読んだ本とか、漫画とか、映画とか、色々

若美谷中学1年5組の塚原マチは、自分の意見を主張できない、頼み事を断れない、そんな性格を直したいと思っている。ある日、図書室で本をめくっていると、一枚の紙が滑り落ちた。そこには、丁寧な文字で『サクラチル』と書かれていた。貸出票には1年5組と書いて、消された跡がある。書いたのは、クラスメイト? その後も何度か同じようなメッセージを見つけたマチは、勇気を振り絞って、返事を書いた。困っているはずの誰かのために——(「サクラ咲く」他2編収録)(カバー折り返しより)
中学生から、と書いてあるちょっと児童書っぽい雰囲気の辻村作品。いつものぴりっとした刺々しさはなく、すいすいと読める話が三編収録。「約束の場所、約束の時間」「サクラ咲く」「世界で一番美しい宝石」これらにはすべてどこかに繋がりがあるというのが、いつも通りで嬉しかったです。
SF、真面目で気弱な中学生が大きく成長する友情もの、そして青春ものと、心にすとんと落ちてくるような素敵な中編ばかりで、やっぱり好きだなあ……と思いました。「サクラ咲く」は長編になるともっとずっと痛い話になるんだろうけれど、春が来る、花が咲く、生き生きとした、未来への展望が感じられるいい話で、すごく好きです。
そして、みんなちゃんと大人になって、友人との繋がりを持ったままなのがすごく嬉しかった。
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女子校の中等部に通う赤音。親友の春来と楽しい学校生活を送っていた。しかし、学年の中心的存在の少女・舞がふたりの友情を引き裂いてしまう! ふたりの間に割りこもうとする舞を拒んだことで、赤音はクラスメートから嫌がらせを受けるようになる。以来ひとりぼっちでいる赤音。だが彼女には、誰も知らない秘密があって…! 乙女の園で華やかに繰り広げられるリリカル・ミステリー!(カバー折り返しより)
学校という小さな世界での少女たちの物語! 学校からほとんど出ないのに、ここまでぐいぐい読ませられるのはすごいなあ。友情と裏切りって、とっても美味しいものだと思います。そこまで友人が絶対である学生って、すごい生き物だよなあ。
赤音、春来、舞、琴乃がそれぞれぎりぎりと精神にダメージを受けている感じがとてもよいです。特に赤音と春来は、物語上、必要以上に傷つけ合っている。舞と琴乃はそれぞれの立場を自覚する頭のいい子たちなので、一歩退いたところにいるのですが、四人の少女がいるとそれぞれの心理状況にいろんな見方ができて面白い。でも、舞は事態をこじれさせただけなんじゃないかなあ。自信のある人が陥りがちなことですね。結局彼女はどうなったのかも見たかった。
名前にまつわる少女と心とミステリというのが、とってもよかったです!

『特別』な才能を持った少年少女だけが入ることのできる『特別』な塾。ヴァイオリニストとして活躍する少女・盟は、音楽枠で塾を受験する——。合格者はわずか二人! だが盟は当然のように難関を突破する。入学した塾では、裏口入学の生徒がいるという噂があった。盟はいっしょに試験を受けた巴のことを疑うが……!? クラシックな塾で華麗にくりひろげられる、リリカル・ミステリー!!(カバー折り返しより)
友桐さんがまた本を出されると聞いて、コバルトのを探して読んでみることにする。友桐さんの作品は『白い花の舞い散る時間』しか読んだことがない上、だいぶと昔だったので、エージェントものだったっけ? と最後はぽかんとしましたが、やっぱり少女で陰鬱でミステリな物語はよいものです。疑心暗鬼と、本物の友情と、まだ自分たちが属していない社会を仰ぎ見ている感じが、ぶるぶるして読んでしまいます。
音楽に選ばれ、音楽を奏でる天才である盟。実力はありながら一歩及ばない印象、しかしミステリ好きの社交家な沙耶、才能を持ちながら目立たない沙耶の従弟・拓斗、実力が備わっているか疑わしい巴。選ばれた存在、というものをどのように追っていくか、受け止めるか思い悩む少女たち。最後は一作目の『白い花の舞い散る時間』にぐるっと戻っているようなので、読み返したいし、他の作品を読んでいきたいです。昔はさほど印象を受けなかったんだけれど、読んでみるといいなあ、これ。

