読んだ本とか、漫画とか、映画とか、色々
神田御台所町で江戸の人々には馴染みの薄い上方料理を出す「つる家」。店を任され、調理場で腕を振るう澪は、故郷の大坂で、少女の頃に水害で両親を失い、天涯孤独の身であった。大坂と江戸の味の違いに戸惑いながらも、天性の味覚と負けん気で、日々研鑽を重ねる澪。しかし、そんなある日、彼女の腕を妬み、名料理屋「登龍楼」が非道な妨害をしかけてきたが……。料理だけが自分の仕合わせへの道筋と定めた澪の奮闘と、それを囲む人々の人情が織りなす、連作時代小説の傑作ここに誕生!(裏表紙より)
『銀二貫』が面白かったので、評判のみをつくし料理帖シリーズも読み始めました。最初の、まだ戸惑っている澪が、ゆっくりと人に、町に馴染んで、繋がりを得ていくところがとても染みて、面白い。ある瞬間の繋がりに、あっとなって、うるっとしてしまうのは、人情が色濃く描かれる時代小説の醍醐味だなと思います。ひとつひとつの話がまとまりよく進んでいくので、ふーんと思っていたら、最後の話で泣かせにかかられて!
実は酒粕汁も心太もあまり好きじゃないので、美味しそうに感じられなかったのだけが残念です。偏食な自分がちょっと恨めしかった。
PR
「ことば」を身につけゆくキリヒトと、「ことば」を操る図書館の魔女・マツリカ。二人だけの秘密が、互いの距離を近付けていく。だが、一方で、周囲の強国との緊張関係は高まるばかり。発言力を持つがゆえに、一ノ谷と図書館は国内外から牽制され、マツリカを狙う刺客まで遣わされる。迫る危険と渦巻く陰謀に、彼らはどう立ち向かうのか。(帯より)
拍手!! 41字×18行×800ページの下巻。長かった。でもちゃんと終わったー……!
下巻の内容は、マツリカが片腕の自由つまり声を奪われ、一の谷とニザマとアルデシュという三つの強国が戦争回避のために動く、大きな巻。
図書館の魔女の本領発揮で、知謀知略を尽くすマツリカがかっこいい。世界観の創り込みと文章と展開のせいでそうとは感じ取れないようになっていますが、マツリカが最強過ぎる。だからこそ、腕が使えなくなってキリヒトに縋るシーンは苦しく悲しく、そして可愛らしかったりするのです。
そうなんです、大人たちの陰謀が渦巻いている中で、マツリカとキリヒトの可愛らしさ!! 少年少女!! ところどころこいつらかわいいな!? というところがあったのですが、最後に大サービスしてくれて笑み崩れました。でも最後だから切ないんだ……。演出が憎すぎて、でも少年少女いい……と胸がきゅうっとなった。
すべてのことが終わったわけではなく、ここから始まる物語です。キリヒトという少年がマツリカに出会ったことで己の未来を決めていこうとするところは、マツリカが狂ったような世界に相対しなければならないと感じ決意を固めていくところも合わせて、王道なボーイミーツガールかも……と思いました。二人がまだ若いというのがいい。これからどんな困難があっても、二人が繋がっていようとする清々しさが感じられる。
マツリカ自身は何も変わっていないように見えて、最後の最後で涙を見せてくれた。キリヒトは、出会うべきものと出会い、そして旅立った。いつか帰ってくるという自分自身の望みを抱いて。丁寧に描かれていた上巻の、図書館、高い塔に至る道を今度は出て行く方向に辿って行くところが、素晴らしかった。山深いところから、今度は海に出て行く、その変化が展望となって感じられて、すごかった。
いい本でした。面白かったー!!
大坂天満の寒天問屋、井川屋の主・和助は、仇討ちで父を亡くした鶴之輔を銀二貫で救う。大火で消失した天満宮再建のために、工面した大金だった。引きとられた少年は松吉と改め、商人としての厳しい躾と生活に耐えていく。番頭善次郎、丁稚梅吉、評判の料理人嘉平とその愛娘真帆ら人情厚い人々に支えられ、松吉は新たな寒天作りを志すが、その矢先またもや大火が大坂の町を焼き払い、真帆は顔半面に火傷を負い姿を消す……………(帯より)
読んだのはノベルス版。今は文庫版が出ています。
みをつくしシリーズではなくこの作品から入るひねくれ者読者ですどうも! 武士の子どもを商人が育てる人情ものと聞いて読むことにしました。
お年寄りと少年がどんな風にみせてくれるのかなと思ったら、いいおじいちゃんと孫の雰囲気で、かつ主人と奉公人の厳しさもあって、とても面白かった。いろんな人がいきいきとして、絡み合って、関係して、だからこそ苦難も幸せも増して感じられる。大火の騒ぎを聞くざわざわとした不安、その後のやるせなさ。冬と雪の寒さ。それが、梅の花がほころんでいるラストシーンへ繋がっていく、幸せな結末はすごいとしかいいようがなかった。最後の台詞が、大坂の商人を現していて、粋でしゃれてて、かつ皮肉もあって、涙がぼろっと出る。いい話だった。面白かった!
