読んだ本とか、漫画とか、映画とか、色々

《裏切りの勇者》。——それが、ルカの師であるエスベルトの呼び名だった。
魔物を引き連れ世界へ侵攻する厄災《魔女》。それを討ち倒し世界を救う《勇者》。
勇者が魔女を討伐する——何度も繰り返されてきたその歴史は唐突に終わりを迎える。
世界を救うはずだった勇者は、世界を脅かす魔女に下り、人類の敵となった——。
人々は次なる勇者を求めた。魔女を——そして裏切りの勇者を殺せる《英雄》を。
ルカは剣を振るい続ける。師匠を追い、真実を知り、師を奪った魔女を殺すために。
これは決して語られざる物語。魔女と勇者と英雄の紡ぐ、この世界最後の英雄譚。(裏表紙より)
白竜の花嫁シリーズ、アヴェントの娘など、少女向け小説で書かれている永野水貴さんが、MF文庫Jで刊行されたもの。少女の人が少年向けで出したんですから、読まないわけにはいかんでしょうよ!(鼻息荒く)
周期的に姿を現し、世界に災厄をもたらす《魔女》。それを倒す《勇者》を選ぶ機関がある世界で、魔女に寝返り人類の敵となった元勇者をかつて師と呼んでいた、勇者候補生ルカが主人公です。
勇者候補生として、神々の血筋を戴く都に作られた、養成所で訓練を受ける若者たちのなか、裏切りの勇者の弟子だったというルカは、異端であり、揶揄やいじめの対象になっている。けれど、ルカの力は彼らをも凌ぐ。それはただ、魔女のいる《黒の荒野》にいる師匠エスベルトを迎えに行くために。
ルカの必死さがいじらしいというか、そこまで頑張らなくていいんだよというか……。優しさよりも、小さな身体に厳しさと不屈さをめいっぱい詰め込んだルカは、見ていて痛々しいし、傷ついて歩けなくなったらとはらはらしました。そう、もうこれは傷つくんだろうな、というのが読んでいてありありと分かるんですよね……!
物語の結末は、ああ、このいびつで悲しい勇者の物語にふさわしい終わり方だな、と思えて、一巻完結ものとして、とても好きな余韻でした。これ、少女向けだったらルカの恋模様とかもあったと思うんですけど、それは想像で楽しめということか!
いつもと色が違っていて、また違った面白さのある物語でした。糖度、糖度、とか、楽しい話を、などと、少女向けでは言われるかもしれないけれど、こういう乾いている、悲しい、必死な子の物語も少女向けで出してもいいのではないかなー、と思ったりなどしました。
面白かったー!!
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辺境で育った少女・春嵐の平凡な日々は、春嵐を《公主》と呼ぶ黒龍の青年・黒淵の襲来により終わりを告げた。両親を殺され激情のまま龍へと変化した春嵐は、帝国の皇子・流星に捕らえられてしまう。人の姿に戻った春嵐は《黒龍の公主》として彼の監視下に置かれ、流星の邸で暮らすことになり…。
私は人なのか、龍なのか——。帝国を舞台に、龍と人が織りなす中華風ドラゴンラブ!(裏表紙より)
新作は、龍と人の中華風ファンタジーでした。竜はドラゴン(主に西洋の、翼があるもの)で、龍は中国や日本で描かれる蛇状のやつ、という書き分けですね。
物語における目的は、黒龍の公主が持っていると思われる宝珠を見つけ出すこと。泰国の皇子流星と、公主と宝珠を手に入れて一族の復活を願う黒淵たちと、自分自身が龍なのか人なのかを思い悩む春嵐と。
春嵐は寂しい感じは漂いつつも、両親や近所の人とちゃんと関係を作ることができた女の子だったのに、それを奪われて、という展開がつらい。奪った相手が、超絶艶っぽい黒龍の青年ってところがにくい……でも好き……。
今までのヒロインは、結構礼儀正しい物静かな感じの子が多かったのですが、春嵐はけっこうはっきりものを言うし、流星とはだいたいが喧嘩腰だし、大丈夫かこの子たちはちゃんと仲良くなれるのか!? とちょっとずれたところを心配しました。どっちもまっすぐだからさ……。それに、物語に書いていないところで、かなり不穏な動きがあるのがわかるんですよ。もう一人の皇子の紫霄とか、流星に仕える麗華とか、お腹の中に何か抱えてるんだろうという人たちが、二人に立ちふさがらないかと不安で。
春嵐の、人とはなんぞや、と問いかけるどきっとするシーンもあったりして、彼女の正体も意外なところに落ち着き、この先があるならどうなるんだろうと想像を巡らせています。