十八諸島の世界を巡り、世界各地で話を集め、他の土地へと伝え歩く、それが我ら語り部の生業。冬至の夜、我らは島主の館に集い、夜を通じて話をする。それが煌夜祭——年に一度の語り部の祭。お話ししよう。夜空を焦がす煌夜祭の炎壇でも照らすことの出来ない、真の闇に隠された恐ろしい魔物の物語を……廃墟となった島主の館で、今年もまた二人だけの煌夜祭が始まった——!
第2回C★NOVELS大賞受賞作(裏表紙より)
『〈本の姫〉は謳う』の感想の時にこれ読んだはずなのに記録がない……と首をひねっていたんですが、読み始めてやっぱり読んでる! が、結末が思い出せない……ということで再読しました。ブログでは初めての感想ですね多分。
人と魔物と語り部の物語を、語り部が語ることによって、人々の生きたもの、繋いでいくものが次第に明らかになっていく。魔物はどうして存在するのかという理由は明らかにされないものの、語り継ぐ人々の力によって、世界がいい方向にも変わっていけるエンディングでした。誰と誰が繋がり、誰が生きているのか考えながら読んでしまうと「えっえっ」とページを戻ってしまうんですが、本がまさに語っているなあという物語で、とても面白かったです。
『夢の上』もあるので読もう。

“日本一おもろい旅人OL”てるこのルーツ、ここにあり! 50歳を過ぎて、腹話術師になったおかんとの爆笑バトル。石仏の如く動じないおとん。「ガンジス河でバタフライ」の前に泳いだ元祖は淀川だった! ハチャメチャで痛快な、抱腹絶倒の日常エッセイ第一弾。〈『お先、真っ白』に新作エッセイを加え、改題〉(裏表紙より)
関西弁満載なエッセイ。破天荒なおかんと石仏のようなおとんと、たかのさんのやり取りが、こんなの本当にあるの? というおかしいやり取り。大阪のおかんの無茶苦茶さは知っているつもりだったけれど、これはちょっと迷惑レベルでは! なんて思いながらも楽しく読みました。おかんの無謀さに恥ずかしい思いをする時期って、あるよね……。
友人たちのキャラもすごく、特にいい間違いはすごい。コントでしか見ないよ!
かと思えば、青春時代のきらめきと静かな影の出来事を書いていたりして、しんみりもする。

人はあの冷たく滑かなものを口中にふくむ時、あたかも室内の暗黒が一箇の甘い塊になって舌の先で融けるのを感じ、ほんとうはそう旨くない羊羹でも、味に異様な深みが添わるように思う。(本文より)
——西洋との本質的な総意に眼を配り、かげや隅の内に日本的な美の本質を見る。(裏表紙より)
日常にある、日本的な陰翳と明るさを西洋のものと比較した随筆。昭和初期から半ばくらいにかけてのものなので、西洋に傾きつつある日本、開発されていく日本の町の風景が覗く。
最初の「陰翳礼讃」の章がすごくて! そうそう、そうなんだよ! と頷くことしきり。読んでいて思い出したのは、自分の塗り物に関する記憶。私は、塗り物があんまり好きでなくて、どうしてこうぎらぎら光を跳ね返すものがもてはやされるんだろう? と思っていたのですが、多分蛍光灯の下で見ているせいでしょうね。元々、蝋燭や灯籠の側で見るものだから、もっとしっとりと影に触れるようなものであると思うのです。建物や内部の濡れたような黒さや、灯りに照らされる闇という言葉。そういうものを知っている人がいるんだ! と思いました。

「わたくしのアルフォンス陛下が、男と——結婚!?
そんなのぜったい認めませんわ。ぶっツブしてくれます!」
お妃候補(だったハズ)のじゃじゃ馬姫・アンナマリアが、真相究明のためにとったトンデモナイ行動とは?
「わが王に申し上げます(エスト・ミ・デルタ・ロジェンダス)」……至上の存在に、そう語りかけるものは誰か。国王の結婚と、炎の宝剣エヴァリオットをめぐって、いま公私混同陰謀劇の幕が上がる!(裏表紙より)
前二巻に対して、後日談的な印象のある、陰謀なども若干ライトな三巻目。ファリャ宰相の娘アンナマリアの大騒ぎと、アルフォンスとマウリシオ、キースのその後。
キースは成り代わりをしていた頃は王様らしかったのに、すっかりすれた大人の男になっていました。対して、アルフォンスは挿絵の威力もあるのですがとても可愛らしいお嬢さんに。王と国という物語から、この巻は非常に女性陣が強く、コメディっぽくなっていてそれが嫌かというとそうじゃないんですが、なんだか軽い巻になっていていい後日談だったと思います。
遠征王やパルメニア史にまつわる色々もあり、他の作品を読んで関連を探したくなる。
しかし、何故か異様に誤字脱字が多いんだよな……。改行も変だし。意図してやってるのかな。

