読んだ本とか、漫画とか、映画とか、色々

「なんだって盗める」
代々、盗人の家系に生まれついたジェンは町中で、そういいふらしていた。
彼にはある重要な目的があったのだ——。
アメリカで話題の冒険ファンタジー、日本初上陸!(カバー折り返しより)
主人公ジェンの一人称で語られる。でも、子どもらしい浮ついた感じはなくて、ものすごく頭の良い落ち着いた、それ故に生意気の少年、という感じ。
旅の途中のちょっとした小競り合いは、普通の物語だったらもっと大げさに書かれていたように思うんだけれど、基本あっさりと終わる。なんだかすっきりしないなあと思うところもほんの少しあったんだけれど、読み終わった今思うと、読者に考えさせるためなんだなあと思った。
ラストもそういうラスト。淡々とした語り口としっかりした足取りの不思議な印象の物語でした。なんだか好きです。神話とか絡めてあるのも素敵だけれど、物語の形がとても。
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夜、森の中で開かれる市『夜市』。異界の住人たちが行き来するこの場所に行こうと言い出したのは、同級生の裕司だった。親切な老紳士と話し、彼に案内された場所で買い求めるものとは。「夜市」「風の古道」の二編。
ホラーに馴染みがないのでよくわからないけれど、しっとりとしたいい文章だなあと思った。個人的にはもっと書き込みが欲しい感じがしたけど、それは私感。
夜市の意外な結末と、風の古道の結末の流れがどうも似ている気がするけれど、私は風の古道の法が好きだなあ。ラストページの締め方がとても好きだ。
これは成長の物語ではない。
何も終りはないし、変化も、克服もしない。
その後も続くのが感じられる。物語後の諸々の事情はどうなったんだろうなあ。


依田いつかが気付いた時、そこはいつかの知る時間から三ヶ月前の日だった。何が起こってタイムスリップをしたのか分からず、話している間に、終業式の日に自殺したクラスメートのことを思い出す。だが同学年のどのクラスの誰が自殺したのかからないと、いつかは、相談した同級生坂崎あすならと放課後の名前探しを始めた。
さすが辻村深月という感じのすごい話の組み方だった!
上巻は泳ぎを教えるまでの話。上巻を読んでいたときは、いつかとあすなの視点が交互するのが辛いなと思っていた。その理由はちゃんと下巻で明らかになる。
いつかのキャラクターがいいなあ。チャラいけれど馬鹿ではない感じ。秀人が親友っていうのもなんか分かる気がする。椿ちゃんがかわいくて、天木はかっこいいけどこんな高校生いるのか! と思いながら楽しく読んだ。一番感情移入したくなるのはあすなで、派手な面々を遠巻きにする時のちょっと苦しいときの思いがよくわかる。
自殺者を探すという名目だけれど、仲良しが本当にいいなあ! いつかやあすなが、関わらないと思っていた人たちと日々を過ごしていくっていうのがすごくいい。
このままでは終わらないだろうなと思っていたら正にその通りで、自殺者が○○だったというのは衝撃だった。私はてっきりいじめっ子が自殺するんだと思ってた。でもよくこんなことを考えついたよな、みんな。いつかに引っ張られたってことかな。いつかとあすなの視点が交互するのは、真実を知る台詞の裏側を隠すためだったわけだな。本当にすごい。
ラストの始業式のシーンはぞくぞくした。息を詰めて読んだ。せつない。すごく、胸が詰まった。今まで何のためにやってきたかということが分かって、すごく泣いた。
「ぼくのメジャースプーン」再読推奨と言われていたので、人物だけぱらっと読んでいた。もしかして「ぼく」と「ふみちゃん」が出るのかと思っていて推理していたら、やっぱりのあの二人だった。二人とも素敵な青少年になったなあ。でもオチのつけ方はやっぱりこれを読んでいないといまいち分からないというのが不親切かも。郁也と理帆子も出てきて、総集編みたいな形で辻村信者としてはとても良かった。これはオススメ! でも「ぼくのメジャースプーン」と「凍りのくじら」必読。

20世紀初頭のヨーロッパ。アップフェルラント王国の孤児ヴェルは、囚われの身の少女フリーだと運命的な出会いをした。彼女の手には前世界を揺るがしかねない、王国に隠されたある重大な秘密が! ヴェルは好漢フライシャー警部とともにフリーダを救出。しかし、強大なドイツ帝国軍の魔手もすぐそこに迫っていた——。
心躍る波瀾万丈の冒険小説!(裏表紙より)
分かりやすくて楽しい物語だった。時代設定がはっきりしているのと、子ども向けを意識しているような、まっすぐな少年ヴェルが主人公。フライシャー警部は手助けしてくれるかっこいい大人として描かれているように思ったので、児童文学的な印象。少年少女、警部、男装の麗人、王国の秘密、大国の陰謀、蒸気機関車、飛行機、がキーワード。男装の麗人アリアーナがかっこよくて好きだ。フライシャー警部といい感じでまた楽しい。ラストのオチのつけ方がなるほどすごいな! という感じで、これはヨーロッパを舞台にしないと書けないなと思った。

