読んだ本とか、漫画とか、映画とか、色々

重いSF。読んだ感想は「深い」だった。戦争物らしい戦闘はあるものの、焦点が「人間とは」に当てられているからか、存在関係(人間関係ではない)を深く書いた作品のように思った。
零が冷たいように思われながらも、とても人間らしいと感じた。言語がFAF語という形で変化するほどの戦場で、彼という人間、FAFに所属する、地球では屑という烙印を押され他者を顧みなくなる人々は、「戦場の中の人類」という新しい人類だと思う。そもそも、「人間は必要か」という自分の存在意義を問いかける生き物は人類くらいしかいないように思う。
戦闘は、零が見続けるだけという任務にある為か、素っ気ない。ただ彼自身が戦いの中に飛び込むと、あっというほどの力強さで文章が進んだと思う。ただ戦闘機の構造が分からないので、セントラル・エアデータ・コンピュータなんて言われても分からないのです……。
「フェアリィ・冬」が一番恐ろしく面白かった。コンピューターに向かってブッカー少佐が問いかけるシーンがぞくぞくした。人間と機械のどうしても何があっても相容れないような対立と攻防というのがこわ面白い。

人と交わる事を怖れる小夜子は働きに行こうと思うと夫に告げた。小夜子を雇った社長の葵には過去があった。どこに行けるのか、どこに行こうとしているのか。迷えるそれぞれの過去と現在と未来。
じんわりするなあ。小夜子の主婦としての悩みはいつも抱えている人としての悩みのように思えるし、特に葵の過去は藻掻いている様子が痛々しくてでも同調して切なかった。
これだけ痛み苦しみに同調するのは久しぶりかも。葵とナナコの話は切なかった。どこかに行きたくて、どこに行こうとしているのか分からなくて、でもきっとその意識には別の何かになりたいという思いがあるんじゃないかなとか。葵の母親が「何が気に入らないのよっ!」と叫ぶシーンは、私にも同じ事が起こりうるのかもしれないと思うと胸がざわざわぐるぐるする。
小夜子の立場にはまだまだなれないのですが、いつか来るかもしれないという感じがある。


ノーマ・カーに住む薬師ローグの称号を負うために男と偽り暮らす少女アイリは、ある夜モースの若き領主ク・オルティスに従者キサルの傷の手当てのために無理矢理連れてこられた。滞在は延びに延び、武芸大会に同行させられることに。実直で不器用に優しいク・オルティスと過ごす内に、アイリは次第に『自分』に戻りたいと願うようになって……。
大好き! な小説。再読で5回目くらい。
イメージとしては北欧なんだろうか。森が針葉樹林? 鬱蒼とした深緑の森をイメージする。
少女が男と偽っているというのもすごくて、元気な女の子が多い樹川作品の中でこんなに内気な子はときめきポイントに大きく貢献していると思う。青年がまた脳みそ筋肉の唐変木で、これまたときめきポイント。伝説、神話に物語が絡むのも大好きだ。好みが満載なんだ! 一番好きなのは、騎士仲間がアイリとク・オルティスを見て驚くシーン。男同士の仲良しとか、女同士の仲良しとか、この人の書くそれらは無茶苦茶かわいくて面白くてだいすきなんだ。
自分がその場で体験しているような文章が、読むのにテンポを感じられるのかな。
ちょっと盛り込み過ぎな感じもするけれど、綺麗に終わってくれてよし。でも初読の時はもうちょっと見たいー! と思った。でも今はこれでいい……と思うのです。

