読んだ本とか、漫画とか、映画とか、色々
気難しいアーサーが唯一本音を話せるのが妻のマリオンだった。マリオンは合唱団「年金ズ」で歌っていたが、その合唱団がコンクールのオーディションに応募することが決定した。だが、練習に励んでいたマリオンは倒れ、宣告されたのはガンの再発と余命数ヶ月という事実だった。
怒りっぽくて気難しいおじいちゃん。優しくてそんなおじいちゃんのことをちゃんとわかっているおばあちゃん。二人の生活が暖かくて微笑ましくて、ちょっと切ない。マリオンはアーサーのために歌うけれど、その直後亡くなってしまうのは辛かった。そうして一人になったアーサーはま息子ともうまくいかなかったりもあって、すます意固地になっていく。それが歌うことによって少しずつこわばりを溶かしていく。
歌ってすごいなあ。自分の正直な気持ちは言葉にできなくとも、この世界にあふれているいずれかの歌が自分の心と同じものなんですよね。原題は「Song for Marion」なんですよね。マリオンのためにアーサーが歌を返すシーンはぐっときました。
父親を亡くしたオフェリアは母親の再婚相手であるヴィダル大尉に引き取られた。母親のお腹の中には子どもがいるが、母親は体調を崩していた。大尉のいる森の中の砦に住むことになったオフェリアは、古い迷宮があることを知る。妖精に導かれたオフェリアは迷宮の番人パンから「あなたは地底の王国の姫君だ」と告げられ……。
よくこの作品を好きだと聞いていたのですが、見ていてやっとパンの迷宮という意味で「パンズ・ラビリンス」なんだと知りました。
スペイン内戦下、父親が戦死し、妊娠中の母親とともに再婚相手の残忍な大尉の元へ引き取られた少女オフェリアが、醜くおそろしい生き物たちのいる迷宮と現実を行き来する。オフェリアはパンや妖精たちを頼りにするけれども、彼らの見た目は悪魔や怪物のそれで、それがまた不安を煽る……。
空想しているように見えてもそういったクリーチャーが多数出てきてその試練に立ち向かったりと、彼女が現実から自分を逃がし切れていない感じがするので、戦おうと心のどこかで思っていたのではないかなあ。賢いオフェリアの不安は迷宮や試練によって描かれるけれども、最後王に迎えられたということはオフェリアは自分の行動に満足したっていうことなんだろう。それにしてもあんまりだよっていう話だったんですけれど、読み解こうとするとめちゃくちゃ面白いです。大尉のこととかも。
何度か繰り返しみたい作品だと思いました。
離婚して独り身のハーヴェイは、娘の結婚式でイギリスに渡る。だが娘からバージンロードを義父と歩きたいと言われ、人生最悪の日だと自棄酒を煽る。その場に居合わせたケイトは、気難しくしょっちゅう電話をかけてくる母親の相手をする窮屈な日々を過ごしていた。そんな二人が出会い……。
恋愛や結婚に失敗したことのある男女が偶然出会い、恋をするけれど少しのすれ違いで別れそうになり……というべたべたのロマンス。お互いの存在が良い方向に作用して、ケイトは母親との付き合い方を少し楽に感じられるようになったり、ハーヴェイは疎遠だった前妻と娘との仲を修復し……と、人との出会いは運命を良い方向に回すなあ。
「私たち幸せになれると思う?」「見当もつかない。でも頑張るよ」っていうラストの会話が、大人な台詞だなあと思いました。娘の結婚式のシーンが中盤にあるから余計に。若いと「幸せにするよ」って多分言うんだろうけど、失敗を知っている大人だからこそ「頑張る」って言うんだよな。
大きな目が特徴的な子どもの絵を描くマーガレット。だが女性であることと描く絵が芸術的ではないということで絵が売れない。同じ絵描きのウォルターと再婚したが、とあることから彼はマーガレットの絵を「自分が描いた」と偽ってしまう。しかし絵が爆発的に売れ、生活は豊かになっていくが、次第に二人の関係は破綻。マーガレットはあの絵はすべて自分が描いたと裁判を始める。
「ビッグ・アイズ」を検索すると出てくる、人形のような大きな目の子どもの絵。キーンの絵の本当の作者の話。史実のようです。
自分が描いた絵を他人に「俺が描いた」と言われるときの心情を思うとだいぶと胸が痛いんですが、そんな絵を描くと思っていた彼が最初の絵すら他人のものだったと知ったときの絶望が半端なかった。
女性だから絵が売れない。でもウォルターが描いたと言って絵が認められたことで、マーガレット自身も本当のことが言いにくくなったんじゃないかなあ……。そういうどうしようもない壁にぶち当たると、物を作る人ってしんどいよな……。
マーガレットはちゃんと自分の画家としての権利を取り戻せたようでよかった。
シンガーソングライターのグレタは、友人のスティーヴに連れられてとあるバーで歌う。グレタは恋人のデイヴとともにニューヨークにやってきていたが、デイヴの浮気が発覚したところだったのだ。その歌に目を留めたのは落ちぶれた音楽プロデューサーのダン。ダンには弾き語りをするグレタの歌に様々な楽器パートを重ねた曲が聞こえていた。そうして二人はアルバムを作ることにするが……。
