読んだ本とか、漫画とか、映画とか、色々
情を持たない魂緒姫と、人の心を持たない鬼将軍。二人が出会ったとき、その絆は愛に変わる。瘴気に満ちた「神座の森」には、人に益を与える「神世草」が生えている。それを求める貴人たちのため、彼らと「魂緒の糸」を繋ぎその身を守るのが、魂緒姫と言われる娘たちだ。中でも「最上の魂緒姫」と称賛される紅。常に心を鎮め強固な糸を紡ぐ彼女は、一方でその情のなさを人々に罵られてもいた。ある日、紅は新たな貴人の相手を命じられる。その人とは「母殺しの鬼将軍」と、誰もが恐れる武人・五条隆光。常に不機嫌で、気に入らないことがあるとすぐに刀を抜く隆光を、家臣たちはひそかに恨んでいた。だが紅だけは、隆光の暴挙の裏に秘められた孤独に気づいてしまった。二人が心を通わせるとき、運命が大きく動き出す……。(Amazonより)
電子オリジナルです。
和風ファンタジー。女神が未だ存在する森に分け入るために「魂緒」を結ぶという力を貸す魂緒姫の一人である紅と、乱暴で荒々しい振る舞いばかりを繰り返し家臣たちから疎まれ始めている鬼将軍・隆光。隆光が紅を魂緒姫とし、なんらかの理由を抱いて森にある「願いを叶える」花を手に入れようとするところから、二人の交流が始まる。
隆光のキャラクターがすごーくニッチな造形で笑 好きな人は好きなんでしょうが、中盤までの振る舞いがかなり乱暴なので、デレるまでがちょっと辛い。デレ始めると不器用ながら心優しい大変いい男なのですが、それにしても、荒々しい行動でしか自分の思いを伝えることができなかったのか……と思うと、寂しいような、もうちょっとやり方があったような。
森に入るには魂緒を結ぶ必要があるけれど、恋情を持つとその糸は焼き切れてしまう。この恋をしてはいけないというタブーがとてもじれじれもだもだしました。紅も隆光も大人の考えの持ち主で、恋に流されず踏み止まろうとするところがとてもいじらしかった。
隆光が花を手に入れてからの流れは、和風ファンタジーとしてすごく壮大で美しくて、じいんとしてしまいました。
エピローグはとても甘くて優しく、最後はほっとできてよかった。
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ごくごく普通のOLあきは。そして、気まぐれでわがままで不器用な大学生の翠くん。親の海外転勤をきっかけに、なぜか一つ屋根の下で暮らすことになった2人は、まるで飼い主と猫のような関係。ツンとしたり、甘えてきたり、予測のつかない翠くんにあきはは翻弄されっぱなしで……?
「——で、どこまでだったら猫としてオッケーしてくれるの?」
獲物認定された私と年下飼い猫の、キケンで激甘な同居生活スタート!!(裏表紙より)
Web作品が、受賞に際して改稿されたもの。登場人物の年齢が上がっています。
猫のいる風景、という感じの、ほのぼのしつつも、ほんわかと甘ーい雰囲気の恋愛小説で、とてもまったり幸せな気持ちになりました。あきはと翠くんのやりとりが、とても程よい距離感で可愛い。離れたところから見ていてにこにこしてしまう。
気まぐれで、ちょっと独占欲が強くて、懐くと徹底的にあきはを追いかけ回す翠くん。でもちゃんと男の子らしい側面を持っていて、にやにやしました。
可愛いお話でした。
「自分が食べるためにこそ、おいしいものを作らなきゃ」菜の花食堂の料理教室は今日も大盛況。オーナーの靖子先生が優希たちに教えてくれるのは、美味しい料理のレシピだけじゃなく、ささやかな謎の答えと傷ついた体と心の癒し方……? イケメンの彼が料理上手の恋人に突然別れを告げたのはなぜ? 美味しいはずのケーキが捨てられた理由は? 小さな料理教室を舞台に『書店ガール』の著者がやさしく描き出す、あたたかくて美味しい極上のミステリー!(裏表紙より)
おおー面白かった! 人間関係や人のいやらしいところが描かれたものって、嫌な気持ちにもなるんですけれど面白いなあと思う。
退職後、新しい職を見つけられないまま、靖子先生の厚意に甘えて料理教室の助手をしている優希。教室に来る生徒さんたちの様々な謎を、食を通じて紐解く。探偵役は、料理上手で観察眼の鋭い靖子先生。
優希自身の人格性があんまり表に出ず、距離を取っている感覚があって(自分のことを語っていないわけじゃないんですが)入り込みにくいところがありますが、この独特の距離感がいかにも現代っぽい。優希が新たな一歩を踏み出す話、続きで読めるのかなあ。
名家に生まれた美世は、実母が早くに儚くなり、継母と義母妹に虐げられて育った。嫁入りを命じられたと思えば、相手は冷酷無慈悲と噂の若き軍人、清霞。大勢の婚約者候補たちが三日と持たずに逃げ出したという悪評の主だった。