鍛冶の里に生まれ育った少年キリヒトは、王宮の命により、史上最古の図書館に暮らす「高い塔の魔女」マツリカに仕えることになる。古今の書物を繙き、数多の言語を操って策を巡らせるがゆえ、「魔女」と恐れられる彼女は、自分の声をもたないうら若き少女だった——。(帯より)
この一冊だけで650ページ以上の長編。こんな風に分厚いのでとりあえる上巻までの感想を書く。メフィスト賞と聞いていたのでミステリーかと思っていたら、言語と文化と少年少女のファンタジーでびっくりした。
政治的思惑と独特の文化に対する価値観について語られながら、物語が進行する。上巻だけでは結局どうなるのかまだ見えないなあ。人間として他者に対する心が少しだけ欠けた少女がどうなるのかも、秘密を抱えた少年がどのように己の生き方を見出すのかも、この巻の最後になってようやく疑問を提示されたという感じで、どう結末するのか分からない不思議な印象の上巻でした。
とにかく世界観と文化が作り込まれていてそれを頭に入れるのが難しい! 作者の高田さんは言語学をやられているということでも、なんかもう頭の作りが違う! という書き込み具合。文章も美しく表現も多様で、読んでいるとぶわーっと世界が広がっていく感覚がすごい。繰り返し読みたい一冊だなあ。文章を噛み締めて味が変わるってこんなのかもしれない。
若美谷中学1年5組の塚原マチは、自分の意見を主張できない、頼み事を断れない、そんな性格を直したいと思っている。ある日、図書室で本をめくっていると、一枚の紙が滑り落ちた。そこには、丁寧な文字で『サクラチル』と書かれていた。貸出票には1年5組と書いて、消された跡がある。書いたのは、クラスメイト? その後も何度か同じようなメッセージを見つけたマチは、勇気を振り絞って、返事を書いた。困っているはずの誰かのために——(「サクラ咲く」他2編収録)(カバー折り返しより)
中学生から、と書いてあるちょっと児童書っぽい雰囲気の辻村作品。いつものぴりっとした刺々しさはなく、すいすいと読める話が三編収録。「約束の場所、約束の時間」「サクラ咲く」「世界で一番美しい宝石」これらにはすべてどこかに繋がりがあるというのが、いつも通りで嬉しかったです。
SF、真面目で気弱な中学生が大きく成長する友情もの、そして青春ものと、心にすとんと落ちてくるような素敵な中編ばかりで、やっぱり好きだなあ……と思いました。「サクラ咲く」は長編になるともっとずっと痛い話になるんだろうけれど、春が来る、花が咲く、生き生きとした、未来への展望が感じられるいい話で、すごく好きです。
そして、みんなちゃんと大人になって、友人との繋がりを持ったままなのがすごく嬉しかった。
女子校の中等部に通う赤音。親友の春来と楽しい学校生活を送っていた。しかし、学年の中心的存在の少女・舞がふたりの友情を引き裂いてしまう! ふたりの間に割りこもうとする舞を拒んだことで、赤音はクラスメートから嫌がらせを受けるようになる。以来ひとりぼっちでいる赤音。だが彼女には、誰も知らない秘密があって…! 乙女の園で華やかに繰り広げられるリリカル・ミステリー!(カバー折り返しより)
学校という小さな世界での少女たちの物語! 学校からほとんど出ないのに、ここまでぐいぐい読ませられるのはすごいなあ。友情と裏切りって、とっても美味しいものだと思います。そこまで友人が絶対である学生って、すごい生き物だよなあ。
赤音、春来、舞、琴乃がそれぞれぎりぎりと精神にダメージを受けている感じがとてもよいです。特に赤音と春来は、物語上、必要以上に傷つけ合っている。舞と琴乃はそれぞれの立場を自覚する頭のいい子たちなので、一歩退いたところにいるのですが、四人の少女がいるとそれぞれの心理状況にいろんな見方ができて面白い。でも、舞は事態をこじれさせただけなんじゃないかなあ。自信のある人が陥りがちなことですね。結局彼女はどうなったのかも見たかった。
名前にまつわる少女と心とミステリというのが、とってもよかったです!
