読んだ本とか、漫画とか、映画とか、色々

温かかった。
春の陽射しも、寄り添う互いの体温も。
憶えている? と、鳴は颯音に問いかける。
「この『故郷への旅』に出ようとあなたが告げた日の約束」
明るい浅藍の空と、それよりも深い色をした水。颯音の故郷の海を見つめながら、鳴は訊ねる。
颯音は、頷く。
傍らの鳴の温もりを感じながら。憶えている、と。
赤く色づき始めた楓の葉が舞う中で交わした約束。小さな命が、その腕の中にあった日。
夏と秋と初冬——巡る季節を二人は思い出す。
幾つかの出会いと別れを。
再び出会うであろう、懐かしく優しい人々のことを。
鳴と颯音、二人の軌跡を綴る、初の短編集。(カバー折り返しより)
これの前に伍之帖を読んでしまっていたので、この短編集のほのぼの感が嬉しいやら切ないやら。
本編そのものは鳴と颯音の一人称の交代で進むので、他の登場人物の視点でお話が語られるのが面白いなあ。他人の視点から見る鳴と颯音が好きだ。なので「撫子色の約束」が好きだし、ちょっと不思議なお話でもある「早緑月を待つ冬陽」が好きだな。
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ルシードが北へ遠征中、ロ・アンジェリー城の大公妃ジルのもとへ、愛妾選考会で選ばれた美しい伯爵令嬢オルプリーヌが花嫁行列をなしてやってきた! 突然の事態にジルを除いて城は大混乱。そんななか凱旋してきたルシードは、自分の愛妾の出現に驚愕! ますます大混乱の王宮で、オリプリーヌが意味あり気な行動を…!? マシアスの意外な過去も明かされる! 華の王宮で、恋と野望は止まらない!
二巻め。愛妾候補が王宮に押し掛けてきた! という感じで、陰謀は解決されないまま三巻へと続く。
ジルがかわいいなあ。ルシードもジルのことを気にしているのに、この仮面夫婦は全然素直になれなくて、というより自覚がなくて。見ていてにやにやする。
政治面がとても分かりやすいというか読んでいてなるほどーと思う。本当に作り込まれた世界だよなあ。そういう背景があるのは、すごく面白いな。

死者との再会を叶える『使者(ツナグ)』。再会できるのは一人一度だけ。突然死んでしまったタレントに会いたい女性、母親に会いたい五十代の男性、事故死した親友に会いたい女子高生、行方不明の恋人を捜す男性。巡り合わせで『使者』と繋がったかれらは、死んでしまった人と再会しようとする。連作長編小説。
特殊能力を持った人間がつなぐ、生者と死者の物語。一人称がなんだかめずらしい気持ち。
陰気な女性や女子高生の描写に、痛い痛い痛いと呻く。そして、派手な女性に対する視線。物語の本筋とは関わらないけれど、そういう細かいところが辻村さんで好きだ。
一話一話にあっと思うところがあって、ある話で絶望的な気分になる。残酷だ。辛い。何故かそういうテンションだったのか、こういうことが自分にあったらどうしようと思って怖くなる。
最後の話に、顔文字で表すなら(´・ω・`)という顔になる。一ヶ月ほど前に祖父を亡くしただけに、受け継ぐものがあっていいなあと、羨ましい気持ちにも。

「残り何日か知りたい? 知ってその日までは苦しまずに過ごせる?」
残りの日々。それは“颯音”が消えるまでの日々。
颯音と同じ瞳、同じ声。けれど目の前にいるのは別のひと。
——うそに決まっている。
海鳴りが耳を劈き、向かい風が、震える少女の頬をなぶる——。
南の海に突き出した半島、入陽崎。異能集団「狐」の本拠地にやってきた鳴と颯音は、沖に現れるという帆掛け船の噂を探ろうとする。だが、颯音の故郷でもあるその地は、封印された彼の真実の姿を暴き出す。
“颯音”を生み出す発端となった十年前の春惜月——弥生の事件。徐々に膨らんでいくもう一つの人格、和玖也。そして、村の片隅で密かに進められる奴隷商いと、自我を崩壊させる不可思議な薬。全ての裏で糸を引く「狐」との戦いを前に、鳴と颯音、二人は——。
五百年前の昔、最後の戦いへ向けた幕が上がる。(カバー折り返しより)
最後の戦いに向けて、鳴と颯音の関係も、捉え方の変化が。颯音のもう一つの人格、和玖也の育ったという村にやってきて……という巻。過去と向き合うのは必要だと思ったけれど、そういう解決かあと不思議な気持ちになった(異能の力とともに去っていった和玖也)。最後の戦いは、とても困難な道になりそうだ。
青津野刑部が、意外にできるひとっぽかったのがびっくりした。変態っぽかったけど。


