読んだ本とか、漫画とか、映画とか、色々

19世紀帝政ロシア。父の死をきっかけにある能力に目覚めた少女オリガは、早春の公園で見たくないものを見てしまう。止むをえず少年の失踪事件捜査に関わるのだが、行く先々に現れるいわくつきの副署長ロジオンに、腹が立つやら調子を狂わせられるやら。しかもこの副署長、女性問題で地区警察に左遷されてきたという噂…。秘密を抱えて奔走するオリガに、いたずらな春の風が吹き始める…!(裏表紙より)
ロシアの空気を味わえる作品だなあと思いました。すごく雰囲気があって、寒さや暗さをすごくよく感じる。
貴族の子女オリガは、父の死をきっかけに伯父の屋敷で暮らしている。絵が描くことが好きな彼女は皇后の犬を描いたことさえある。でも「人の死ぬ直前からその瞬間までの姿が見える」という能力は秘密だ。ただでさえ変人扱いされている彼女の周りには、イギリス人弁護士アーサー、憲兵将校レオニード、元近衛隊中尉現地区警察副署長のロジオンなど魅力的で一癖も二癖もある男性陣が揃っている。……でも恋愛的甘さにならないのがいいよなあと思いました!笑
事件を追ったり、追及をかわしたり、危険な目にあったりするのですが淡々とした調子で進み、最終的に大きな謎である「父の死」については明らかにならないのが残念……。
しかもあとがきにも事件が。迷い犬だったり死臭のする米袋だったり、すごいな!? と別のところでもまた思ってしまいました。
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18世紀ロンドン。外科医ダニエルの解剖教室からあるはずのない屍体が発見された。四肢を切断された少年と顔を潰された男。戸惑うダニエルと弟子たちに治安判事は捜査協力を要請する。だが背後には詩人志望の少年の辿った恐るべき運命が……解剖学が最先端であり偏見にも晒された時代。そんな時代の落とし子たちが可笑しくも哀しい不可能犯罪に挑む、本格ミステリ大賞受賞作。前日譚を描く短篇「チャーリーの災難」と解剖ソングの楽譜を併録。解説/有栖川有栖 (裏表紙より)
これを書くまで「開く」じゃなく「聞く」だと勘違いしていた。解剖だから「開く」なんですね。
解剖教室から発見された屍体と、それを巡る謎。捜査する盲目の治安判事サー・ジョンやダニエルたちの視点と、殺されてしまった詩人の少年ネイサン・カレンの視点が交互に語られていく。偏見に満ちた時代のものを読むと、そうしたものが登場した瞬間にこれが鍵だなと思うようになってしまったんですが、それでも最後にはあっと驚かされました。
結局どういう話だったのかなと考えてみたんですが、うーん結局愛されたかった人のお話だったのかなあ。お金よりも仕事よりも、誰かがそばにいることを求めていた人たちがいたということなのかも。もっとちゃんと噛み砕けるんだと思うんですが、切ない読後感がまだ強くて、うまく考えられない……。いやしかしすごい作品でした。
っていうか続編があるのか! それは読まなければ。

元士族・橋本家のおてんば娘、有栖は怒っていた。ある日突然、縁談を決められてしまったからだ! 相手は年上の従兄、春日要——。富豪の両親のもと、何不自由なく育った要は、知的で優しい美貌とは裏腹に、悪戯好きでキザ、おまけに素人探偵気取り…と大変な問題児! どうやら、彼との(強引な)縁談には、ある人形の紛失事件が絡んでいるらしく…!? レトロモダンなロマンティックミステリー(裏表紙より)
大正もの。短編連作です。おてんば娘な主人公以上に曲者な、口が上手くて有栖を口説いてばかりいるけれど冗談なのか本気なのかわからない、従兄のお兄様がお相手。女学校のシーンは少なかったのが残念だったのですが(大正の女学生大好き)、さらりと登場する当時の風俗が面白くて楽しかった。
口説いてくるお兄様のずるさがなんとも言えずにやにや。義堂氏とのやりとりは結構焦っていたし本気で張り合ってたんだろうなあ、なんて思うとふふっとなる。
最後のお話「おうちに帰るまでが誘拐です」のラストの清々しさ、かっこよさ、センスのよさにはにやにやにやにやしてました。こういうハッピーエンド! なラスト大好きだ。