藤子・F・不二雄を「先生」と呼ぶ、その作品を愛する父が失踪して5年。高校生の理帆子は、夏の図書館で「写真を撮らせてほしい」と言う一人の青年に出会う。戸惑いつつも、他とは違う内面を見せていく理帆子。そして同じ頃に始まった不思議な警告。皆が愛する素敵な”道具”が私たちを照らすとき——。(裏表紙より)
ノベルスで一度読んだ。痛くて苦しくて切なくて泣いた。
理帆子の立ち位置がなんとなく分かる。誰とも仲良く出来るけれど、繋がれないと思っている。本当はみんなが好きだけれど、自分は嫌いという思考が見えた気がした。見下してしまったり、一人だと思い込んだり、寂しさを遊びで埋めたり、は、とても若い。読むと苦しい青春だと思う。
見所は、理帆子がつながっていくところと、若尾が段々怖くなるところ。
もう導入から好きだ。照らす必要があるから、と答えるようにしている、理帆子の光への思いの強さ。辻村さんの人物の書き方はリアルで、どんな部分も綺麗に見える。文章がとても好きだ。
後の理帆子が少しだけ出てくるのは「スロウハイツの神様」。ふみちゃんは「ぼくのメジャースプーン」の登場人物か。まとめないかなと思ってWikiを見たところ、理帆子は「名前探しの放課後」にも出てるらしい。

七人の宮姫が立つ世界、東和の地。
七宮の称号を持つ空澄姫は対立していた三宮常磐姫と会談し、その和解を人々に示した。だが、各勢力との対立はまだ続く。
そんな最中、空姫と呼ばれる少女は、市井の少女カラスミとして、ツヅミの街に立っていた。そこはかつて、琥珀色の姫を掲げていた水都ツヅミ。人々を見上げ、出会い、すれ違い、そして再会し、少女は歩き続ける。そして、その眼差しは探していた光景を見つけ出す——。
少女カラスミが見つめる世界。
第9回電撃ゲーム小説大賞〈金賞〉受賞作、待望の第4弾! 七姫物語第四章「夏草話」開幕。(カバーより)
見つけたら読むようにしている。発行ペースがとても遅い。今のところ五章まで出ているらしい。
カラが見つめる世界、ということからか文章がとても幼い。そして短い。その辺りが今回久しぶりに高野さんの文章を読んでなんだか違和感だった。世界感はとても好き。対立したり和解する七人の姫君という人物は魅力的だし、物語が少しずつ動いているのも、思惑が絡み合う群像劇で楽しい。でも文章をもっと濃くしてほしいかなと思う。なんだかじりじりするんだ、カラとヒカゲをもっと大人に!

保健室登校の女友達とのぎこちない友情。同級生と馴染めない、音楽ライター志望の偏屈な女子に突然訪れた恋。大好きな彼とさよならすることになっても、どうしても行きたかった、東京——。山と田んぼに囲まれた田舎の高校を舞台に、「あの頃」のかっこ悪くて、情けなくて、でもかけがえのない瞬間を切ないまでに瑞々しく綴る、傑作青春小説。(裏表紙より)
すごく染みた……。高校生っていいなあ、青春だなあという一冊だった。
秋元さん関連の話が切なかった。好きだけど、好き、だけど、っていう思いが胸にくる。
みんな生きるのに精一杯という感じで、無意識に今を生きようとしていて、その上で経なければならない出来事に、泣いたり笑ったり怒ったり悲しんだりして、そういうの、すごくいい。
あとがきにもあるように、「地味な人なりの青春」っていうものが感じられて、とても引き込まれて読んだ。「こういうドラマ、あるよなあ」っていう私のイメージなのだけれど、いいなあ、いいなあ、とずっと思いながら読んでいた。
とても素敵な一冊でした。これは人に勧めたいです。

あらすじ通り、超ハイテンションだった。
キャラクターメインの小説だなという感じ。異世界に行って、どういう役割を与えられて、どういうことを考えるのかというのは王道。有利の一人称で話が進むので、現代に生きる人間には分かるネタが散りばめられていて面白い。笑った。電車の中でにやにやしていたに違いない。セクシー下着のラストは良かった。
コンラッドが好きなんだが、なんかうさんくささが拭えないなー。女の子成分もっとくれーというので、グウェンダルの婚約者アニシナ嬢が気になる。ヴォルフラムはツンデレか。やっぱりこの話キャラクターが濃い!
アンケートからのオススメでした。ありがとうござました! 続きが気になります。どうしようかな。

もうすごかった。テーマがずっしり来るし、答えの出し方にあっとなった。辻村深月はあっと言わせるのがうまい! それでいて流れが綺麗だ。あらすじを改めて読んで、そうか罪の重さを測ったのかと理解した。
秋先生は「子どもたちは夜と遊ぶ」の秋先生だな。出て来るのは月子と恭司か。真紀ちゃんもちょっとだけ出たか。
私は自分が力を使えるのなら罰の方を「さもなければお前は自分の大切なものを自分で壊す」という風に考えながら読んでいたので、秋先生タイプなのだろうか。
「馬鹿ですね。責任を感じるから、自分のためにその人間が必要だから、その人が悲しいことが嫌だから。そうやって『自分のため』の気持ちで結びつき、相手に執着する。その気持ちを、人はそれでも愛と呼ぶんです」
辻村作品の誰かが誰かを思いやる気持ちは、真っ直ぐで、だから痛くて、素敵だ。