『特別』な才能を持った少年少女だけが入ることのできる『特別』な塾。ヴァイオリニストとして活躍する少女・盟は、音楽枠で塾を受験する——。合格者はわずか二人! だが盟は当然のように難関を突破する。入学した塾では、裏口入学の生徒がいるという噂があった。盟はいっしょに試験を受けた巴のことを疑うが……!? クラシックな塾で華麗にくりひろげられる、リリカル・ミステリー!!(カバー折り返しより)
友桐さんがまた本を出されると聞いて、コバルトのを探して読んでみることにする。友桐さんの作品は『白い花の舞い散る時間』しか読んだことがない上、だいぶと昔だったので、エージェントものだったっけ? と最後はぽかんとしましたが、やっぱり少女で陰鬱でミステリな物語はよいものです。疑心暗鬼と、本物の友情と、まだ自分たちが属していない社会を仰ぎ見ている感じが、ぶるぶるして読んでしまいます。
音楽に選ばれ、音楽を奏でる天才である盟。実力はありながら一歩及ばない印象、しかしミステリ好きの社交家な沙耶、才能を持ちながら目立たない沙耶の従弟・拓斗、実力が備わっているか疑わしい巴。選ばれた存在、というものをどのように追っていくか、受け止めるか思い悩む少女たち。最後は一作目の『白い花の舞い散る時間』にぐるっと戻っているようなので、読み返したいし、他の作品を読んでいきたいです。昔はさほど印象を受けなかったんだけれど、読んでみるといいなあ、これ。
十八諸島の世界を巡り、世界各地で話を集め、他の土地へと伝え歩く、それが我ら語り部の生業。冬至の夜、我らは島主の館に集い、夜を通じて話をする。それが煌夜祭——年に一度の語り部の祭。お話ししよう。夜空を焦がす煌夜祭の炎壇でも照らすことの出来ない、真の闇に隠された恐ろしい魔物の物語を……廃墟となった島主の館で、今年もまた二人だけの煌夜祭が始まった——!
第2回C★NOVELS大賞受賞作(裏表紙より)
『〈本の姫〉は謳う』の感想の時にこれ読んだはずなのに記録がない……と首をひねっていたんですが、読み始めてやっぱり読んでる! が、結末が思い出せない……ということで再読しました。ブログでは初めての感想ですね多分。
人と魔物と語り部の物語を、語り部が語ることによって、人々の生きたもの、繋いでいくものが次第に明らかになっていく。魔物はどうして存在するのかという理由は明らかにされないものの、語り継ぐ人々の力によって、世界がいい方向にも変わっていけるエンディングでした。誰と誰が繋がり、誰が生きているのか考えながら読んでしまうと「えっえっ」とページを戻ってしまうんですが、本がまさに語っているなあという物語で、とても面白かったです。
『夢の上』もあるので読もう。
“日本一おもろい旅人OL”てるこのルーツ、ここにあり! 50歳を過ぎて、腹話術師になったおかんとの爆笑バトル。石仏の如く動じないおとん。「ガンジス河でバタフライ」の前に泳いだ元祖は淀川だった! ハチャメチャで痛快な、抱腹絶倒の日常エッセイ第一弾。〈『お先、真っ白』に新作エッセイを加え、改題〉(裏表紙より)
関西弁満載なエッセイ。破天荒なおかんと石仏のようなおとんと、たかのさんのやり取りが、こんなの本当にあるの? というおかしいやり取り。大阪のおかんの無茶苦茶さは知っているつもりだったけれど、これはちょっと迷惑レベルでは! なんて思いながらも楽しく読みました。おかんの無謀さに恥ずかしい思いをする時期って、あるよね……。
友人たちのキャラもすごく、特にいい間違いはすごい。コントでしか見ないよ!
かと思えば、青春時代のきらめきと静かな影の出来事を書いていたりして、しんみりもする。
人はあの冷たく滑かなものを口中にふくむ時、あたかも室内の暗黒が一箇の甘い塊になって舌の先で融けるのを感じ、ほんとうはそう旨くない羊羹でも、味に異様な深みが添わるように思う。(本文より)
——西洋との本質的な総意に眼を配り、かげや隅の内に日本的な美の本質を見る。(裏表紙より)
日常にある、日本的な陰翳と明るさを西洋のものと比較した随筆。昭和初期から半ばくらいにかけてのものなので、西洋に傾きつつある日本、開発されていく日本の町の風景が覗く。
最初の「陰翳礼讃」の章がすごくて! そうそう、そうなんだよ! と頷くことしきり。読んでいて思い出したのは、自分の塗り物に関する記憶。私は、塗り物があんまり好きでなくて、どうしてこうぎらぎら光を跳ね返すものがもてはやされるんだろう? と思っていたのですが、多分蛍光灯の下で見ているせいでしょうね。元々、蝋燭や灯籠の側で見るものだから、もっとしっとりと影に触れるようなものであると思うのです。建物や内部の濡れたような黒さや、灯りに照らされる闇という言葉。そういうものを知っている人がいるんだ! と思いました。