読んだ本とか、漫画とか、映画とか、色々
〔私は駄目な王女だからね。自分のために命を使いたいの〕
耀天祭の終わり、赤燕の国の第一王女が失踪した——。
だが、それは嘘だと俺は知っている。太陽を祀る五日間、彼女は王族の在り方に抗い、その想いを尽くしただけ……。
突如国を追われた王女アルナリス、刀を振るうしか能のない幼馴染みの護衛ユウファ、猫の血を秘めた放浪娘イルナに人語を解する燕のスゥと軍犬のベオル。
森と獣に彩られた「赤燕の国」を、奇妙な顔ぶれで旅することになった一行。予期せぬ策謀と逃走の果て、国を揺るがす真実を目にした時、彼らが胸に宿した祈りとは——。これは歴史の影に消えた、儚き恋の亡命譚。
第22回電撃小説大賞〈銀賞〉受賞作!(カバー折り返しより)
タイトルに惹かれてやまない作品。美しい字面ですよね。でも応募時のタイトル「背天紅路」も作品を表していてかっこいいなあと思いました。
太陽を祀る祭りの折、成人の儀式を迎える王女アルナリスは、儀式に向かう途中に襲撃される。護衛である護舞官のユウファは、襲撃者の一人であった猫の血を引く娘イルナを連れて逃亡する。誰が味方で誰が敵かを見極めるための潜伏。そして明らかになったのは、アルナリスとユウファそれぞれの真の敵。
濃い世界観に圧倒されて、「ファンタジー美味しい……ファンタジー美味しい!」って気持ちです。登場人物はみんなヒトではないんですよねー。さらっと明かされたどうやって子どもを作るかってことについてや、鳥にとって虫は自分たちが作った生体機械であるという説明について、想像していた世界観が四十五度ほど変わって面白いなあと感じました。
そうした「そういうことだ」という見方が変わる瞬間は、ラストシーン近くにもあって……わかっていたけど胸にくる……切ない……。
少年少女の切ない恋と世界観の美しいファンタジー。続きが楽しみです。
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一年の半分近くが冬となる極寒の地を治める伯爵リツハルドは、夜会で出会った男装の麗人、元軍人のジークリンデに目を奪われ、思わず告げる——「自分と結婚してください!」と。一目惚れから始まった、オーロラが空を彩る地での、一年間のお試し婚。トナカイを狩り、解体&仕分け&熟成。摘んだベリーは保存食に。伝統工芸品を作る合間に、凍結湖で魚釣り。自給自足の狩猟民族的スローライフを通して、奥手な二人は無事、正式な夫婦となれるのか?(裏表紙より)
小説家になろうの書籍化作品、の文庫化。第一巻。なろうで少しだけ読んでいて「これは本で読もう」と思っていたものだったので、文庫になって嬉しい(コンパクトな方が保管しやすくてありがたい……)
辺境の雪男という蔑称を用いられる、銀髪碧眼、小柄でほんわかした性格ながらもたくましい狩人でもあるリツハルドと、元軍人の男前女性のジークリンデ。二人の雪国暮らしのお話。一年間はお試し結婚と言いながら、その結末は続きで、という感じで、雪国での暮らしのいろんなことが詰まっていて面白いです。巻末の参考資料の数がすごい。
物慣れないリツと不器用なジークが可愛くて、距離を少しずつ詰めようとするのにもだもだする。続きが気になる!
一杯のハーブティーが心を豊かにしてくれる
親を亡くし、親戚中をたらいまわしにされる不幸な少女、勇希。夏休みの間だけ身を寄せることになったのは、横浜に住む、会ったこともない伯父の家。勇希が恐る恐る訪ねると、意外なことに、その伯父は可愛いカフェのオーナーをつとめていた。同居するにあたって、勇希が約束させられたのは——
「魔女の後継者として、真摯に魔法の修行に励むこと」
不思議なカフェを舞台に紡がれるのは、ハーブティーをめぐる、心癒される物語。(裏表紙より)
孤独な少女がハーブティーを出すカフェにたどり着き、その店長と同居しながらやってくる人たちと出会い、自分を見つける物語。とても可愛くて優しいお話でした。
店長が多分伯父さんじゃないんだろうなっていうのはすぐに察せられるんですけれども、『先生』(魔法の師匠なので)がすごく優しい人なので心配いらないというか、ほっとするんですよね。不安やいろんなことで押しつぶされそうになっている勇希を助けてほしいって読みながら思ってました。
魔法が本当に「魔法」なのかどうかは置いておいて、自分を知ること、他人をよく知ること、信じることで見えるものがある。それはきっと魔法だよなって思いました。
