読んだ本とか、漫画とか、映画とか、色々

「僕のすべてが、君のものだ」
わたしはアヤンナ。醜い娘。
「おまえのような娘を妻にする男はいないよ。市場で夫を買ってこなきゃなるまいね」
亡き祖母はわたしに向かってよくこういったものだ。
だからいまでもわたしは市場が大嫌い。家畜を買うように夫を買わなければ、だれも愛してくれないほど醜いといわれたことを思い出すから。
けれど、魔女のわたしが見つけた美しいひとは、奴隷市場で出会った“彼”だった——。
醜い魔女の娘と美しい奴隷の王子。瓦解する帝国の辺境で二人は数多の物語を紡ぐ。(裏表紙より)
インカ帝国を下敷きにした民族系ファンタジー、というのか。雷神の存在があり、魔女がいて、奴隷が売り買いされるワカの国。アイユと呼ばれる血族の共同体に、お荷物として一人暮らす少女、アヤンナ。顔の半分にやけどの跡を負い、祖母からは「市場で夫を買ってこなきゃ」と罵られるみにくい娘。そんなアヤンナが出会うことになった青年リリエンは、金髪碧眼、白い肌の、美しい異人の青年。辺境で潰されてしまうはずだったアヤンナの人生に、光が与えられる。そういう物語。
かたくなに、一人、誰にも手を伸べられず生きていかなければならない運命だったアヤンナと、一人で生きることを知らなかったリリエンの不和、理解、寄り添い合いがとても丁寧で、苦しくて優しくて、すごくいい物語でした。
上辺だけで優しい言葉をかけられるヒーロー、は確かにとても甘くて素敵なんですけれども、リリエンのように傷ついてみにくいものを抱えているがゆえに、ひたむきに言葉を、アヤンナの言うようにそんなことありえないというような言葉を用いて伝えようとする、リリエンのまっすぐさに感動する。傷ついている二人が一緒にいるところが、すごく素敵だ。
結末に向けてはちょっと急展開でしたが、ラストがとても満足でした。そう、この物語は、まだ神様の存在を語れる時代の話だった。
表紙も素敵だし、帯もすごく素敵で、書店で一目惚れしていつか絶対読もうと思っていたので、読めて本当によかった。私の嗅覚も鈍ってないな! と自賛する。
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廓遊びを知り尽くしたお大尽を相手に一歩も引かず、本気にさせた若き花魁葛城。十年に一度、五丁町一を謳われ全盛を誇ったそのとき、葛城の姿が忽然と消えた。一体何が起こったのか? 失踪事件の謎を追いながら、吉原そのものを鮮やかに描き出した時代ミステリーの傑作。選考委員絶賛の第一三七回直木賞受賞作、待望の文庫化。(裏表紙より)
面白かった! 謎が一気に明らかになろうとするところで、頭の中でじゃんじゃか三味線と鳴り物の音が聞こえてきて、うおおおおと叫んだ! すごかった!
吉原の花魁葛城が忽然と姿を消した。素晴らしい花魁だったと誰もが口する葛城が、決して抜け出ることができない吉原から消えたという前代未聞の事件から、しばらく経った頃。ある人物が、葛城に関わる者たちに聞き取りを始めた。本文は、その聞き取りを行っているので、誰かが聞かれるままに喋っている調子で書かれています。
全員に話を聞いてからが本番。がーっとラストまでの展開が始まるのでページをめくる手が止まらなくなった。
吉原が舞台だと普段読んでいるもののせいで、ちょっとファンタジーなイメージを抱いてしまったままだったのですが、ラストでぴしっと「時代小説!」と締めてくれたのが気持ちよかったです。

音楽の”竜“は、“王者”に挑む!
再び季節はめぐり、次の竜ヶ坂祭りに向けて練習を続ける『ドラフィル』のメンバーたち。しかしそのさなか、響介のもとにある奇妙な依頼が舞い込んだ。依頼者の名は、七緒の育ての親であり、彼女を見捨てたはずだった女性——一ノ瀬真澄。その内容は真澄の姉であり、世界的ヴァイオリニストの羽田野仁美が所有するヴァイオリンの鑑定であった。所持した者に不幸を呼ぶという呪いのヴァイオリン《チェリーニ》に酷似した、その楽器の正体とは? そしてドラフィルの演奏会の行方は——。(裏表紙より)
ドラフィル三巻で完結巻。音楽と家族の物語。ドラフィルにまつわる、一ノ瀬家と羽田野仁美の因縁もようやく解き放たれる三巻です。そのせいか、中盤から暗い雰囲気がつきまとう。簡単に解消されないとはいえ、一ノ瀬姉妹の自責は重いなあ……。
「音楽家は音楽で語れ」というのを最後まで貫き通した三巻で、音楽を奏でなければ分かり合えないことが悲しいのやら、凄まじいのやらという親子です。絶対に譲れない一線を持つ、七緒と羽田野仁美は、理解しながら決別の道を辿る……という、最後まで研ぎすまされた関係の二人だったと思いました。
音楽に取り憑かれた愚か者たちの、不器用に迷いながら勇ましく戦う物語でした。濃かったー。