図書館における広報についての本。思ったより薄かったけれど、基本的なことがきっちり書かれていて、ほおほおなるほどなあ、と思いました。
この本でいう広報(図書館の)とは、宣伝活動のみではなく、組織的に繋がった上でそれぞれと連携しあいながらよりよく利用してもらうためのもの、と読みました。なので、実例も、単なる展示ではなく、例えば地元農業と繋がった「としょかん朝市」だったり、ある一分野に特化したりと、特殊な事例が紹介されています。
地域との連携というのは、難しいけれどやっぱり有効な取り組みだよなー、と思う。
いわゆる狭義の広報における、ポスターやパンフレットなんかも、作ってみると難しい。この辺りは、センスかなあ、とも思います。作るのが苦手な人もいますよね(と我が身を振り返る)。

翼を持つ民が住む北部と、翼なき民が住む南部。相争ってきた両国間でついに和平交渉が始まった。その席で、北部の女性外交官フェリータは、同じ和平への志を秘めた南部の大使アンドレアと出会う。
立場を越えて信頼を深める二人だったが、その彼は今、物言わぬ姿でフェリータの前に倒れていた。
捕縛された彼女の無実の訴えは北部への憎悪にかき消された。絶望するフェリータ。その前に現れたのはアンドレアの亡霊だった。
戦争を回避するため、真実を求めて逃亡するフェリータとアンドレアが辿り着いたのは——(裏表紙より)
立場の弱いながらも才能を認められつつある女性外交官フェリータ。若いながらも人に好かれ人道を敷く大使アンドレア。目的を同じくする二人だったが、フェリータが目覚めた時、アンドレアは血にまみれて倒れ、フェリータの手には彼の血に濡れた短刀があった。真犯人を見つけようとするフェリータが遭遇したのは、殺されたはずのアンドレア、の亡霊だった。
有翼人と、彼らが人間へと分化した世界観。物語は、人間側から有翼人に対する差別が障害となって事件化している。根強い偏見や差別が、悲しみを生み、この事件を生むことになった。なんだろう、世界が悲しんでいてどうしようもないことがある中で、結局すべては、人の物語、人の生きることにすべて繋がってるんだなあ、と感じた物語でした。和平とか、壁がなくなる、そういったものはすべて私たちのすぐそば、今この瞬間に失われるかもしれない大切なものたちに関わっていることなんだ、と他人事じゃなくなったというか。多分、それが見えていなかったのかもしれなかったのがアンドレアだったし、そう思ってしまったのが真犯人だったのかな、と。そして、フェリータはアンドレアと関わることでそれに気付けた。
フェリータが、少年、青年っぽい爽やかで凛とした性格でありながら、ちょっと可愛らしいところもあったりなどして、たいへん楽しかった。アンドレアは、生きていたらもっと楽しかったんだろうと思って悲しい。二人が成す未来を見てみたかったものです。