ニューヨークに暮らす20代の私は、ある朝、突然FBIに逮捕された! 麻薬密売組織に協力したという、身に覚えのない容疑だった。無実の訴えもむなしく、絶望と不安を抱えて、連邦刑務所への入所日を迎えた私。だが、米刑務所の意外なシステムの下、次第に様々な人種の囚人仲間と友情を育みはじめて――。日本人の女の子が実際に経験した、過酷ながらもポジティブなプリズン・デイズ。(裏表紙より)
ロシアン・マフィアの恋人が麻薬密売容疑で逮捕され、クレジットカードを貸したなどの共犯で逮捕された有村さん。アメリカの連邦刑務所に二年間入っていた、その時の出来事を書いたもの。
刑務所の中がどうなっているのか、それも外国のことってまったくわからないので興味深く読みました。そんなに適当でいいのかっていうことと、人主の坩堝のさらに坩堝という感じの服役者たちがすごいと思いました……。
麻薬関係で取り締まられて捕まった女性たちが多いので、黒色人種の人やヒスパニック系がほとんど。威丈高に振る舞う人もいれば、親切に色々教えてくれたり、こっちが教えてあげたりということもある。男性がいないので男性役をする女性がいて、擬似的なレズビアンカップルになる人もいれば、手術をしたので女性であるとして収監されている元男性もいる。刑務所内での仕事のこと、日々の生活のことが書かれています。
罪を犯した人がその後それを一生背負うべきなのかどうかという点で見ると、多分この本に書かれている思いっていうのは甘いと切り捨てられるものだと思うんですが(殺人や強盗を犯した女性たちがいるので)、でも罪を犯したばかりがその人ではないんですよね。そんな風に考えさせられてしまった。
工業廃液や合成洗剤で河川は汚濁し、化学肥料と除草剤で土壌は死に、有害物質は食物を通じて人体に蓄積され、生まれてくる子供たちまで蝕まれていく……。毒性物質の複合がもたらす汚染の実態は、現代科学をもってしても解明できない。おそるべき環境汚染を食い止めることは出来るのか? 小説家の直感と広汎な調査により、自然と生命の危機を訴え、世間を震撼させた衝撃の問題作!(裏表紙より)
昭和50年に発行された本の文庫版を読みました。
きっかけは選挙戦において、協力した候補者が環境汚染を訴えたことから。水質、土壌、大気の汚染が進み、今私たちが口にしているものは……と考え始めてその実態を明らかにしていく内容。この当時そうした化学物質による環境汚染は、警鐘を鳴らさざるを得ないほど深刻なものとして受け止め始められたのだなあと思う。出てくる人たちの「この物質は人体にどのような影響を及ぼすのか?」と問われた時のはっきりとした回答のなさに、うーんと唸る。はっきりと回答できないのはわかるけれど、あまりにも無知すぎるのでは。でも現代を生きる自分もあまり考えずに保存料がばりばり入っているものを食べているのを思うとなあ。うーん。
パピヨンの姿をした八百万の神・モノクロと暮らして四ヵ月。祖母の家に帰省した美綾は、自身の才能や適性を見出せず、焦燥感を抱いていた。東京へ戻る直前、美綾は神官の娘・門宮弓月の誘いで夜の氷川神社を訪れ、境内で光る蛇のビジョンを見る。それは神気だとモノクロは言う。美綾を「能力者」と認識した「視える」男、飛葉周は彼女につきまとい、仲間になるよう迫る。(裏表紙より)
第二巻。前回の事件の人たちは出てこず、新しい事件に巻き込まれる美綾。今度は神官筋の女性、弓月と、同じく神官筋だけれども危険な能力を持つ飛葉の二人です。
この話の全体像が見えない、というかどこに決着するんだろうなあと思いながら読んでいるのですが、あくまで美綾は普通の人で、たまたま神霊やら古いものに関わってしまったという立ち位置を貫くのかな、という事件の決着でした。最後、乗り込んでいくんじゃないかと思ったのに、使った手段がごくまっとうだったので。
このシリーズの空気感、大学生ということだったり、友人関係、キャンパスやサークルの雰囲気なんかがしっくり馴染む(リアルとはまた違って、ああこんなふうだったなっていう)感じがすごく好きです。美綾の高校時代の友人、愛里がすごくいいですね。他のみんなと一緒にいるときには気付かなかったのに、二人で会うようになるとその人がくっきりとして、「なんか、いいな」って思う感じ、わかります。
伊豆の地にひとり流された源頼朝は、まだ十代前半の少年だった。土地の豪族にうとまれ、命さえねらわれる日々に、生きる希望も失いがちな頼朝のもとへ、ある日、意外な客が訪れる……かつて、頼朝の命を不思議な方法でつなぎとめた笛の名手・草十郎と、妻の舞姫・糸世の運命もまた、この地に引き寄せられていたのだった。
北条の領主に引き渡され、川の中州の小屋でともに暮らし始めた頼朝と草十郎。だが、土地の若者と争った頼朝は、縛り上げられて「大蛇の洞窟」に投げこまれ……?
