読んだ本とか、漫画とか、映画とか、色々

自身の才能を信じて絵を描いてきた清水あやめは、同級生の映像作品に打ちのめされた「しあわせのこみち」。息をするように嘘をついてきた「チハラトーコの物語」。中学の合唱コンクール、天木と松永郁也の出会いの話「樹氷の街」。三つの短編集。
「しあわせのこみち」に信じられないほど打ちのめされる。うわああってなる。どこが分かるって言ってしまうとあれなんだけど、本当にすみませんごめんなさいって言いたい。清水の気持ちも分かるし、田辺の気持ちも分かるし、翔子の気持ちも分かってしまう。
清水がつけた「幸せの小道」が出てくるこの話が、「しあわせのこみち」というひらがなのタイトルになっているのは、なんだかとてもいい。
「チハラトーコの物語」はアングラ的な何かを感じさせつつ、傷付いた人の話なのかもなあと思う。最後に希望が見えるという。アマノウズメ役をやったのは、『太陽の坐る場所』の彼女だと思われる。
「樹氷の街」。秀人があんまり出てこないけど、椿・愛なのはよくわかったので満足。天木は少し足りないなあと、鷹野と比較して思ったりする。みんなで何かをやり遂げる話は『名前探しの放課後』の方が勢いがあって好きなんだけれども、こっちの温かい感じもすごくいい。
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遠征王アイオリア最愛の“いとこどの”こと女大公ゲルトルードが突如、倒錯青年貴族との結婚を宣言。猛反対のアイオリアはこの結婚を潰すべく暗躍(?)するうち、神聖シングレオ騎士団秘蔵の宝剣エヴァリオットをついうっかり抜いてしまう。そんな折、宮廷ではアイオリアを偽王とする声が高まっていた。「あれは王家の血を引いておらぬ」……出生の秘密ゆえ生命の危機に瀕したアイオリアを前に、ゲルトルードは——!?(裏表紙より)
あらすじのコメディさとは裏腹に、中身はかなりシリアスで陰謀策謀の内乱が起こる巻。段々世界観がはっきりしている感触が私の中であって、面白い世界だなあと。幻想的なものがかろうじて残っている世界の、人の争い。そこにそれら残っているものが介入したり、重要な位置を占めていたりして、面白い世界観だ。
ルシードとジルの結末が分かってしまったわけで、プリハー最新刊のタイトルにどうなるの! と思っている彼らの未来がこうなるというのは、やるせない半分、とてもリアルさがあって面白くてうなってしまうのが半分。
たった一文しか出ていないヘメロスと珊瑚がかわいくてきゅんとしました。一文だけでもえられるとかどれだけ好きなんだろう私。

男装の女王アイオリアI世の、愛妾の席がひとつ空いた。
さっそく栄誉ある後宮《花園》入りを賭け、国をあげての美女探しが始まり、お祭り好きの王様も政務を放りだして、みずからスカウトに出かけてしまった。ところがその旅先で愛妾候補として白羽の矢が立ったのは、王騎士ジャック=グレモロンの相棒、槍使いゲイリー=オリンザの娘で……!?
大人気、遠征王シリーズ第2弾!(裏表紙より)
薔薇の騎士を立てて愛妾を選ぶというのはとてもロマンチックなのに、そこにあるのは世界にある身分差や民族の迫害や、国家間の戦争だったりして、とても現実味があって、面白かった。面白いという表現はちょっと違うかもしれないけれど、生きているという感じがした。
かと思うとラストはものすごくシリアスで、まだまだ謎がありそうでわくわくする。シリアスとコメディのバランスすごいなあ。すごく楽しい。続きも読もう。

「怖くはないのか」
少年は言った。身のうちのどこかが、ひどく痛むかのように。
少年は、闇を抱えていた。
自身ですら気付かない深い闇を。
「……怖いわ。けれど、颯音。あなたと共にいられるのなら」
茜色の夕日が小さな部屋に射し込み、片隅に座る少女——鳴を照らし出した。
異能の力を持つ故に〈業多姫〉と呼ばれる少女・鳴。異能集団「狐」から、鳴を守ることを誓った少年・颯音。二人は旅立った。全てを捨てて。二人だけで。けれど、共にあることのできる時間は、あまりにも短かった。
戦が戦を呼ぶ戦乱の世。二人の絆が、試される——。(カバー折り返しより)
異能と少々の謎と戦いの物語。少年と少女がお互いを支えに生きていくシリーズの二巻。能力者が暮らす里に入ったはいいものの、そこでも変わらず戦いの気配はあり、裏切り者の存在があり、というのが今回。
話の進みが遅くて、じりじりさせられるのですが、二人の絆、思い合うところがとても切なくていい。大切すぎて、どちらも不器用で、遠ざけるか、駆けていくことしか知らないようなところが、とても愛おしい。二人が幸せになるのはいつのことだろう。

剣の腕をたよりに騎士をめざすジャック=グレモロンが、街の酒場で出会った青年オリエはとんでもないタラシ。なりゆきまかせにコンビを組んだ武術試合で、勝利を手にしたふたりだったが……気づけばなぜか女城守の愛人に!?
のちに遠征王と呼ばれた男装の女王アイオリア一世と、双刀の剣士——敵の返り血で朱と染まる姿から、《ジャック・ザ・ルビー》と渾名された王騎士の、これがはじまりの物語。(裏表紙より)
コメディファンタジー。政治情勢などシリアスなところはあるけれど、待てーい! というような笑い部分が多くて楽しかった。女性でたらしの主人公はままいるけれど、ここまですごいのは久しぶりに見た気がする。オリエかっこいい。この人はプリハーのルシードとメリルローズ(ジル?)の孫なわけなんだな。
世界観がすごく作り込まれている気がして、端々に感じられる空気がとてもいいなあと思った。時代の変遷が丁寧に描かれているような。
ヘメロス・ソーンダイクが出てちょっと嬉しかった。『黎明に向かって翔べ』が好きなのだ。