剣士であり薬師の青年カナギ・サンスイ。白い美貌の詩人ソラ。暗殺集団の少女ミリアン。一度滅んだ後再生された世界で、不死を巡る出会いと旅が始まった。
カナギは「命の花」を求め、前世界の生き残りである不死者に会いにやって来たが。
面白かった! 少女小説なのにそんな軽くはなくて、じっくり読めて楽しかった。会話に笑った。『呪いの書』辺り。
前世界、世界の再生、詩人、剣士、魔術師、帝国とか、好みの要素が散りばめられていて涎が出る。ソラの謎やらカナギの身体の事、ミリアンの今後とか、続きが楽しみで仕方がない。けどこの巻、女子成分が低くてミリアンもっと出てくれーと思いました(おにゃのこスキー)
世慣れているくせに不器用なカナギと浮世離れしたソラと、ミリアン。この三人の旅はとても楽しそうだ。
よし、揃えよう。全巻揃えよう。
「MAMA」紅玉いづき

誉れ高き魔術師一族サルバドールに生まれながら〈サルバドールの落ちこぼれ〉である少女トトは、神殿に封じられた魔物に出会う。その魔物は数百年前に封じられた〈人喰いの魔物〉。求める声に答えたトトは、その時から魔物と二人で生きようとする。強くなろうと。「あなただけだ」と囁いて。
あらすじの『儚くも愛しい歪んだ愛の物語』の、『愛しい』は『かなしい』と読むのじゃなかろうか。
「MAMA」はちょっと少女小説チック。読み終わった後、ゴシックという言葉が思い浮かんだ。「AND」はライトノベルだなという感じ。
二人きりだった、二人しかいなかったのだ、と思い込んでいたトトが悲しくて愛おしい。そしてホーイチはその疑いすら抱かないほどトトしかいなかった。ない耳のように歪で、でもそれだけに二人が愛おしいと思った。名前が縛めである魔物のホーイチにとって、「この名をひとつ。そしてこれからの未来を全て」「キミに、あげる」という言葉は、とても大きな願いだったはず。
聖騎士はやっぱりあの人だよなとによによ。
書き下ろしの「AND」、ミレイニアに全部持ってかれた気がした。美少女! 暗い過去! 強さ!

誉れ高き魔術師一族サルバドールに生まれながら〈サルバドールの落ちこぼれ〉である少女トトは、神殿に封じられた魔物に出会う。その魔物は数百年前に封じられた〈人喰いの魔物〉。求める声に答えたトトは、その時から魔物と二人で生きようとする。強くなろうと。「あなただけだ」と囁いて。
あらすじの『儚くも愛しい歪んだ愛の物語』の、『愛しい』は『かなしい』と読むのじゃなかろうか。
「MAMA」はちょっと少女小説チック。読み終わった後、ゴシックという言葉が思い浮かんだ。「AND」はライトノベルだなという感じ。
二人きりだった、二人しかいなかったのだ、と思い込んでいたトトが悲しくて愛おしい。そしてホーイチはその疑いすら抱かないほどトトしかいなかった。ない耳のように歪で、でもそれだけに二人が愛おしいと思った。名前が縛めである魔物のホーイチにとって、「この名をひとつ。そしてこれからの未来を全て」「キミに、あげる」という言葉は、とても大きな願いだったはず。
聖騎士はやっぱりあの人だよなとによによ。
書き下ろしの「AND」、ミレイニアに全部持ってかれた気がした。美少女! 暗い過去! 強さ!

シュバルツ・ヘルツ
嘉手納奏は心臓移植の為にドイツを訪れていたが、気付いた時にはそれまでの記憶を失い、湖畔で倒れていた。彼を助けたのはウルテアという女性だが、夢のような戦いの果てに別れてしまう。再び奏を保護したのはアイザックという男。記憶を取り戻し日本に戻った奏のあとを追って、奏の家に居候する事になった。そして謎の転校生が現れ、奏の周りで不穏な事が起こり始める。
まだ導入という感じで、特に面白いとかまだ言えないです。でもさくさく読めるなと。
単語から「北欧神話?」と思ったけれど、どうやら色々と入り交じっているようで、オーパーツと聞くと「九龍?」とそれしか知らないので単純に思ってしまうんですが、先のバトルが楽しそうだなと気になります。
奏のフィギュアオタクという設定はこの後ちゃんと書かれるんだろうか。突っ走ってほしいと思ってしまう(笑)
ただ、もっとおにゃのこ成分をくれー、と思いました。
アンケートからのオススメでした。ありがとうございました!