土地神である神竜と対峙し、伊豆の地に根を下ろしていく少年頼朝の姿を描く、日本のファンタジーの旗手・荻原規子の最新刊。(カバー折り返しより)
久しぶりに萩原さんの文章を読みましたが、するすると読めて楽しかった。心地いいなあと思いました。
『風神秘抄』の主人公だった草十郎と糸世が、因縁の寄り合わさってしまった頼朝を救い、自分たちにかかった影とどのように立ち向かうかという話です。きっと視点が彼らのままだったらもっと深刻にうじうじしていたんだと思うんですが、頼朝は序盤は状況の世もあって後ろ向きだったものの、ものの見方や考え方がちゃんとしているおかげもあって、草十郎たちの手助けも得ながらまっすぐに神意に対することができていて、すっきり終わってよかった。
だいぶと短い話でもあるんですが、その中でもきらりと光る個性の持ち主がたくさんいますね。嘉丙や河津三郎なんかは特にそう。嘉丙は、大事な時にはいないんだけどなんだか憎めないんだよなあ。
右手に月石、左手に黒曜石、口のなかに真珠。三つの品をもって生まれてきたカリュドウ。だが、育ての親エイリャが殺されるのを目の当たりにしたことで、彼の運命は一変する。女を殺しては魔法の力を奪う呪われた大魔道師アンジスト。月の巫女、闇の魔女、海の娘、アンジストに殺された三人の魔女の運命が、数千年の時をへてカリュドウの運命とまじわる。エイリャの仇をうつべく、カリュドウは魔法とは異なった奇妙な力をあやつる“夜の写本師”としての修業をつむが……。(カバー折り返しより)
月石、黒曜石、真珠を手にして生まれてきたカリュドウは、魔道師エイリャに引き取られて成長する。本を読み尽くした幸せな少年期だったが、世界最強の魔道師アンジストにエイリャと彼女の後継者になるであろう少女を目の前で殺される。逃亡したカリュドウはパドゥキアで写本師の仕事を始める。
魔法の種類の中に本による術がある世界。読み進めながら、闇のきらめきを感じる作品で、語句の選び方や並び方がとても美しくて、すごくいいファンタジーを読んだという充実感を覚えました。
テーマに女性性があるんですが、男と比較してどうこうというわけでなく、男がどうしても求めてやまない力として描かれているのがすごく好き。女としての力を奪われたから男として生まれるっていうところも、その逆もあるっていうことが、大きな世界を感じさせる。
そしてまた魔道と写本っていうのがとても美しい。その地の風景と道具が間近に迫ってくる感じがしてすごくよかった。
「決してこの扉を開けては駄目よ」
先輩からの忠告が頭に浮かぶ。
メイドの仕事を始めてから5年。シャーロットは主人のフレデリックに対する想いを日増しに募らせていた。彼は人形作家という仕事以上に人形を偏愛していたが、気にならなかった。
だがフレデリックには愛する妻ミリアムがいた。しかし彼女とは一度も会った事がなく、生活している様子もまったく感じられない。
人形への偏愛……姿を見せない奥方……。
とある疑問をもったシャーロットは、好奇心とフレデリックへの想いを抑えられず、ミリアムの部屋の扉に手をかけた。それが恐怖の事件への扉とも知らずに——。
一つの屋敷で起きる三つの時代にまたがる愛と憎しみの物語。最後まで読み終えた時、貴方ばどこまでも暗く深い悪意の存在に震撼する!(カバー折り返しより)
蓬色の漆喰、白い化粧瓦の屋敷。人形師の主人フレデリックと、部屋から出ない奥方のミリアム。唯一のメイドであるシャーロットは、奥方は人形でないかと疑う。
そして別の時代。日光を嫌う妹のために、蓬色の漆喰と白い化粧瓦の屋敷に家族で引っ越してきたルシアラは、以前の住人のものと思しき手記を手にする。
読み進めていく中で、だいぶと思い込みが強い言い回しが使われているので、かなりミスリードを誘われているなあとは思ったんですが、ラストが近付くといろんなブロックがすごい速さで組み替えられていって、ああそういうことなのか! という結末になるミステリーでした。読み終えてなお、何もかもが報われなくていやあな感じが残る……。救いになるような人が誰もいないせいだったのかな。
この作品は、フィクションです。
僕の夢は小説家だ。そのための努力もしてるし、誰よりもその思いは強い。お話をつくることを覚えた子供の頃のあの日から、僕には小説しかなかった。けれど僕は天才じゃなかった。小説家になりたくて、でも夢が迷子になりそうで。苦悩する僕のもとにやってきたのは、全裸のバカだった。大学の新歓コンパ。そこにバカが全裸でやってきた。そしてこれが僕の夢を叶えるきっかけになった。こんなこと、誰が想像できた? 現実は、僕の夢である『小説家』が描く物語よりも奇妙だった。(裏表紙より)
小説家になりたいと思っている『僕』。新歓コンパに乱入してきた全裸の『バカ』と関わるようになって、大学生活を放り出して執筆し始める。同級生の売れっ子作家、辛辣な甲斐抄子に近付き、やがて……という話から、いつの間にか創作なのか現実なのか分からない挿話が挟まって、あとがきを読んで悔しくなりました。第一章読み返したくなったわ!
全裸=自分の作品、さらけ出したもの。バカ=小説にとりつかれた者なんですね。バカはバカでも、愛すべきバカだなあなんて最後に思ってしまったのは、私自身もやっぱりバカだからなんでしょうかね。