オリンピックを控え、急激に変貌を遂げていく東京。下町の古本屋で働く七人の少年たちが、勉強会を始めた。夢は独立開業。その資金のため共同で積み立て貯金を開始したが、青春期特有の人間関係の難しさに悩む。少年から大人へと脱皮するとき、誰もが味わうほろ苦い体験を優しい筆致で描く自伝的青春小説。(裏表紙より)
小説というより、過去日記? 東京オリンピックが開催される年に、出久根さんは二十歳を迎える。その少し前から、古書店で修行中の若者たちが集まってどうこうする話が書かれています。
印象としては、現代的な文体の文豪の日記や日常、という感じ。人間関係を丁寧に描いている感じが、そういう風に取れます。あんまり文豪作品には詳しくないのであくまでイメージ。
事件らしい事件は、主に人間関係にあって、そんなありふれたわずらわしさがなんとなく楽しい。そんな年じゃないのに、なんだかすごく懐かしくて、とても楽しいなあと思うのだ。

18歳で父を倒しアジェンセン公国の大公となったルシードは、かつて人質として子供時代を過ごしたパルメニア王国から、愛する美しい王女メリルローズを妃に迎えた。ところが、パルメニアがよこしたのは彼女そっくりの身代わりの少女ジルだった! しかし、ある事情からルシードはジルを大公妃とするのだが!? 華やかなロ・アンジェリー城を舞台に、恋と野望の王宮ロマンのはじまりはじまり!(裏表紙より)
面白かったー! ジルかわいいよー! 仮面夫婦で冷め切って殺伐としていて、すれ違いっぷりが一冊丸々すごいんですが、最後の最後で微かにデレる。この「微かに」が非常にたまらなくて、続きが読みたくなる!
主人公側が完全に善の役割でない(主にジルが)というのがいいなあ。ちゃんと善なんだけれど、はっきり善とは言えない感じ。ルシードは政略とは無縁っぽいのでそれに反発して。でもそれよりももっと強大な悪が存在していて、どう立ち向かっていくかというのが気になる。
まだまだ秘められたものがたっぷり込められていそうなので、続きも読もう。

あなたの人生は退屈ですか? どこか遠くに行きたいと思いますか? あなたに必要なのは見栄えのよい仕事でも、自慢できる彼や彼女でも、おしゃれな服でもない。必要なものは想像力! 家出の方法、ハイティーン詩集、競馬、ヤクザになる方法、自殺学入門……。時代と共に駆け抜けた、天才アジテーターによる100%クールな挑発の書。(裏表紙より)
読み始めは「ん?」と思ったのに、中盤になるとぐいぐい読まされていました。しかし中盤を過ぎるとなんだか洗脳されているような気分でちょっと休み休みして。濃かった……。
初版が昭和50年。時代を感じると私のような小娘は思い、完璧に同意するわけではないけれど、何故か覗き込んでしまった新しい世界に、魅力を感じています。色々衝撃的な世界だ……。
初めはその世界の有様など、中盤過ぎてから段々競馬とお馬さんの話になりますが、また戻ってきて若者に語りかけるような内容になります。印象的だったのがストリッパーの話(p91)、「二人の女」(p122)、「馬の性生活白書」(p195)。第三章ハイティーン詩集も当然すごかった。
こういう世界の話を、一度でいいから書いてみたい。
「エンピツじゃ人は斬れないが、ことばじゃ、人は斬れる」(p181)

「どこに行っても忘れない。あなたの思い出を胸に生きていく」
頭上を飛び交う矢。燃え上がる炎。そして少女は、握りしめた少年の手を離した——。
異能の力を持つ故に《業多姫》と呼ばれる少女・鳴。如月のある日に最愛の母を殺され、それと同時に鳴自身にも迫る刺客の魔の手。追っ手から逃れながら母の死の謎を解こうと奔走する鳴は、颯音と名乗る不思議な存在感を漂わせた少年と出逢う。
戦の行方を左右する業多姫の存在を巡り交錯する様々な思い。
戦乱の世を舞台に描く、第二回ヤングミステリー大賞準入選作。惹かれ合う二つの魂が、歴史を、運命を変えていく——。(裏表紙より)
和風、歴史、ファンタジー、ミステリーの要素がたっぷり詰まってました。ライトノベルかと思ったらミステリーの比重が大きくて、それが更にライトノベルの要素と絡み合って、すごく面白かった!
鳴の天真爛漫さと業の深さ、にはちょっと納得がいきかねたのですが、魅力ある女の子というのは十分伝わってきたので満足! 颯音も刺客にしてはちょっと揺らぎすぎな気もするけれど、鳴に惹かれているのが分かってかわいかった! この二人それぞれの一人称で話が進むというのも、結構意表をつかれました。またそれが、好意を感じているのに踏み切れないというのが分かってかわいいのです。お互いが孤独で、でもようやく見つけた人。信じることを止めないで前を向き続けること。たくさん眩しかったお話でした。