黒猫工房では、あなたの大切な本を修復いたします。魔法のような手わざ、傷んだ過去の思い出も、静かに包み込んで——(帯より)
風早街関連作品。風早の街に、祖母と叔母の初盆を迎えるためにやってきた瑠璃。一緒に行くはずだった家族は色々忙しいので瑠璃だけ前乗りだ。そこで、魔法のように本を修復するルリユールの外国人女性が住んでいるらしいと聞く。
自分の居場所を見失いかけ、後悔を胸に抱えている少女・瑠璃が、不思議なものを認める心の広さを得ていくための物語だったと思いました。これだけでは瑠璃の展望が開けたわけではないけれど、様々な可能性の種が眠っている年頃なので、ここから新しいものを見つけていくんだろう。
本の修復師ルリユールの女性、クラウディアの存在が、赤毛で魔女めいていて自信たっぷりでとっても可愛い、というのが村山さんの書くとっておきの女の人、という感じだなあ! 素敵だ。最新鋭の端末は、これ村山さんがツイッターで言ってたやつだーと思った。お好きなんだなあ。
特別、本の物語、というわけではなく、本を受け取る人たちの物語なので、本の物語を期待するとちょっと惜しい感じもするかもしれません。現実の中に、魔法の要素が完全に流れ込んできているので、そういう不思議さが面白かった本だと思いました。

“鐘”が響くとき、“竜”は再び現れる。
『お前にこれ以上、ヴァイオリンを続ける価値はない』
相も変わらず、竜ケ坂商店街フィルハーモニー、通称『ドラフィル』でコンマスを続けていた響介。しかし急にかかってきた父・統からの電話と唐突なその物言いに、響介のヴァイオリンの音色は大きくかき乱される。
そんな彼に発破をかける七緒だったが、彼女の元に送られてきた『ある物』により事態はより混迷を極め——!?
商店街の個性的なメンバーで贈る「音楽とそれを愛する人々の物語」待望のシリーズ第2弾が登場!(裏表紙より)
ドラフィルシリーズの二巻目。今回もたっぷりどっぷり音楽と人のお話でした。この物語の重みはなんなんだろうなあ。音楽というものが、才能の重さがとても大きいからだろうか。最後の話に向けて、悩みが深くなり、ゆっくりともがきながら進んでいき、最後の瞬間に理解がやってくる感覚が、この話がすごく面白いところだと思っています。
一巻目は母と娘の物語だったのが、今回は響介と父親の物語。今考えると、そこに至るまでの話(連作中編の形になっているので)がちゃんと全部伏線になってるのがすごい! それぞれの家族の形があるけれど、根底にあるものはみんな似ているのかも。
最後の定演のシーンはやっぱり震える。面白かった。

でたらめな地図に隠された意味、しゃべる壁に隔てられた青年、川に振りかけられた香水、現れた住職と失踪した研究者、頭蓋骨を探す映画監督、楽器なしで奏でられる音楽。
日常のなかにふと顔をのぞかせる、幻想と現実が交差する瞬間。美学・芸術学を専門とする若き大学教授、通称「黒猫」は、美学理論の講義を通して、その謎を解き明かしてゆく。(カバー折り返しより)
読んだのは単行本。最近よくタイトルを見かけるので読んでみようと。
若干事件性があったりもする謎を、美学・芸術学の天才教授通称「黒猫」と、その付き人を任された院生の「私」が解いていく、連作短編集。教授という設定を存分に生かした、ポオをはじめとする文学、建築学などの講義(うんちく)が挟まり、それが謎の答えに関わる、という流れ。文章はあんまりお上手ではないと感じたのですが、謎の提示、解決に至るまでに、黒猫と私さんのキャラクターが表れる部分が面白くて、すいすいと読めて楽しかったです。表紙も可愛い。