家族から見放された落ち目のプロデューサー、ダン。デビューし忙しい恋人に浮気され才能を燻らせるグレタ。二人が出会い、音楽を作る。不思議なんだけれど人が集まって音楽を作っちゃうのがなんだかいい。落ちぶれているように見えて奏でられるべき音楽がわかっているダンがかっこいいし、スタジオじゃなくて街中で収録するのが楽しい。音楽が好きだという人が集まったレコーディングだっていうのが、娘のレイチェルの参加でわかるなあ。
恋愛がきっかけではあるんだけれども、決してグレタとダンはわかりやすい恋に落ちたりはしない、恋愛映画じゃないところもいいなあと思いました。でも「音楽を共有する」っていうモチーフ(作るなり、ケーブルなり)が非常にロマンティックで美しかった。
日々のどうしようもない思いを音楽に託して奏でる人たちのお話だった。このアルバムをきっかけにいろんな人が新しいスタートを切ったのかもしれない。「はじまりのうた」だなと思いました。
とある中学校のクラスの終業式、担任は自分の娘が死んだことについて「このクラスの生徒に殺されたのだ」と告発する。このことをきっかけにクラスは内部崩壊し、新しい担任教師を迎えながら生徒たちは病んでいく。
湊かなえさんの『告白』が原作。原作は読了済。
映像が非常に美しくてカットなども素晴らしく、台詞も青春ものっぽいのですが、本当に心の底から嫌な話だ……。子どもだからというところもあるし、子どもだけどというところもあって、言いようのないいやあな感じが最初から最後まで続く。決していい気分で見終わることはできないんですが、見入ってしまって、思い出した時にもう一度見たくなってしまうような作品だと思いました。
内容は原作に忠実なんですけれども、原作の行間を丁寧にすくい取っているような感じがします(原作文庫版の監督のインタビューにもそんな感じのことが書いてあったような気がする)。登場人物が語ることはすべて本当とは限らない、というのをしっかり映像と語りで見せてくれる。そして役者さんたちの演技力が凄まじかった。最後の「なーんてね」でぶわっと鳥肌がたった。
9.11で父親を亡くしたオスカーは、父親の持ち物から小さな鍵を見つける。鍵の入っていた封筒に書かれていた「ブラック」が手がかりだと思ったオスカーは鍵穴を見つけるため、街中のブラック氏を訪ねることを決意する。多くのふれあいや出来事の中でオスカーは自らと、そしてあの時の後悔と向き合う。
深い悲しみにさらされた少年が、同じく取り戻せないものや悲しみを知る大人たちと出会うお話、という感じでしょうか。アスペルガー障害を持つオスカーは、普通の人以上にうまく生きられないからこそ、世の大人たちがこういうものなのだ、仕方ないのだと諦めて受け入れることに「何故だ」と問えたのかもしれない。オスカーがアスペルガー障害を持っているというのは最初あんまり強くは感じなかったのですが、数字に強いこだわりを持っていたり、音に対して敏感で両耳をふさいだりという仕草でああなるほどと思いました。
ブラックさんたちの反応は、「あなたの悲しみを共有している」というメッセージなのかなという気がしました。好意的な反応は悲しみを、否定的な反応はそれでも許せない怒りを。母親のリンダに対してハグをしてくれるブラックさんを見た時、ふとそう思いました。
ヴァイオレット、クラウス、サニーの三兄弟は、火事によって家と両親を失う。孤児となった三人はオラフ伯爵に預けられるが、こき使われた挙句、遺産を手に入れようと目論む伯爵から命を狙われてしまう。兄弟は自分たちの特技でなんとか窮地を脱するが……。
ヴァイオレットが素晴らしい美人さんできゅんきゅんしてました。
手を替え品を替え、兄弟たちの遺産を狙うオラフ伯爵。この「何度も何度も」というところが面白いところですね。その度に子どもたちは「こいつの言っていることは嘘だ!」と主張するんですけれども、その主張が聞き入れられないというのが子どもだからであり孤児だからであり……っていうような部分が、お約束なんだけれど胸に痛い。
今は不幸かもしれないけれどそれは旅の始まりであり、君には幸福が待っている、というメッセージが伝わってきてじんとしました。そのために何かを作ったり本を読んだり、噛んだり(というのは周りから見れば風変わりだけれど自分の個性ということかな)して試行錯誤するんだってことなんだろうな。
女子高生のキャリーはクラスメートから壮絶ないじめを受けていた。体育の授業後、シャワーを浴びていたところに初潮を経験したキャリーはパニックに陥るが、体育教師コリンズに助けられる。キャリーには敬虔なキリスト教徒の母親がおり、性にまつわる一切が罪だと教えられてきたのだった。やがてキャリーのいじめは、プロムパーティーでも及び……。
キングの有名小説『キャリー』の映画化。1976年のもので、R15+です。
冒頭のシャワー室での初潮のシーンはめちゃめちゃ有名だと思うのですが、シャワーシーンが長い……笑
いじめというか暴力じゃないかっていうシーンは見ていてきついし、母親の信仰の強さによる仕打ちもメンタルにくる……。やっと楽しい思いをしたと思ったのにプロムパーティーで豚の血まみれにされて笑われた挙句、母親に殺されそうになるってあまりにひどい。あまりにひどいゆえに、スプラッタなはずのシーンがいっそギャグのようだ……。
しかし罪の意識があった者だけが最後に生き残るというのは、象徴的のように感じました。なんとも後味の悪いホラーでした。