ウイルスさえも生存が許されない地の果て、南極ドーム基地。そこは昭和基地から1000kmかなた、標高3800m、平均気温-57℃、酸素も少なければ太陽も珍しい世界一過酷な場所である。でも、選り抜きの食材と創意工夫の精神、そして何より南極氷より固い仲間同士の絆がたっぷりとあった。第38次越冬隊として8人の仲間と暮した抱腹絶倒の毎日を、詳細に、いい加減に報告する南極日記。(裏表紙より)
映画「南極料理人」の元となった日記。南極には観測隊がいるのは知っていましたが、どんな生活をしているのかなんて想像もつかなかったので、興味深く読みました。だが、ますます謎が深まっていく……どれだけ過酷な土地なんだろう。普通(じゃないと思いますが)にちゃんと暮らしていけるのはすごいな。想像もつかない。
南極でもご飯が美味しいってきっと嬉しいよね、とそれだけは想像できそう。しかも高級食材ばかり……。食品は持ち込まなければならないのは過酷だけれども、工夫を凝らしてうまい飯を作る技術は心底尊敬しました。

昭和初期、女中奉公にでた少女タキは赤い屋根のモダンな家と若く美しい奥様を心から慕う。だが平穏な日々にやがて密かに”恋愛事件”の気配が漂いだす一方、戦争の影もまた刻々と迫りきて——。晩年のタキが記憶を綴ったノートが意外な形で現代へと継がれてゆく最終章が深い余韻を残す傑作。著者と船曳由美の対談を巻末収録。(裏表紙より)
昭和初期、女中として少女の頃から奉公してきたタキが、その奥様と家について語るもの。目次のデザイン(私が読んだのは文庫版ですが)がちょっと「おや?」と思うところがあったので、もしかしたらと思っていたんですが、最終章はやっぱり「えーっ!」と驚きました。
家を愛する人の執着は、どうしてこうも重苦しいのにいとおしいのかなあ。家と、そこに住む主人を心から慕う。それは、年老いた時に気難しいと呼ばれるくらいに、信仰みたいなものになっている。途中で挟まる、甥の孫の健史にイライラしていたんですが、最後まで読むとそれがくるっと変わる感覚が、怖くて面白かった。

小学校の女性教師が自宅で死体となって発見された。傍らには彼女の命を奪ったアンティーク時計が。事故の線も考えられたが、状況は殺人を物語っていた。ガラス切りを使って外された窓の鍵、睡眠薬が混入された箱詰めのチョコレート。彼女の同僚が容疑者として浮かび上がり、事件は容易に解決を迎えるかと思われたが……『慟哭』の作者が本格ミステリの極限に挑んだ衝撃の問題作。(裏表紙より)
とある殺人事件を、様々な人がそれぞれの思惑と推理で見た作品。もやもやするけど、そのもやもやが面白い! 人が死んだことを、それぞれに受け止めて、言い方は悪いけど自分の物語にしてしまう。そういう話が、もう本当に気持ち悪くて。
結局誰が犯人か、真相は、というところは明かされないので、ミステリというより人間の心理を描いた連作短編集だな、と思いました。面白かった。

連続する幼女誘拐事件の捜査は行きづまり、捜査一課長は世論と警察内部の批判をうけて懊悩する。異例の昇進をした若手キャリアの課長をめぐり、警察内に不協和音が漂う一方、マスコミは彼の私生活に関心をよせる。こうした緊張下で事態は新しい方向へ! 幼女殺人や怪しげな宗教の生態、現代の家族を題材に、人間の内奥の痛切な叫びを、鮮やかな構成と筆力で描破した本格長編。(裏表紙より)
「面白いから読みなさい」と本まで渡されてしまったので読みましたが、最後に自分があああああと胸をかきむしりたくなる、鮮烈な作品でした。どうして、こういう作品は、最後の最後にどうしようもないところでえぐってくるかな!?(歓喜)
幼女誘拐事件の捜査と、とある男の行動が交互に語られる構成。この二つが、どう交差するのか。段々と距離が縮まってくる感覚、けれど、最後の最後に……。途中で「あれっ」と思い始めたらネタが割れると思うんですが、それでも最後まで手に汗握りました。最後の一文がやるせない。