独身で建築家の、ちょっと風変わりなぼくのおじ——カズおじさんが、ある日、黒くて不格好なラジオをくれた。大きなダイヤルと立派なアンテナがついた年代物のやつだ。すっかり夢中になってダイヤルをいじっていると……不思議な物語が聞こえはじめたんだ。妖怪ラジオから流れる珠玉の連作メルヘン・ファンタジー。『理想宮——K氏の一日——』を新たに加え、貴方の琴線(アンテナ)に夢を送信する。(カバー折り返しより)
樹川さとみ作品で現代物って珍しい感じがした。97年の作品らしい。やっぱりファンタジーとか、習慣などを書かせるとこの人は活き活きとするなあと思う。だから一話ごとに挟まるファンタジーはすごく面白かった。
「もしもあの花がすべて鈴だったら」が一番好きだ。願いを叶えました、そしてその後は? という、あとがきにも書いてある疑問を実践するのはすごく好感が持てる。

赤ん坊からおばあちゃんにいたるまで、美人でも不器量でも女性という存在そのものをとにかく無条件で愛する船乗りヒューリオン。そんな彼でも唯一苦手とする女性がいた。治療師シーリアだ。ある時、見知らぬ老婆に親切にした彼は、西の森の泉に行くことをすすめられる。そこで目にしたのは、カカシよりも無愛想なシーリアが、地面に両ひざをついて傷ついた獣のように泣いている姿だった!!(裏表紙より)
エネアド三部作の三巻目。
無愛想なシーリアと船乗りヒューリオンの話。ヒューの設定がいまいち書き切れていなくてもうちょっと! だったんだけれど、シーリアの設定が他二巻で上手く書かれているのでそれは十分だった。
やっぱり微妙に危うい濃い恋だった。一歩間違えばヒューの執着は病気っぽい。シーリアの恋愛下手さは、べたべたの展開だったけれどやっぱり良い! ちょっと大人向けな巻だったと思う。
終章の手紙は、昔シーリアがヒューに宛てたもので、多分ヒューの家族はその手紙の事を知っているんだろうと思う。母親が会いたいと言っているのは良い気持ちがあるからで、多分その手紙を知っているからではないかと。
外国の逸話なんかを樹川さんは詳しく知っていて、それがすごく上手くいかされている。楽魔女の時も思ったけれど、精霊と魔法をすごく不思議に、とても綺麗に書いている。すごく波長が合う。

ある事件を起こして宮廷を去ったセインは、修道士になることを決意した。そのためには、見習いの修練士として誓いを立てなければならない。——それは二年間口をきかないこと。誓いを守り続けて、一年以上がすぎた頃、修道院長に遣いを頼まれ、領主オーフとともにコウシェに向かう。とちゅう立ち寄った場所で、オーフの妹ララと出会う。まさかこの出会いが誓いを破らせることになるとは……!?(カバー折り返しより)
エネアドシリーズ二作目。主人公は美少女ララ。
はすっぱな口調で辺りを翻弄する人間だけれど、一番寂しがり屋であるというのが前面に押し出されている。セインは切れると何をするか分からない。一歩間違えば、この二人はちょっと危ない道に進んだんじゃないかと思う。
名前の秘密、恵まれない出生など、ライト的な要素が盛りだくさん。記憶喪失が出て来た時に「あ、これは本気でべたで恥ずかしいものを書こうとしているな」と感じた。
「わすれものを——してきたの。すぐにもどるわ」のシーンは感動的なまでにドラマティックだった。こんな展開大好きなんだよー。
ララがフォリスタ氏を妻として呼ぶ。そのシーンは切なかった。ララはあまりにも優しい。そして自分の意志を貫き通そうとする強さがある。ここが一番感動した。