読んだ本とか、漫画とか、映画とか、色々

2025年7月。高校生の明日子と双子の弟・日々人は、いとこがいること、彼女と一緒に暮らすことを父から唐突に知らされる。ただでさえつまらない夏休み、面倒ごとが増えて二人ともうんざりだ。いとこの存在に、なんの楽しみも期待もない。退屈な日常はひたすら続いていく。けれど、彼女——今日子は、長い眠りから目覚めたばかりの、三十年前の女子高生だった…。
17歳の夏、私たちの隣には"彼女"がいた。(裏表紙より)
ポケベルやルーズソックスが全盛だった1995年の女子高生、今日子。
スマホが普及しなんでも検索で調べられる2025年の高校生、明日子と日々人。
生きてきた年代は少しずれているけれど三人が2025年の夏に一堂に会し、少しだけ非日常感のある夏休みを送るお話。オレンジ文庫から出ているけれど普通の集英社文庫みたいだった。
主な語り手は明日子。彼女の、ちょっと冷めた感覚で物事を見ていたり、茫漠とした未来にかすかな不安を抱いているような語り方に、ああ17歳ってそうだよなあと思いました。少しずつ何かを昨日に置いて行っているんだけれどまだそれが重みとして感じられていないような、けれど夏が終わったらさよならしたんだということを思い出させられて胸がぎゅっとするような。
懐古する描写や少し未来にある、いまこれを読む私たちが感じている予兆が現実になっている文化や光景なんかを比較するところがなんだか切なくなりました。

二〇一二年一二月一二日、兵庫県警本部の留置施設内で、ひとりの女が自殺した。女の名は角田美代子。尼崎連続変死事件の主犯である。美代子と同居する集団、いわゆる“角田ファミリー”が逮捕され、これまでの非道な犯行が次々と明らかになってきていた矢先のことだった。主犯の自殺によって記憶の彼方に葬り去られたこの事件の裏側には何があるのか? 尼崎を中心とした徹底取材をもとに、驚愕の真相を白日の下の曝す、問題作!(カバー折り返しより)
ひたすら「わからない」と思いました。どうしてこうなったかも、ここまでのことになってしまったのかも。主犯が消えてしまって残された人たちは何を思ったんだろう。こうしてまったく関係のない立場からしてもやるせないのに。

SEとして働く望は、疲れていた。飲み会の帰りの電車で座ってしまったのもまずかった。寝過ごしてしまい、気付けば鎌倉……。
途方に暮れる望に、一匹の黒猫が近付いてきた。人懐こい黒猫に導かれるように辿り着いたのは、一軒の古民家。「営業中」の看板しかないが、漂う温かくいい匂いに惹かれ、勇気を出して入ってみると——
「うちの店にメニューはない。あんたに必要だと思うものを作る」
故郷の味、家庭の味。ホッとする料理が、いつの間にか元気をくれる。お代は言い値でかまいません。(裏表紙より)
ブラック企業に勤めていて少しずつ自分が磨耗しているのに気付かぬふりをしていた望は、寝過ごして鎌倉まで行ってしまって途方に暮れていたところ、料理店にたどり着く。故郷の味を食べたことをきっかけに新しい一歩を踏み出し、その店「めし屋」で働くことになるが。
その人が必要としている料理を出すことや、それをすっと出せてしまう店長の高羽の存在など、ちょっと不思議感がありつつも鎌倉の街を楽しんでほしいと思わせるような軽やかな作品だなあと思いました。優しい話なのでそれだけに、望を陥れようとした後輩をやっつけってほしかったかもと思わないでもないのですが、もう関わり合いにならないというのも一つの選択肢かなあ。
![([お]4-3)ピエタ (ポプラ文庫 日本文学)](https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/51xyWmpEaJL._SL160_.jpg)
18世紀ヴェネツィア。『四季』の作曲家ヴィヴァルディは、孤児たちを養育するピエタ慈善院で、《合奏・合唱の娘たち》を指導していた。ある日教え子エミーリアのもとに恩師の訃報が届く——史実を基に、女性たちの交流と絆を瑞々しく描いた傑作。2012年本屋大賞第3位。(裏表紙より)
不思議な陰影のある話だったなあ。カーニバルという顔を隠す祭りの非日常感もあれば、淡々と日々を生きているような語りもあり、生きることの息苦しさも感じたり、歴史の大きな流れがどうどういっているのが聞こえるようでもあり。
先生と慕うヴィヴァルディの訃報を受けたエミーリアは、同じ教え子で現在《合奏・合唱の娘たち》を率いるアンナ・マリーアとその話をする。同じく教え子で裕福な家の娘ヴェロニカにピエタへの寄付の話をしに行ったエミーリアは、彼女からヴィヴァルディ先生が彼女のために書いたという楽譜を探し出してほしいという依頼を受ける。彼と懇意にしていたというコンティジャーナのクラウディアや、彼の恋人の噂があったパオリーナとジロー嬢の姉妹といった女性たちとの交流、過去への追想を経て、時間は流れていく。
楽譜の行方がとても胸を打ちました。ヴェロニカがなにを思いながらその詩を綴り、その楽譜がどのように流れて行ったのか。形を変えても何かを祝福したいという思いは変わらずそこにあるという清らかさを感じて、つかの間息が止まりました。
静かな映画のような作品でとてもよかった。おすすめされた作品でした。ありがとうございました。