旅仕事の父に伴われてやってきた少年とある町の少女との特別な絆。30年後に再会した二人が背負う人生の苦さと思い出の甘やかさ「イラクサ」。孤独な未婚の家政婦が少女たちの偽のラブレターにひっかかるが、思わぬ顛末となる「恋占い」。ただ一度の息をのむような不倫の体験を胸に抱いて生きる女性「記憶に残っていること」。不実な夫が痴呆症の妻によせる恋にも似た感情「クマが山を越えてきた」など、驚くべき完成度の全九篇。(帯より)
2013年ノーベル文学賞受賞者、アリス・マンローさんの短編集。普段こういう受賞作とか受賞者の作品は好んで読まないのですが、女性が書いているというのが気になったのでめずらしく読んでみることにしました。前情報は、カナダ文学の人、短編の名手と言われていることくらい。
「恋占い」「浮橋」「家に伝わる家具」「なぐさめ」「イラクサ」「ポスト・アンド・ビーム」「記憶に残っていること」「クィーニー」「クマが山を越えてきた」の九編なんですが……失礼ながらタイトルだけでどんな話か想像するのが困難な短編が多いです。しょっぱなの「恋占い」はこのタイトルなのに「孤独な未婚の家政婦が少女たちの偽のラブレターにひっかかるが、思わぬ顛末となる」話なのですが、読み終わった後タイトルと本文を眺めやるとちょっと不思議な印象になる。「恋占い」って最終的にどういうこと? みたいな。
すべての短編が、人生の苦さ、過去のきらめき、貧しさと裕福さといった少し物寂しい雰囲気を漂わせている。読み終わった後は、田舎の人々のあるあるな人物像や、家族、両親と子、夫婦の時折目に映る亀裂や、亀裂そのものが入る瞬間のことなどを上手く描く方なのかなあと思いました。そういう海外の田舎や家族がどういうものかという知識がないので、そういうものなのかと勉強になった。
短編ばかりなのに、情報が多く、人生のある時点でその人が過去を振り返ったりなどするので、人の生活、人生がぎゅっと詰まっているので読み応えがありました。確かに名手と呼ばれるだけはあるなあ。

お仕事を持つ女性へのインタビュー集。靴職人、ビール職人、染織家、活版技師、女流義太夫三味線、漫画アシスタント、フラワーデザイナー、コーディネーター、動物園飼育係、大学研究員、フィギュア企画開発、現場監督、ウエイトリフティング選手、お土産屋、編集者。以上のお仕事をしている女性たち。
面白かった! 色々あるんだなあ。物作りをしている人もいれば、育てる人、研究する人、運動する人、色々あって、皆さんどうしてその仕事を選んだのかという物語が面白い。全然筋違いのところからやってきた人もいたり、そのために学校に通ったりする人もいたり。
読んでいて噴き出したのは、大学研究員の方へのインタビュー。研究者ならではの呼び方がおかしかった。研究している人のことを「カエルやってるビル」とかいう呼び方をするのは、活字にするとおかしい。

薄い壁、漏れ聞こえる生活音、おんぼろの木暮荘に、少しだけ風変わりな住人とその周りの人々がいる。昔の男が突然姿を現した女性、セックスしたいという欲求を抱えた老人、秘密を抱えたトリマー、夫の深夜の不審な行動を見咎める花屋の女主人、住人を覗く男、赤ん坊を預けられた女子大生、かつての恋人を忘れられないカメラマン。連作短編集。
明るい方かなと思っていたら、どっちかというとちょっと変な方向で、暗めの話が多かった。それでもやっぱり妙なおかしみがあって面白いんだけれど、私が今読みたいのはこれではなかったー(『お友だちからお願いします』『本屋さんで待ちあわせ』の流れだったので……)しかし「柱の実り」は好きだった。幸せな結末が見えないけれど、その時々にぎゅうっと幸せな気持ちがするような恋愛ものが好きなのだ……。
最後の「嘘の味」のニジコが誰に繋がるのかなと思ったらそう来たか! というのがおかしかった。小ネタみたいなのだけれど、輪になってたーとちょっと嬉しかった。連作短編のそういうところが好きです。

私はふだん、「アホ」としか言いようのないエッセイを書いているのだが、本書においてはちがう!(自社比)よそゆき仕様である!(あくまで自社比)
大きく出ましたね、自分。本当によそゆき仕様かどうか、ぜひお読みになってたしかめていただきたい。(カバー折り返しより)
新聞雑誌などに掲載されたエッセイをまとめたもの。『本屋さんで待ちあわせ』の対になる一冊でこちらもよそゆき仕様ということですが、確かによそゆきだった。変な人も出てこないし、何かにのめり込んでおかしくもなっていないし、妄想も出てこなかった。残念。しをんさんとお友達のちょっとおかしい妄想が好きなのに。
しかし、電車の中の会話が面白いな! えっと思うような会話をしている人たちって確かにいる。特に学生の会話って、どっか飛んでて面白い。
学生同士で、男子が大人数でつるんでるというのも分かる分かる! という感じ。男子は多い。あれはあれで、絶妙なバランスをとってグループになってるんだなー。