたことは、孤児たちの中で一番不幸だった。
三作目まで読んだけれど、この三作目も好きかもしれない。好きだというのは、これが家族の物語であるということ。もちろん最大のテーマである少女の恋は描かれるわけで、その上で、この美しいけれどうまくいかない家族は、不幸であるだけによりいっそう綺麗に見えてしまうんだよなあ。
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「たいへん遺憾ながら、美しく生まれてしまった」川村七竃は、
群がる男達を軽蔑し、鉄道模型と幼馴染みの雪風だけを友として
孤高の青春を送っていた。
だが、可愛そうな大人たちは彼女を放っておいてくれない。
実父を名乗る東堂、芸能マネージャーの梅木、
そして出奔を繰り返す母の優奈——誰もが七竃に、
抱えきれない何かを置いてゆく。
そんな中、雪風と七竃の間柄にも変化が——
雪の街旭川を舞台に繰り広げられる、痛切でやさしい愛の物語。
解説・古川日出男(裏表紙より)
オンナ、の物語。語り手は、たいへん遺憾ながら美しく生まれてしまった七竃がメインだけれど、彼女に性のにおいはなくて、彼女を取り巻く女性たち(語り手になるオンナたち)が、みんなオンナとして生きている印象でした。
それだけに、七竃と雪風の清らかさがとても綺麗。
でもどうしてこうも、重苦しい影が立ちこめているんだろう。冬という季節のせいかな。影が濃くて深い。この本は、白雪姫のように白と赤と黒が鮮やかな気がする。あとはすべて灰色、のような。
可愛そうな大人と銘打ってはいるけれど、物語の終わりに七竃も少女時代から抜け出して青春時代を終える、というのが、もう、言葉にならないくらい鬱々としていて好きです。
本当に、世界を物語るような文体だなといつも思います。
明治四十五年から大正十五年に至るほぼ大正期に発表した代表的短編を集めた。「母の死と新しい母」「清兵衛と瓢簞」「正義派」「小僧の神様」「好人物の夫婦」「雨蛙」「焚火」「真鶴」「山科の記憶」「痴情」「瑣事」「濠端の住まい」「転生」「プラトニック・ラヴ」を収める。
作者の生涯におけるもっとも実りの多かった時期の、充実した作品群。(裏表紙より)
読んだまま積んでいて、集英社文庫で買ったものを読んだのでそのまま放りっぱなしにしていた一冊。
やっぱり「清兵衛と瓢簞」「小僧の神様」が好きだなあ。ちょっと童話っぽいものが好きなのだ。
「清兵衛と瓢簞」について注釈が会ったので、これを先に読んでいたらなあとちょっと後悔(私のゼミ発表の担当はこれだったのだ)(時系列まとめだったから、そこまで詳しく調べなくていいと言われたけれども)
文豪による作品の恋愛を読み解いていくエッセイ集。
まず装丁が可愛くて手に取りました。表紙の紙がいい感じ。遊び紙が表紙に合わせて可愛い椿?で。
武者小路実篤やら、三島由紀夫、夏目漱石、森鴎外など名だたる作家たちの代表作ともいうべき作品を、筆者が紹介しつつ論じています。どちらかというと、紹介の方に比重が置かれている感じ。
こういう読み方があったのかー! と面白く読みました。女性も男性も、今風にいうとこんな感じ、というのが書かれていて、「そっか!」と納得。知っている作品について書かれていると「そうそう!」と同意することしかりで、とても面白かった。こういう読み方も出来るのかと開眼。
ただ、この文章で紹介されているイメージでその作品を読むと、色々しんどそうだなあと思いました。
札幌の百貨店で働く行島征人へ妹の木実から近く結婚するという手紙が届いた。両親が互いに殺し合った過去を持つ征人と木実は、家族を持つことを恐れていたにもかかわらず。結婚を素直に喜ぶ征人。だが結婚直前、妹と婚約者が失踪する。征人は二人を捜すため決して戻らなかった故郷に向かう……。家族の絆を鮮烈に描く傑作青春ロードノベル。(裏表紙より)