フェアリーの気をひくな。フェアリーを見つめるな。フェアリーを見る力を持つ少女アッシュリンは、彼らの不気味な世界など、見えないふりをしてきた。ところがある日、人間の男の姿をまとったフェアリーに誘いをかけられる。人間とフェアリーの間で揺れるアッシュリン。RITA賞YA部門受賞、ローカス賞推薦作品に選ばれた、ロマンティック・ファンタジーの決定版。シリーズ開幕。(裏表紙より)
フェアリーを見ることができる17歳の少女のロマンス。作中にも匂わせるものが出てきますが、ステファニー・メイヤーの『トワイライト』の流れをくむようなYA小説です。いろいろとものすごく現代的。
アッシュリンの学校での位置ははっきりしませんが、フェアリーが見えるせいでいきなりびっくりしたり、男性に対する経験が少ない、真面目よりの風変わりな子という感じ。友人はいますがみんな奔放なので、妖精との関わりを恐れて常にびくびく警戒しているアッシュリンはいまいちそれに乗り切れない。でも、アッシュ以上に風変わりな青年セス(親から譲られた財産で列車の車両を買い、それを家に改造して暮らして、学校に行かずに大学に行くかアートスクールに進学するか考えている。口にピアスを開けている)とは友達以上恋人未満の関係。
そんなアッシュリンが、サマーコートとウインターコート、簡単にいうと夏のフェアリーと冬のフェアリーの争いに巻き込まれ、サマーコートの女王になるかどうかの決断をせまられる。
結末はハッピーエンドで、意外なほどうまくいったなあという感じ。アッシュリンを誘惑するサマーコートの王キーナンは、アッシュの前に失敗してしまった女王候補のドニアにまだ気があり、ドニアは女王になる試しが失敗した時に「次に試しを受ける者に警告する」という義務を負うのでよく登場してキーナンのことを忘れられないでいるのがわかるのですが、こちらもうまくいって。羽住都さんの表紙の美しさから想像していなかった軽さだったのでちょっとびっくりしたのですが、結末が面白かったです。

オンブリア——それは世界でいちばん古く、豊かで、美しい都。そこはまた、現実と影のふたつの世界が重なる街。オンブリアの大公ロイス・グリーヴの愛妾リディアは、大公の死とともに、ロイスの大伯母で宮廷を我が物にしようとたくらむドミナ・パールにより宮殿から追いやられる。だがそれはふたつの都を揺るがす、怖るべき陰謀の幕開けにすぎなかった……2003年度世界幻想文学大賞に輝くマキリップの傑作ファンタジイ!(裏表紙より)
亡くなった大公の愛妾リディアが、宮廷を追い出されるところから物語は始まる。ドミナ・パール(黒真珠)と呼ばれる老獪な女によって宮廷が支配されていく中、亡くなった大公の妹の子ながら父親が不明の父なし子と揶揄されるデュコンや、地下世界影のオンブリアに暮らす魔女フェイ、その蝋人形のマグが、光と影の世界の変革の現場に居合わせることに。
美しいと言われながらも薄暗く古びたオンブリア。ごちゃごちゃとして判然としない魔法が潜む影のオンブリア。表裏になった世界を行き来する者たちが最後に目にするものは、混然としていた世界の縁が綺麗に整理された新しい世界……ということでいいのかな。光は光に。影は影に。繋がってはいるけれど影が光の世界を支配することはない、という感じ。
最後に変化した人たちの姿が見られるのは楽しいですね。リディアが生き生きとしているのが嬉しかったですし、父親に笑顔で迎え入れられたのもじんわりと感動しました。

帝ご寵愛の猫はどこへ消えた? 出産のため宮中を退出する中宮定子に同行した猫は、清少納言が牛車に繋いでおいたにもかかわらず、いつの間にか消え失せていた。帝を慮り左大臣藤原道長は大捜索の指令を出すが——。気鋭が紫式部を探偵役に据え、平安の世に生きる女性たち、そして彼女たちを取り巻く謎とその解決を鮮やかに描き上げた絢爛たる王朝推理絵巻。鮎川哲也賞受賞作。(裏表紙より)
のちに紫式部と呼ばれるようになる女性を主人に持った、あてき。あてきは猫が大好きでしょっちゅう拾っては世話をしている。そんなあてきの少女時代の、猫失踪事件。彼女が大人になって夫を迎えた頃に起こった、失われた一帖の謎。二つの事件と源氏物語が絡み合う話。
ミステリーというよりはなんというか、その当時の女性の立場や、女性のものだった仮名、その文学がどのように扱われ、受け止められていくかということの方が読んでいて興味を惹かれたなあ。自分の書いたものがどんどん世に出て、自分でコントロールできなくなる恐怖も描かれながら、時の権力者にいろいろなものがあっけなく奪われてしまう時代、あなたであっても「人の心は自由におできにならない」と言い切る紫式部、自分の聖域を守った彼女が気高くてかっこいい。