新しい校長の方針によって男子校の授業を受けられなくなってしまったエリカたちは、最上級生としてある知恵を絞り…!? ナイトリー・レディズ・カレッジを卒業後、友人たちはそれぞれの夢を胸に旅立ち、エリカはオールソップ家の女准男爵として町に留まる。アメリカに渡ったジェラルドとは文通を続けていたが、投資家の青年ヴィクターが近づいてきて…!? 大人になった彼らの超ロマン!(裏表紙・前編より)
最終巻。駆け足感があるけれど、ついに終わってしまうんだなあと思って読んだ。今回の歌はスカボロー・フェア。思わずKOKIAのスカボロー・フェアを聞きながら読んでしまう。
ああ、よかった……。よかった、みんなそれぞれの道を歩むことに後悔していなくて、本当に良かった。ドロシーとイザベラの未来を見て、人生って本当に何が起こるかわからない! という気持ちになる。描いていたものと違う、本当の自分が現れるのが人生なのかなあ。
思いを通わせたエリカとジェラルドに襲いかかるのは、ジェラルドのハンフリーズ家の破産と、アメリカに渡った彼の音信不通。そして、エリカには新しい男性の存在が。めいっぱいすれ違いで、くううっとなりながら読む。
ヴィクターに対しているときのエリカの、昔はみんながいて手助けしてくれたけれど今は私はひとりで、なんとかするしかない、と考えるところが、寂しいようでもあり、がんばれ! と応援したくもあり。それでも前編の中に登場する人々が、まだみんなつながっているように感じられて愛おしい。
この最終巻の前後編になってから、学生時代のケンカップルなところはなりを潜めたエリカとジェラルドですが、大人になっただけあってそのすれ違いが切ないものに。でも幸せになってよかった。それだけに、ロジャーがいなくなってしまったのが寂しいです。六人それぞれの未来を、つながりあって歩んでいくんだろうと願っていただけに、夢を描いて去ってしまったロジャーのことが悲しい。
しかし、本当にいいお話でした。ありがとうございました。

十一月二十二日、日曜日、大安。老舗ホテル・アールマティで行われるその日の結婚式は四つ。双子の姉妹、わがままな新婦、結婚を取りやめたい男、そして新婦を毒殺しようとしている(?)新郎。その日、双子は罠を仕掛け、トラブル続きでウェディングプランナーまでが走り回り、男は放火を画策し、新婦の甥の少年は新郎の密会を知り思い悩む。「何事においても全て良く、成功しないことはないとされる大安吉日」の物語。
おめでたい話ばかりではなくて、ちょっと毒がある感じでした。辻村作品の中ではエンタメ方向に針を振っている感があるなと思う。
お話は、四つのカップルの結婚式が行われるその日の一連の騒動について。雑誌で双子姉妹の話を読んだ覚えがあるので、こういう風にまとまったか、と面白かった。双子の屈折と依存というのが好きなので、読んでいてにやっとしてしまった。
すべてのことがうまくいったわけではなかったけれど、結局はみんな落ち着くべきところに落ち着いたのでほっとしました。気になっていたプランナーの山井さんのその後があって嬉しかった。辻村作品リンクがあったのも嬉しかったな! でもどシリアスな方向にいかなくてよかった(つまりそういう話からのリンク……)

恋の季節、ヴァレンタイン。ジェラルドの伯父の家へ遊びに行ったエリカは、ジェラルドの従妹レベッカに出逢う。レベッカの書いたヴァレンタイン・カードを、彼女の母親に頼まれて手渡したエリカに、ジェラルドは激怒して。こじれてしまった二人の仲は、エリカの誕生日パーティである局面を迎えるのだが…。エリカとジェラルドの関係が急速に展開する。不器用な二人のロマンスの行方は…!?(カバー折り返しより)
シリーズ第三巻。ジェラルドとエリカの関係に変化が……という巻でもあり、二人がこれからのことに対して決意する巻でもある。ロジャーの気持ちも分かって、むずむずにやにやする。リトル・レディシリーズの少年少女たちは、なんだか純粋で素朴でかわいらしいなあ。
今回のマザーグースはヴァレンタインの歌。この歌が今回もうまく利いていて、にやにやしてしまった。薔薇を持ってきたジェラルドにじたばたする。なんだかんだ言って、彼はとても紳士なのだよな。

行方不明の父親を捜すため、倉西美波はアルバイトに励んでいる。そのバイト先で高額の借金を負うハメになり困惑していたところ、「寝ているだけで一晩五千円」というバイトが舞い込んだ。喜び勇んで引き受けたら殺人事件に巻き込まれて……。怖がりだけど、一途で健気な美波が奮闘する、ライトな本格ミステリ。期待のシリーズ第一弾! 短編「たった、二十九分の誘拐」も収録。(裏表紙より)
元々表紙のイラストが好きで気になっていたのですが、ようやく読みました。高校生が主人公のライトノベル本格ミステリ。主人公美波は普通の女子高生だけれど、彼女の親友は、警部が父親の江戸前口調の美少女と、政界財界に顔が利く元華族のお嬢様、探偵役は美波と犬猿の仲である引きこもり大学生と、設定が全面的にライトノベル。美波がすぐ泣くところがなんだかなあと思いはしたけれど、これが高校生の普通の反応だよなあとも思う。
「密室」という言葉に複数の意味を持たせたところが、最後にほろりとしました。
短編の「たった、二十九分の誘拐」がすごく好きだー。死が絡まない日常の謎ものがやっぱり好きなんだなあと思う。オチも好き。