現代物とかファンタジーものを書かれているから、てっきりそうだと思ったら、結構探偵ものっぽい? 人探しもの。
みんながみんな良い人で、ものすごく超人な人がいたりもするけれど、描かれる根本にあるのは人の絆の強さだなあと、いつも思う。
失踪した妹と婚約者の謎を負う兄。色々なことが「あったこと」と説明されていくところがあるので、もうちょっとじっくり読みたいよー! と叫びながら、登場する人たちの温かさが染みる。ものすごく危ないことが起こるんじゃないかとはらはらもするのに、絶対大丈夫な気がすると読みながら思った。
初めて植えた朝顔に、男への思いを託す今日子。最初の一輪が咲いた時に知り合った、圭次郎から連絡が絶えてひと月になる。彼女の心が限界に近づいた頃、永世姫、常世姫と名のる艶やかな和装姿の女たちがやってきた。「異界の花と化し、永遠の命を与えよう」という申し出は、今日子の心を動かす。だが、その時、姫たちの企みを邪魔するものが現れた。「鬼」と呼ばれし花守り、青葉時実だった! 異界の者たちが争うところ、女心の深奥があばかれる。新鋭が描くあやかしのトゥルー・ストーリー。(裏表紙より)
もう、美しさにため息です。異界というモチーフもさることながら、二人の姫君や学生服姿の時実の描写も素晴らしく、極上の異界物語を読んだ気分になりました。しかし、私には和装の専門用語が分からない! 悔しい! とぎりぎりしました。きっととんでもなく美しいのでしょうね。
女心と異界という繋がりが非常に妖しく、薄暗く、底知れないもの。五話分の短編が収録されているのですけれど、どれも深い暗闇の流れがある。永遠と刹那の対比もあり、綺麗すぎてくらくらしました。
すべてが明らかになって解決しているわけではないのだけれど、非常に素敵な物語の数々でした。最後の、第五話老松、まで読んでしっとり異界と花と時に触れてもらいたい。素敵でした。
庶民的パン屋の看板娘、ミレーユ。双子の兄の予測不可能な行動のせいで、またも『身代わり伯爵』として登城することに!
そんな彼女に、隣国の女公爵(特技:呪詛返し)との結婚話が舞いこんだ。彼女いない歴16年なのに(ちなみに16歳)! というか、そもそも女なのに!!さらには再び陰謀の予感が…? かくして、『身代わり伯爵』の笑いと涙の冒険がはじまる!!
奇人変人美形筋肉増量中、超王道王宮ファンタジー第2弾。(裏表紙より)
いいですね、王道……(うっとり) 相も変わらず振り回されるミレーユだけれど、振り回されっぱなしじゃないところがいい! 例として、騎士団の面々に対しての下僕宣言。
ジークとリディエンヌがいい感じなのだけれど、この二人はちょっとずれてるのがおかしくてお気に入りです。この巻で女の子スキーとしては、シルフレイアともっと仲良く!! とか思ってました。登場人物が多くて、みんながどたばたすると気持ちよくて楽しいです。本全体に癒しのオーラが出てる気がする。
リヒャルトの裏に何か色々あるっぽくて(多分直球で王子様なんだろうなあ)と思いつつ、次買ってないのでお預けです。
あたし、大西葵13歳は、人をふたり殺した……あたしはもうだめ。ぜんぜんだめ。少女の魂は殺人に向かない。誰か最初にそう教えてくれたらよかったのに。だけどあの夏はたまたま、あたしの近くにいたのは、あいつだけだったから——。これは、ふたりの少女の凄絶な《闘い》の記録。『赤朽葉家の伝説』の俊英が、過酷な運命に翻弄される少女の姿を鮮烈に描いて話題を呼んだ傑作。(裏表紙より)
話の流れとしては『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』に似ていますが、もうちょっと救いようがあって、もうちょっと救いようがない。つまり救いと救われなさの種類が違うのですが、ラスト思わず頭を抱えました。桜庭さんは、なんて、どうしようもない少女がうまいんだろうと。