キースに裏切られ玉座を追われたアルフォンスは、反貴族派レジスタンスに加わりながら、“王を戴かないパルメニア国”の進むべき道を模索していた。一方、偽王の疑いをかけられ進退窮まったキースは、ついにアルフォンスとの接触を図って——。
「……わが王に、永遠の忠誠をお誓い申し上げる」
侍従マウリシオが膝を折るのは、果たしてどちらの王の御前か。パルメニア物語最大の謎がいま明かされる。衝撃の結末を見よ!(裏表紙より)
偽物の王キースか、レジスタンスにいる正統な王アルフォンスか。他国からの侵略と貴族たちの思惑のもと、国は動き、未来へ漕ぎ出す。アルフォンスはすごく大人になった。知恵と力の使い方を知って、誰かのために動くことができるようになった。
しかし、パルメニアシリーズの主従の「従」の人って、どうしてこうもおかしい方向にねじくれてるんだろう! お前はまったくいい従者だよ! っていう気持ちと、この朴念仁が! という。手のひらで転がされた怒りは分かる。なんか変だなーと思っていた人物も、実はそうでしたという事実にあっと言わされたのは悔しいなあ。そして初恋をこじらせた人たちの歪みが。高殿作品! って感じだ。

重大な秘密を抱えたまま王位に就いたアルフォンスは、ある日偶然にも、自分と同じ顔を持つ少年・キースと出会った。
王の責務から逃れたいアルフォンスは、かりそめの自由を満喫するために“互いの立場を入れ替える”という悪戯を思いつく。それが、従順な協力者のふりをしたキースの策略とも知らずに。
「……アルフォンス、お前に王の資格はない!」
パルメニア物語の原点がここに! 高殿円、渾身の衝撃作!!(裏表紙より)
パルメニアシリーズ。時代的にはプリハー、遠征王より後。無性体のアルフォンスと、そっくりな少年キースが入れ替わりと、王制と貴族支配、市民の革命が起こる物語、でいいのかな。プリハーを読んでいると、剣と魔法と精霊、伝説が生きるあの時代から、やがて一般市民が立ち上がる革命の時代が来るのかととても感慨深い。
才能を持ち、王子に生まれながら、力を腐らせるアルフォンス。かたや、入れ替わりの国王になりながらもあのエヴァリオットを従えてしまったキース。生まれついた星、というのは罪深いというか、運命的だと思わずにはいられない。そうして国を支えよう、変えようとしている若者たちがいる一方、腐敗した貴族たちがいるわけで。
面白いよう、面白いよう、と言いながら読みました。続きが気になるところで引いたよ!

姫とともに文字を回収する旅も終わりが近づく。しかし世界の滅亡を望むレッドはバニストンに災厄の種をまき散らした。懐かしい街、恩ある人々の危機に必死に闘うアンガスに彼は言い残す。「オレを殺す覚悟が出来たら第七聖域まで来い」追い詰められていくアンガスは「希望」を捨ててしまうのか? そして〈俺〉という語り手によって紡がれたもう一つの物語が交錯する時—―! 多崎礼の手で緻密に織られた世界がここに完結する。(裏表紙より)
二巻、三巻で、だんだんとこれは「巡る」物語なんだと分かっていましたが、分かっていただけに、辛さも喜びもひとしおでした。みんな、「希望」のもとに寄り集まって、再びこうして手を貸してくれたんだと思うと、光ってすごいなあ。
バニストンで起こった災厄、しかしそれは絶望への一歩でしかなかった。結果、大切な人が失われ、憎しみに取り憑かれるアンガス。しかし、そんな彼を救ったのは、セラを始めとした、希望を求めた人々の存在。アザゼルの物語もまた終局を迎えていき、アンガスという存在が何者であったのかが明かされる。
世界の運命の観測、という実はすごく壮大な設定があるんですが、そういう大層なものではなくて、アンガスが、アザゼルが、足掻いてもがいて旅をしたり何かを得たりする、多分希望を見つけるための話だったと思います。
最後は、どうせだったらみんなと未来を語り合っているアンガスが見たかったなー! と思いながらも、ハッピーエンドを観測するアンガスとセラを見ることができて本当によかった。私も彼らの世界が希望に溢れていることを祈る。
面白かったです。