岩手、宮城、新潟、長野、鳥取、高知、福岡。場所は違えど、そこには豊かな自然、ご近所さんとの絆、ゆったり流れる時間がある。地域に寄り添い生きる移住女子たちの「今」を紹介!(カバー折り返しより)
移住した女性たちの体験談をまとめたもの。移住に成功した人たちばかりなので、とても楽しそうに生活しているなあと思いました。移住する人ってみんなどこかしら意識の高い人たちなんだな……ということを読んでいて感じました。同時に、数人の方が語っていた東日本大震災がきっかけになって、という言葉に、あの震災は多くの人たちにいろんな影響を及ぼしたんだと思う。
成功談がこれで読めるので、失敗談を読みたいなという気分になりました。移住先で、余所者がー余所者がーと言われていたのは一昔前の話とありましたが(この本は2017年1月発行)、本当にそうなのかな。気になります。

家庭教師のユーディットは、教え子のエルダが瀕死の状態から幻獣の《龍》として覚醒し、一命を取りとめたところに居合わせたことで、世話を焼くことに。そんなある日、彼女はエルダの鱗を持って王都へ向かうことになったのだけれど……。龍の鱗に目をつけた男に捕まり、ユーディットは窮地に陥ってしまった。そのとき、美麗な青年姿の《龍》ヴィオークに助けられ、なりゆきで彼に護衛されることになり——。
恋する気持ちに気づけない鈍感龍と堅物家庭教師のラブファンタジー。(裏表紙より)
あらすじから想像する話の45度くらい、設定がややこしくて登場人物が多い話でした。山場らしい山場があんまりない気がしてちょっと物足りなかったなあ。
継母から疎んじられ、腹違いの弟クレイトンの面倒を見て育ったユーディット。家から離れて家庭教師としての身分を確立し、弟も軍の花形として戦争で華々しい功績を挙げている。現在ユーディットの教え子のエルダは弟の婚約者。そんな状況でエルダが、家が没落したために両親とともに無理心中を図ってしまい、危篤状態に陥ったところ龍として覚醒する……すごーく重くてシリアスな冒頭で、大丈夫か……薄幸ヒロインすぎないか……と思いました。
龍がすでに希少種になっている世界なので、龍の鱗などは高値で取引されており、これをエルダに頼まれて売りに行くところで危険な目に遭ったユーディットは、龍の出現を察知したはぐれ龍ヴィオークと出会う。
人の社会で暮らしている割にはちょっと空気の読めないヴィオークがあんまり見たことのないヒーローの造形で面白かったです。ユーティットはもっとびしばしやってもよかったと思うなあ笑

しばしば噛み合わなくなってしまう会話。「個性的」を通り越し、周囲の目を忘れたかのような独特の行動。ボキャブラリーも、話題も豊富な僕の妻だが、まるで地球人に化けた異星人のようだ……なぜ? じきに疑問は氷解する。彼女はアスペルガー症候群だった。ちぐはぐになりがちな意識のズレを少しずつ克服する夫婦。その姿を率直に、かつユーモラスに綴った稀有なノンフィクション。(裏表紙より)
高機能自閉症の妻との生活、その工夫の日々を綴ったもの。いわゆる「持っている」と言われる人の言動や特性がすごくよくわかります。
この「妻」の人は言語能力(否コミュニケーション能力)がめちゃめちゃ高い人で、情報収集能力も高い。こだわりの強さが出ている。……これが出た時点で「ああこの本、そういうことなんだ」と思ったら、最後の種明かしはやっぱりそうでしたか。
人の気持ちを読み取ることができない「妻」の人が、夫の気持ちや、自分の言動による周りの反応をどのように考えて綴ったのかなあと考えると、並々ならぬ努力があっただろうと思いました。
接し方さえ工夫すればそれなりに上手く生きていけるけれど、みんながみんな、そうやって付き合ってくれるというとそうではないから、生きることはやっぱり難しいよなあ……。