行き過ぎた思春期というのは俗に中二病と呼ばれますが、これが後から考えると「なんてどうしようもなかったんだろう……」ともんどりうつ存在なのです。この作品でその代表格が静香です。
一方主人公の葵は普通の子ですが、周囲との摩擦を恐れていたり、親の存在に苦悩する、ある意味どうしようもない状況にいる少女。「どうしようもない」のは物語の場合状況を指すこともあり、その状況が切羽詰まっているのが葵。
その二人が出会ったら、後は破滅へ進むしかないと思って読んでいたら。うああああ……。
助けて、ではなく、捕まえて、だったのが、もう……。
泣き虫の葵と美しい弥生。同じ孤児でありながら、葵は虐げられ、弥生は愛されて育った。ある日、五人の男が大企業の継承権を持つ少女を求め、二人のもとを訪れる。葵と弥生、どちらが本物の継承者なのか? 閉ざされた邸に引き取られ、ともに教育係の高杉に想いを寄せる彼女らが辿る運命とは——。権力争いの”駒”として育てられた少女二人の友情と懊悩を綴る『雪の断章』の姉妹編。(裏表紙より)
孤児4部作の2作目。誰が誰やらと思いながら読みました。『雪の断章』でさらっと書かれた飛鳥にも絡む糸の原因が、また別の形で絡まっています。
葵と弥生の正体に大どんでん返しがあると思ったんですが、この話はそういうところに持っていく必要のない話だったわと思い出しました。しかし『雪の断章』が好きな私にはちょっと不満でした。せっかく今度は女2男1なのに、もうちょっと「女の子の秘密」をしてくれたらいいのに!
『雪の断章』での彼が出てきてびっくりすると同時に、ああ因果だなと思ったのも確かです。この話の原因となったものが若干明かされるのですが、なんて悲しい糸の絡まりなんだろうと。続きは読めていないのでまだ何とも言えないけれど、どうやら原因たるものと少女たちの話になっているみたいなので、元気な時に読もうと思います。持っていかれるんだこの文体。
迷子になった五歳の孤児・飛鳥は親切な青年に救われる。二年後、引き取られた家での虐めに耐えかね逃げ出した飛鳥に手を伸べ、手元に引き取ったのも、かの青年・滝把祐也だった。飛鳥の頑なな心は、祐也や周囲の人々との交流を経て徐々に変化してゆくが……。ある毒殺事件を巡り交錯する人々の思いと、孤独な少女と青年の心の葛藤を、雪の結晶の如き繊細な筆致で描く著者の代表作。(裏表紙より)
マルシャークの童話「森は生きている」をモチーフにした、大変心が持っていかれる感覚のある小説でした。
何より、文章が美しい。流れるように、きらきら輝いている。あまり見かけない筆致で書かれる方だわ……と思ってそこからのめり込みました。読む人を選ぶというのか、無理な人は無理だと思います。
引き取られた先でこき使われて逃げ出したというのを責めたり、飛鳥が捻くれてる、とみんな言うのですが……飛鳥が養子だからと言葉を呑み込むのはよく分かるし、その辺りはもうちょっと心を開こうとも思うけれど、捻くれてるのとはちょっと違うような。なんだか悪く言われるところが言いがかりっぽくて悲しくてしょんぼりしました。それが狙いだとしたらすごいと思います。
祐也さん、史郎さんの存在がとても良い。仲間みたいにしてくれてる感じがしました。特に史郎さんは……と色々起こったことを思うと、とても飛鳥を愛しく思っていたのだなあと。飛鳥を拾って、育てると宣言した祐也さんもかっこいいですが、飛鳥だと決めていたという史郎さんにもときめきました。
愛や犯罪で思いを巡らす飛鳥が、年頃の女の子の様々な闇の部分を抱えている感じがしました。ラストは悲しいけれど、綺麗でした。