読んだ本とか、漫画とか、映画とか、色々
介護人のキャシー・Hは、幾人かの提供者と関わってきた。その中で思い出されるのは、幼い頃育った寄宿舎ヘールシャムでの日々、そしてコテージでのこと。複雑に絡み合った絆で結ばれた、トミー、そしてルースのこと。褪せない、あの日々のこと。
カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』の映像化作品。映画は、テープというよりも写真のようでした。いくつかの断片をつなぎ合わせて回想している感じ。原作にある、擦り切れるほど繰り返したという感じはしなかった。
話の裏というか、事情は、本よりもあっさり簡単にまとまっていて、だから象徴的なシーンが結構削ぎ落とされていていました。キャシーが赤ん坊に見立てたものを揺する光景を見てはっと立ち尽くしていたマダム、とか、ルーシー先生のエピソードとか、最終的にマダムの家に行ったときの空虚なほどの絶望感、とか。もっと寒々しくて薄暗い世界を想像していたのに、思ったよりも明るかったのは、キャシーの記憶だからかなあ。
より三人の絆(というか、感情のすれ違い)が描かれる一方で、提供者やその人権を守ろうとした社会的活動のことが薄くなっていて、それもちょっと思ってもみなかったところでした。
『わたしを離さないで』を簡単に理解しようとするといい映画なのかもしれないけれど、原作の淡々とした語り口やどうしようもなく、生きていくしかない感じが好きだった私としては、少し簡単すぎたように思える映画でした。
PR
この記事にコメントする