斬り捨てられることを覚悟して久堂家の門を叩いた美世の前に現れたのは、色素の薄い美貌の男。
初対面で辛く当たられた美世だけれど、実家に帰ることもできず日々料理を作るうちに、少しずつ清霞と心を通わせていく——。
これは、少女があいされて幸せになるまでの物語。(裏表紙より)
ここまで徹底した薄幸ヒロインはずいぶん久しぶりに見た気がします。虐げられて育ったせいで儚げな雰囲気で、あまり強く前に出ることもないか弱い少女。そんな彼女を放っておけなくなってしまった、冷酷無慈悲と評判の異能家系の大家の当主の、儚い系大正風ファンタジーロマンス。
美世の境遇がもう本当にかわいそうで、序盤半泣きで読んでました。胸が痛いよ。どうしてこんなに虐げられなくちゃいけないんだ。
清霞が優しい人であることは最初からわかっていたので、これまで追い返されたというお嬢さん方はよっぽどよっぽど……な人柄だったんだろうなあ。しかし縁談を持ってくるという先代が謎めいている。ラストでこの人との対峙があるかもと匂わされていましたが、美世に戻ったかもしれない異能も含めて、二人がどう頑張って乗り越えるか楽しみだ。
2025年7月。高校生の明日子と双子の弟・日々人は、いとこがいること、彼女と一緒に暮らすことを父から唐突に知らされる。ただでさえつまらない夏休み、面倒ごとが増えて二人ともうんざりだ。いとこの存在に、なんの楽しみも期待もない。退屈な日常はひたすら続いていく。けれど、彼女——今日子は、長い眠りから目覚めたばかりの、三十年前の女子高生だった…。
17歳の夏、私たちの隣には"彼女"がいた。(裏表紙より)
ポケベルやルーズソックスが全盛だった1995年の女子高生、今日子。
スマホが普及しなんでも検索で調べられる2025年の高校生、明日子と日々人。
生きてきた年代は少しずれているけれど三人が2025年の夏に一堂に会し、少しだけ非日常感のある夏休みを送るお話。オレンジ文庫から出ているけれど普通の集英社文庫みたいだった。
主な語り手は明日子。彼女の、ちょっと冷めた感覚で物事を見ていたり、茫漠とした未来にかすかな不安を抱いているような語り方に、ああ17歳ってそうだよなあと思いました。少しずつ何かを昨日に置いて行っているんだけれどまだそれが重みとして感じられていないような、けれど夏が終わったらさよならしたんだということを思い出させられて胸がぎゅっとするような。
懐古する描写や少し未来にある、いまこれを読む私たちが感じている予兆が現実になっている文化や光景なんかを比較するところがなんだか切なくなりました。
二〇一二年一二月一二日、兵庫県警本部の留置施設内で、ひとりの女が自殺した。女の名は角田美代子。尼崎連続変死事件の主犯である。美代子と同居する集団、いわゆる“角田ファミリー”が逮捕され、これまでの非道な犯行が次々と明らかになってきていた矢先のことだった。主犯の自殺によって記憶の彼方に葬り去られたこの事件の裏側には何があるのか? 尼崎を中心とした徹底取材をもとに、驚愕の真相を白日の下の曝す、問題作!(カバー折り返しより)
ひたすら「わからない」と思いました。どうしてこうなったかも、ここまでのことになってしまったのかも。主犯が消えてしまって残された人たちは何を思ったんだろう。こうしてまったく関係のない立場からしてもやるせないのに。
SEとして働く望は、疲れていた。飲み会の帰りの電車で座ってしまったのもまずかった。寝過ごしてしまい、気付けば鎌倉……。
途方に暮れる望に、一匹の黒猫が近付いてきた。人懐こい黒猫に導かれるように辿り着いたのは、一軒の古民家。「営業中」の看板しかないが、漂う温かくいい匂いに惹かれ、勇気を出して入ってみると——
「うちの店にメニューはない。あんたに必要だと思うものを作る」
故郷の味、家庭の味。ホッとする料理が、いつの間にか元気をくれる。お代は言い値でかまいません。(裏表紙より)
ブラック企業に勤めていて少しずつ自分が磨耗しているのに気付かぬふりをしていた望は、寝過ごして鎌倉まで行ってしまって途方に暮れていたところ、料理店にたどり着く。故郷の味を食べたことをきっかけに新しい一歩を踏み出し、その店「めし屋」で働くことになるが。
その人が必要としている料理を出すことや、それをすっと出せてしまう店長の高羽の存在など、ちょっと不思議感がありつつも鎌倉の街を楽しんでほしいと思わせるような軽やかな作品だなあと思いました。優しい話なのでそれだけに、望を陥れようとした後輩をやっつけってほしかったかもと思わないでもないのですが、もう関わり合いにならないというのも一つの選択肢かなあ。