趣味には理解者が必要だが、理解者に振り回されてはいけない。なぜなら趣味は、あくまでも個人的で我儘なものだからだ。この本は、啓蒙本でも入門書でもない。飛行機模型や庭園鉄道をはじめ、多くの楽しみを知る著者が、韜晦も含めて記す優雅な趣味の日常と思考。単行本未収録の連載3回分を含む完全版文庫化。(裏表紙より)
庭園鉄道のことは知っていたけれども、改めて、こんなにたくさんおもちゃを持っているのかあ、と思いました。これだけものがあっても、これだけ並べるところがあれば楽しそうだ。
趣味のことを、親が笑って見守ってくれるとか、やりたいと思ったことをやらせてくれるっていうのはいいなあとしみじみ。趣味を持つとか楽しむとかって、認めてくれる人がいないと結構難しいことかもしれないと最近思うので。

代々『王家の蝙蝠』と呼ばれる諜報活動を生業としてきたラグランド伯爵家。ある日、当主である祖父に呼び出されたアイリーンは、兄の不始末から突然跡継ぎに指名されてしまう。しかし、アイリーンは筋金入りの男嫌い! 婿をとって子など産めるかと即座に拒絶したところ、とんでもない男が部下としてやってきて!? その恋は、死ぬほど甘い蜜の味——。男嫌いの荊姫と退屈を持て余した切れ者従者との、人生を賭けた甘くて危ない下克上ラブ!(裏表紙より)
フェチズムがすごい笑 『幽霊伯爵の花嫁』の宮野さんらしい、普通の皮を被りながらいろいろぶっとんだ設定や会話が非常に楽しくて、ときめきました。
男嫌いな上に、超絶美女で女たらし、諜報任務もお手のもの。主人たる王女殿下の覚えもめでたい完璧な女性。切れ者というよりは、相手の考えていることを即座に見抜いて恐れられてきた青年ヴィルは、そんな彼女の超然とした態度にどんどん引き込まれていく。
二人のやりとりで、普通にひっぱたいたり、足で踏んづけたり、蜂蜜を口移しにしたり、もう本当にエロスとフェチズムがすごいんですよ! アイリーンの超人ぷりに惚れ惚れすると同時に、どきどきしちゃいました。

安渓村の水華は、紡ぎ場で働く一介の紡ぎ女。繊維産業を誇る白国では、少女たちが天蚕の糸引きに従事する。検番に怒鳴られながら過酷な作業を繰り返す日々のなか、墜死をとげた友の真相を探るかのように水華に接触してくる謎の青年。だが運命の日は突然やってきた。千人を超す紡ぎ女が集められた広場に現れたのは、この国の若き王。機織りの腕を買われた水華は、神に仕え、王のために布を織る巫女に任ぜられる。(裏表紙より)
貧しい村の家の出身で、真面目で決して器用ではない性格だけれど、友人を大事にし、しかし時には揺れることもある、本当にごく普通の少女、水華が主人公。普通というのは正しくは違うかもしれないんですけれども(家族が冷たいとか、贅沢を知らないとか)この子は正しく、まっすぐだけれど危うい、強いヒロインだよなあと思いました。
糸紡ぎに関するいろいろなところが分かりやすく書き込まれていて、糸引きや機織りというモチーフにどきどきしました。いやあ、機織りの巫女姫っていいなあ。そこに王様がふらっとやってくるっていうのもときめきです。
その王様は第一印象が最悪なんですが笑 ここから男前なところが見られるはずなのに、続きが出てないのが悲しい……。友人の死の真相を握っているらしい人物が出てきたところで引きなので、じれじれします。
面白かったです! 続きが読みたいー!

死人が見える目を持つ黄泉がえりの誠二は、生きている実感を持てず、日々を怠惰に過ごしていた。だが深夜の妓楼で美青年を従えた妖艶で高慢な少女、紅羽と出会う。どこへでも出入りできる不思議な鍵を持ち、化け物姫の異名をとる紅羽。「わらわの下僕となって働け」と、街で起こっている殺人事件の解明を手伝うよう命じられ、自らの力を疎ましく思っている誠二は拒絶するが……。
黒船来航後も江戸が続いた世界。吉原通いをする大店の息子、誠二は、子どもの頃に生き返り、左目に死人を見る力を持つようになった。大店の『守り神』として大事にされる誠二は、名とは裏腹に不誠実で、女郎たちに詰られる。そんな時、馴染みにしていたある女郎が殺されて……。
自分の居場所はどこなのか。生きているってどういうことなのか。実感が欲しい、悲しくて寂しい青年が主人公です。ふらふらしているこの誠二、頭が悪いわけでもなければ良心がないわけでもないので、かなり不自由に生きているなあと読んでいて思う。割り切って面白がればだいぶと楽になりそうだけれど、優しい人だから悩むんだろうなあ。
鍵の姫たる、あらゆる場所に鍵一つで出現することができる紅羽は、可愛らしい少女の部分と、鋭い探偵の部分があって、すごく美味しいキャラだ笑 ひっそり控えている十夜もいいキャラしてて、続きが気になるけど……ああー!